過去編-口封じか
事件は翌日に起きた。
「ルカ、気付いてる?」
「あぁ、宿からずっとつけられてるな」
二人共、気づいていないフリをしつつ本日の視察場所へと向かう。歩きながら横目で後ろを見やると、一定の間隔を開けて三人ついてきていた。
全員、サングラスやら帽子を被って顔を隠している。
二人は顔を見合わせると、ルカが頷いた。そして自然な足取りで、横に曲がり路地に入る。
曲がった瞬間、追跡者達はダッシュした。そして
「いない!?」
二人の姿がなかったーーーと思った瞬間、ドサっと上から衝撃があった。
「ぐぇ!?」
と声をあげる。ルカと風見が上から落ちてきたのだ。それぞれ一人つづ地面に敷き、遅れてやってきた追跡者達に、風見は不敵な笑みを向けたのだった。
「一応、街中だ。魔法は使うなよ」
「こいつら程度に魔法なんて使わないわよ」
釘を刺すルカに、風見はそう言うと先制とばかりに跳躍した。
相手の目の前まで一気に距離を詰め、相手は驚愕する。その一拍の間で、風見はくるりと一回転。回し蹴りをした。
「本当は顔面を狙ったのだけれど」
体格差故に風見の踵が相手の肩に当たり、そのまま斜め下にふり下ろされる。
胸から地面に叩きつけられ、相手は呻き声を上げた。
「これで全員ね」
と、風見が気を抜いた瞬間ーーーパンッパンッパンッと三発の発砲音が響いた。
「……口封じか」
急いで物陰に隠れるルカと風見。おそらくもう一人、スナイパーがいたのだろう。
風見は憎々しげな表情を浮かべたのだった。
風見とルカは苦渋の思いで、その場を離れた。
死体から身元を特定したかったのだが、物陰から出ようとした瞬間にスナイパーは牽制するように死体に発砲したのである。
着弾の様子からスナイパーのいる方向は分かるが、ルカと風見に現在動ける仲間ーーースナイパーを対処してくれる味方がいない。
寧ろ、スナイパーとは別の追跡者達の仲間が駆けつけてくる可能性を考えれば、スナイパーとの根比べなどせずに逃げるのが上策であった。
「あの様子だと、宿の部屋にも入られている可能性があるな」
ルカがフェアリーリングで繋げたのは、昨日の視察場所、造花が生けられた藻の池の前である。
宿に戻らなかったのは、襲撃者達の仲間と鉢合わせしてしまう事を避ける為だ。
「重要な書類は元々菴羅に持ってきていないし、昨日の画像もナギに送信済みだ」
あとは、どこの組織が襲撃してきたか。一番重要な情報が手に入っていない。風見は苦々しく言う。
「少なくとも、私達をアルカナとしてか、それとも大地の視察官として襲ってきたのか知りたいわね」
それによって、対応は大きく変わる。
風見はチラッとルカを見やった。
「ちなみに、今後の視察予定は向こうにバレているわ」
「……スケジュールに関する物を部屋に置いてきたのか」
ルカの言葉に、風見はバツの悪そうな顔で頷いたのだった。
明日はちょっとナギが出てきます。
けど、まだ解説回じゃないです。もう少しお付き合いください。
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