裏-どう言う事…
今日もまた、月がない夜ーーー私の髪の様だと、統治者は言った。
「スピルリナの施設だが、アルカナに取られた」
私の上に被さって言われたその言葉に、私は驚きの表情を浮かべてしまった。「そんな…」とつい呟いてしまう。
統治者はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「お前のその顔が見れた分、優しくしてやるよ」
そう言われ、私は屈辱と苦痛に顔を歪めたのだった。
翌日、私は菴羅についての詳細を知った。苦々しく「アルカナめ…」と呟く。
菴羅とは仏教用語でマンゴーを示し、聖なる植物として位置付けられている。
そして蓮華は、極楽浄土に咲いているとされる。
蓮が育つのは濁った泥の中。泥沼は、仏教においての人間の煩悩を表し、苦悩や悲しみに例えられる。
そんな泥沼の中で育っても、清らかに咲く蓮の花が悟りに例えられているのだ。
「清らか、ね…」
ナマコの密輸と人身売買が出来なくなったパンタシアに、私はスピルリナの事を統治者に提案した。すぐに利益が出ない内容に難色を示したが、他に代案がある訳でもない事から、渋々取り掛かったーーーらしい。
まさか菴羅の寺院に偽装して、育てているとは知らなかったが。
「アルカナめ…」
一石二鳥と言わんばかりの行いに、もう一度恨めしく呟く。
今回の杜撰な政策に統治者へ「馬鹿か」と笑ってしまうが、そもそもアルカナが密輸の事を暴かなければ問題なかったのだ。
どうやらアルカナ内も派閥があり、パンタシアと取引していた派閥の邪魔をする為に、パンタシアの密輸が氷雪の国に摘発されたらしい。つまり派閥同士の潰し合いに巻き添いを喰らっただけなのだ。
その巻き返しの為の計画を、今回アルカナは横から掻っ攫った。なんと言う横暴か。
ーーーいや、一番私が怒りを感じているのは
ただスピルリナの事を提案しただけで、杜撰な偽装を指示した統治者の責任転嫁である。
怒りに拳を握りしめていると、侍女が入ってきた。手に持ったトレイには一通の葉書がある。
「宛名に姫様の御名前が書かれているだけで、どなたからなのか…。一応、表面に薬物や磁気等纏っていないと」
幽閉されている私に、本来手紙など届かない。もし届いたとしても、検閲された後である。
密書か?と疑われたが、暗号になり得るような物は書かれていないし、葉書に使われている絵は一輪の蓮の花の写真だった。
タイミング的に、おそらく菴羅の関係者が送ってきたのだろう。しかし誰が送り主なのか見当もつかなかった。そしてその意図も。
「赤い蓮の花ーーー紅蓮華?」
その瞬間、脳裏に浮かぶ。
仏教経典には「白蓮華・紅蓮華・青蓮華・黄蓮華」が書かれている。
その中でも重要視されているのが、清浄な仏の心をあらわす「白蓮華」と、仏の大悲を意味する「紅蓮華」だ。
それに、
「一輪の蓮華…一蓮托生?」
一蓮托生とは本来、死後、極楽浄土で同じ蓮華の上に生まれる事を指す。
同じ信心で結ばれている人たち、夫婦、友人などが、来世に極楽浄土で一緒に暮らそうと願う時、また、この世で結ばれぬ恋人同士が、来世こそ添い遂げようとーーー再会を願う時などに使われる言葉だ。
転じて、仲間として行動や運命を共にする事である。
「どう言う事……」
ある可能性が頭に浮かび、声が震える。
私はもう一度、葉書を見たのだった。
3ページ前に、ナギが「マンゴー」と「蓮の花の色」について呟いています。
そういう事です。……どう言う事でしょう?
次回は小噺です。
書き直しが出来ていなかった箇所がありました汗




