解説:まだまだ先は長いな
私は受話器を再度持ち替えた。そして少し声量を落とす。
「…妙な点がいくつかある」
『妙な点?』
ルカも私の様子が変わり、真剣に聞き返した。私は頷く。
「内部を改めて調査した奴等が言うには、アルミニウムの製造工場なのにいくつも要らない機械があったらしい」
よくよく考えれば、保管庫にあったアルミ粉末や、クロムによるメッキ処理などおかしい事がいくつもある。
例えば、アルミニウムに防錆処理を行うのなら、放置してアルマイトを形成すれば済む話だ。
むしろ、瓶に詰められたアルミ粉末はメッキ処理もされず、空気に触れないよう密閉されていた。
『別の何かを作ろうとしてたって事か?』
「分からない。アルカナの技術力は、飛び抜けてるからな」
ただ、普通の生産工場ではないだろう。なにせ、あの風見がいたのだから。
『まだまだ先は長いな』
ルカはため息混じりに言う。嫌味か、と私は電話を切ってやった。
私は受話器を置き、伸びをする。
取り敢えず、火の国とは同盟を結べた。これでようやく次の国に行ける。
「さっさと終わらせるか…」
そう言いつつも、ナギが元の世界に戻るのはこの半年後であった。
風見はアルカナの建物内に転移すると、転移装置を破壊した。
この装置は、よくて数10km離れた場所にしか移動出来ない。この程度の物なら、1つぐらい壊しても問題ないだろう。
「部下達はいいのか?」
不意に声をかけられる。風見は振り向きもせずに答えた。誰だか分かったからだ。
「下っ端ばかりだし、大した情報なんてもってないわよ」
それに、たかが火の国騎士団程度でやられるような部下など足手纏いにしかならない。
風見の言葉に、日向は首を竦めた。
「ひどい奴。ナギもいたんだろ?」
「…何故知っているのかしら」
風見は日向へ振り向くのと同時に、拳を突き出す。日向はわざとらしい笑みを浮かべながら、軽々と避けた。
「さぁね。俺はあいつの事をよく知っているからな」
あっそ!と風見は吐き捨てる。拳を収めると、日向の事は無視して部屋を出ようとした。しかし
「ナギは生きてるぞ」
その言葉に、動きを止める。日向はニヤニヤと意地の悪そうな顔をした。
「有り得ない」
「あいつの図太さを知っているだろ」
それこそ、俺以上に。
日向の言葉に、風見は「何言ってるのよ」と苛立ちながら、今度こそ出て行った。
残された日向は、哀しそうにーー憐むように呟いた。
「知っている筈なんだよ、風見」
「そんな所にジフェニルカルドバジドが落ちてるなんて不自然だろ!」と言わないでください。お願いします。
伏線をもっと書けばよかった…(>_<)
【羽をもがれた妖精は復讐を謡う①】の時系列に戻るには、ルカが言ったようにまだまだ長いです。
心優しい方、お付き合い願えれば幸いですm(_ _)m
ちなみに次は、本編には関係ない小噺が入ります(・∀・)