過去編-あの子は今
「久しいな、サルトゥス」
「まさか、君にまた会えるとはね。ルーカスには会ったか?」
「いや、いないのを狙って来た」
外に仕掛けられていた罠から、サルトゥスとは別の人間がいるのは分かっていた。あとはサイコメトリで家の中の様子を窺い、遠くに行った事を確認して中に入る。
「おそらくルーカスは、君が来た事に気付いてもいないだろうね」
サルトゥスが創り上げた強固な結界。あれを破るのは難しい。そしてそれ以上に、壊さず解除し元に戻すのは、至極困難である。
それをミランダは、簡単にやってのけるのだ。
「君は今、何処で何をやっているんだい?」
「アルカナで働いてる」
此処にきたのは、偶然近くの鉱山で任務があったからだと説明した。
「君が普通に社会人をしているって、なんだか似合わないなぁ」
「似合わないなんてアンタに言われたくないよーーー慣れない自給自足に、無理が祟っているんじゃないか」
流石に君にはお見通しか、と力なくサルトゥスは笑う。私は「バカが」と吐き捨てた。
「こんな所に隠れ住むより、街で普通に暮らす方がずっと見つからないだろうに」
「そうかな?木を隠すなら森の中と言うけれど、情報社会の現代、簡単に個人など特定できるだろう?」
私はグッと拳を握る。そう、どんなに隠そうと情報は漏れる。ーーー特別な力でもなければ。
私は意を決した眼差しをサルトゥスに向けた。そして
「あの子は今、"凪"として生きている」
凪、と言う言葉にサルトゥスがピクリと反応した。
「…どちらの意味だ?」
「経緯を考えると、おそらく本来の意味の方だーーーだが」
言葉は時代と共に意味が「転じて」変化する。
「あの子は賢い。故にあいつらが手放すとは思えない」
「一度棄てたのに?」
「奴らは自分達がした事を“試練を与えたのだ”と言い換えるだろうさ」
奴らの狡猾さが頭に来る。そして見て見ぬフリをしていた自分にも。
「過去編-私は貴方に復讐する」で、サルトゥスがナギの事を知っていたのは、ここでミラと会っていた為です。