過去編-なら、坑道内部は任せた!
地下坑道を掘削するに伴い、地下水に溶け込んでいたメタンガスが湧水とともに発生する。今回、地下ではないのだが、山が蓄えていた分が地上付近にあるのだろう。
「対策は何をされているのですか?」
「ガス感知センサーが等間隔に付いているし、換気扇とガス用排出管から随時換気と排気している」
そう言って、壁に貼ってある坑内図を示した。赤い点が感知機の位置を、青い線が排気ルートの様だ。そして地図には何箇所かにバツ印が付いている。ピンッとくる。
「バツの所が、爆破されたところか」
「あぁ、ちなみに俺が見かけたのは此処だ」
と言って示されたのは、中心部。うーん、と私は腕を組み少し考える。
「行くのが一番早いよな」
と言う私の言葉に、ナギは「ですよね…」と嫌そうな顔をしたのだった。
ヘルメットと安全靴を装着して、私達は薄暗い坑道を歩く。暑い。
「此処に入る前に通った掘削中の方は、快適だったな」
私はパタパタと手で顔を仰ぐ。この古い坑道に入る前に見せて貰ったが、あちらは全体は明るく照らされ、空調も調整されていた。対して此処は蒸し暑い。
「暑いし、暗いし、歩き難いし…」
挙句、師匠はこの場に居ないし。私は此処に来るまでのやり取りを思い出す。
「ところで師匠、サトリ対策はどうする気ですか?」
師匠は「考え中」と答えた。私は溜息混じりに言う。
「サトリと直接遭ってしまった場合は、使わないで下さいよ」
分かっているわ、それくらい。と言う顔をする師匠。
サトリは心を読む妖怪だ。もし師匠がサトリをサイコメトリした場合、師匠は自分の頭を覗く事になる。
サトリの頭を読んだ師匠を師匠が読み、それを読んだサトリを師匠が読み……とループするのだ。
喩えるなら、合わせ鏡をして手前の自分から順に鏡の中の自分を見ていくような感じである。
永遠に続くソレは、いつか必ずキャパオーバーを起こす。そして師匠の脳は破壊されるだろう。
「まぁ、触りさえしなければいいのですが…」
と私が呟くが、おそらく無理だろうと思う。
「師匠って、攻撃は最大の防御って思うタイプですよね…」
出会い頭、反射的に一発かますでしょう、と呟くと師匠は私の呟きにニッコリ笑い
「なら、坑道内部は任せた!」
と言ったので、私は余分な事を言ってしまったと後悔したのだった。




