小噺⑤
前ページで執筆中の下書きが残っていた箇所があり、削除致しました。
変な文章になってしまい、申し訳ございません汗
久しぶりに、現代編での小噺です。
秋も過ぎ、冬の寒さが厳しくなる手前の頃の事である。
「本マグロが食べたい」
と俺のベッドで寝そべっていたナギが言った。昼ごはんの準備をしていた俺は「は?」と聞き返す。
ナギは「マグロだよ、マグロ!」と今まで見ていたスマホの画面を俺に見せてきた。そこには『今から旬になる食べ物10選!』と書いてあり、マグロの刺身が写っている。先程までネットニュースを見ていて「風の国で突如、竜巻が発生だって」とか言っていた筈なのだが、いつのまにグルメページに移行したのだろう。
俺は「スーパーで買ってくるか?」と呆れながら返した。おそらくナギの求めているのは、そう言う事ではないだろうと思いながら。
「嫌だ」
だろうな。俺は「魚河岸にでも行く気か?」と首を傾げる。ナギは仰向けのまま腕を組み少し考えると
「いや、あいつを使おう」
と言って、俺に向けて手を出した。俺はスマホを返す。
「あいつって…まさか」
魚介類となると、氷雪の国の烹鮮を思い出す。数年前にあった密輸事件があった港街だ。そしてそこの知り合いと言えばーーー
現在、俺は火炎の国にいる。以前、オリーブオイル事件があった国立広場だ。
「日向かと思った?流石にそれは出来ないよ」
ナギは得意げに笑う。
「今日が暖かくて良かった。寒空の下だと流石に悪いからな」
「だからって…お前」
マグロが食べたいナギは、火炎の国に『マグロの解体ショー』と言う企画書を提出。あれよと言う間に準備を終え、現在に至る。おそらく協力させられたのはフルメン中将だろう。きっと今頃、胃薬でも飲んでいる筈だ。
「己が欲求を満たす為に、ここまでやるか…」
「ルカは食べないのか?」
「…食べる」
ハイッと解体されたマグロの切り身を差し出される。醤油をつけてパクリ。うむ、美味い。
チラリとナギを見ると「幸せ…」と惚けていた。
「暫く、毎日マグロでもいいかも」
「飽きるわ!」
それに確かマグロみたいな大きい魚って、毎日食べてはいけないと聞いた事があるぞ。
ナギは「冗談だよ」と食べながら斜め上を見た。どうやら何か記憶を探っているようだ。
ゴクンと飲み込むとナギは答えた。
「確かに食べる量は気をつけた方がいいかも。食物連鎖の過程で、水銀を体内に蓄積するからな」
魚介類はEPAやらDHAと言った高度不飽和脂肪酸を含む、所謂「体に良い」食材として認識されている。だが、魚が体内に蓄積し濃縮された有害物質がヒトの口にーーーもっと具体的に言及するのならば、妊婦が口にした場合の胎児の影響が懸念されている。
「本マグロとかは、週に一回までって規定されているしな。けど、魚の種類ってことより生息地とかの水質、つまり水銀濃度の影響が大きいと思うぞ」
極端な事を言って仕舞えば、外界から切り離された有害物質が一切含まれていない生簀で養殖したモノならば問題ないだろう。まぁそんなもの、この世界には存在しないのだが。
「食べ続けなければ死ぬ、みたいな事がなければ、必要以上に食べないようにした方が無難だな」
と、ナギはまとめたのだった。