◇これは"復讐劇"◇
アテナは眼下の様子を愉しげに見ていた。
「天を仰げど、お飾りの翼では飛ぶ事など出来ないわよ」
「……」
竜巻の中心には一人の男が立っていた。宙に浮き、自分を見下ろすアテナを睨む。
アテナはその様子に、声をあげて嗤った。
「何故、理と同等である己がこんな目に遭っているのか分からないでしょう?」
竜巻つまり風ーーーもっと言うと四大元素は理の下にある。たとえ上位者が起こした竜巻であろうと、竜巻自体は理の下にある物。ヒナタが干渉して打ち消す事は出来るーーー筈だった。
「何故ーーー」
風の檻に囚われる。
苦々しくヒナタはアテナを睨むしか出来なかった。
「何故こんな事を!?一体何が狙いだ!」
「自覚しておいた方がいいと思ってね。なぁに、単なる老婆心よ」
アテナは艶笑を浮かべる。
「これから物語は核心へと近づいて行く。最終幕の為にね」
アテナの浮かべる笑みに、ヒナタの背筋が凍る。なんて残酷な表情をするのか…。
アテナはパチンッと指を鳴らすと、一瞬にして竜巻が消える。
相変わらず見下ろしながら、アテナは言った。
「宣誓するわーーー貴方は今世では神になれない」
「なっ…!!」
驚愕するヒナタに、アテナは先程まで浮かべていた笑みを消した。
無表情で抑揚の無い声で言葉を続ける。
「情とか価値観とかそんな些細な事ではなく、あの時、貴方は神に至る為のエネルギーを殆ど使い切った」
「!!」
思い当たる事がある。ヒナタは「まさか」と呟いた。
「自然回復を待っていたが…」
「無理よ。たとえリヒトシュタールが大量にあろうと、ね」
アテナはゆっくりと目を閉じる。
「私達は神の名を語るけど、別にその名の通りの存在ではない。海の神だろうと火を操るし、狩猟の女神だろうと空間や時間に干渉出来る」
では何故、そんな名前を名乗るのか。アテナはゆっくりと目を開けた。
「己が信条を忘れぬ様に。一番近い神の名を使う」
では、ヒナタは?
「諸説あるけれど、ケツァルコアトルは人身御供を止めさせた神よ」
「……」
アテナの言葉に、日向は拳を握り締めた。その様子にアテナは満足したのか、微笑を浮かべる。天を仰げば、先程までの曇天が嘘の様で、今は雲一つない。
目を細め、アテナは呟いた。
「これは"復讐劇"」
さぁ、私の眷属よ。貴女はちゃんと謡えるかしら?
明日は更新休みます。
次回更新→9/24
伏線でもなんでもない所:
アルテミスは『月の女神』として有名ですが、個人的には『狩猟の女神』と言うイメージの方が好きなのでそうしました。
なんの意図や伏線はありません。