解説-お得意の偽装だろうな
ルカは「あぁ…それ」とジト目を向けてきた。
「それってミドリムシ?」
美味いの、それ?と聞いてきたので「食べた事ないからこそ、食べたいんだよ」と答えておく。
「ミドリムシーーーユーグレナとは違うよ」
「クロレラとかもあるよな。違いが分からないんだが」
ルカの問いに、私は「まず分類が違う」と笑った。
「スピルリナは藍藻類だし、クロレラは緑藻類、ユーグレナなんて単細胞生物だし」
栄養バランスが良いって事は共通かな、と付け加える。
「違いとしてはクロレラやユーグレナは光合成でデンプンを、スピルリナはグリコーゲンを作る事。あと、抗酸化作用や免疫力向上効果があると言われるフィコシアニンが含まれている事とかな」
まぁ、一番の違いは
「育つ環境が違う」
スピルリナは高温・高アルカリ・高塩分という厳しい環境下で繁殖するのが大きな特徴である。
ルカは「なるほど」と頷いた。
「菴羅は海に囲まれた土地だし、地下水に海水が混ざっていたりする」
風見が言っていた事、そして池の側にあった看板を思い出す。
「パンタシアは何故ーーーいや、どうやってスピルリナをあそこで育ててたんだ?」
「それはお得意の偽装だろうな。ーーーもともと蓮を菴羅に持ちこんだのはパンタシアだし」
パンタシアは先行投資として、スピルリナの培養、出荷を目論んでいた。自国の環境では培養に適していない事もあり、菴羅に目をつけたのだろう。
「蓮を広めて、その裏でスピルリナを育てるって?けど、そんなに採算が合うは思わないんだが」
パンタシアは蓮を広めた責任と称して、自国民を送り込み蓮の栽培を請け負っていた。そして「この場所では水質の問題上、育たないみたいだ」とでも言って、スピルリナを培養していたのだろう。ルカの言葉に、私は頷いた。
「だから先行投資なんだよ。今は目新しさでしか注目を集めていないが、いずれ重宝されていくってな」
現在、この世界では緩やかではあるが飢餓や食糧不足の問題が起きている。技術に伴う環境破壊により、酸性雨や砂漠化、大気汚染が加速。土地は痩せ細り、人口に対しての食糧受給率は暴落するだろうと言われている。
「スピルリナは宇宙食としても期待されているしな。投資先としては、私もアリだと思う」
スピルリナではビタミン、ミネラルは勿論、タンパク質も摂取出来る。現在は旅行雑誌にちょっと取り上げられるくらいの周知度だが、未来の食糧問題をふまえると、パンタシアはなかなかの先見の明があるようだ。
「けど、菴羅に手を出すのはいけなかったな」
私はニヤリと笑う。