過去編-本当に遊ぶ気満々なんだな
大移動用の転移装置は、起動させるだけでも莫大なエネルギーを使う。その為、使用出来るのは一部の人間だけで、しかも一度にまとめて送るのがセオリーだ。
なにより、自分を足として使おうとするのが気に入らない。
「ナギがいたら良かったのに」
と風見が嫌味を言ってきたが、無視をした。
その代わり、ルカは「任務内容は覚えているよな」と確認する。
「えぇ、単なる定期視察と下見よ」
菴羅は大地の国の支配地である。遠く離れた国土が他国に侵略されていないか、数年に一度、視察に来るのだ。
その役目ーーーと言うか、面倒事を大地の国はアルカナに押し付けてきたのである。
「菴羅は大地の国から遠く、イルシオン大陸が近い。知らず知らず侵略されないよう、目を光らせろって命令だよな」
とルカは溜息を吐く。つまり、もし他国が侵略してくる様な片鱗が少しでもあったら、アルカナが対処しろ、と言ってきているのだ。遠方の防衛戦は時間も金もかかる。故に大地の国はアルカナを利用したのである。
「けど、今までにそんな事はなかったし。視察と言っても殆ど観光と変わらないわよ」
だから、実はこの任務は人気が高いの、と風見は付け加えた。
「定期視察を私やナギに当てられるなんて、本当はありえないわ」
特にナギのような幹部の一人が、さして重要でもない任務を行うなどありえない、のだが。
「けど今回に限り、ね。ナギなんて、水着を新調していたわよ」
と、先日共に買いに行った事を話す。菴羅にいる期間は7日間。ナギも最終日には来れるだろう。
「…本当に遊ぶ気満々なんだな」
と、ポーカーフェイスでルカは応えたが、少し声が弾んでいた。しかし
「病み上がり早々、海では遊ばせないけれどね」
と言う風見の言葉に、ショックを受けたルカだった。
青い空、白い雲。そして目の前にあるのはーーー池。
そこには立派な蓮が咲いていた。
「一面の蓮とは…すごいな」
「あら、ここは蓮の名所よ。知らなかったの?」
風見と共に、視察場所の一つに行く。そこには立派な庭園があり、一番の見所が湖と見間違う様な池に咲く蓮だった。池の中央に長い橋が架けられ、その上から池一面に咲く蓮の花を眺める。
「沼を埋め立てて作られた場所らしいわよ」
と風見が得意げに説明した。「へー」俺は生返事をする。地理は苦手なのだ。風見は「任務地の事ぐらい、調べておきなさいよ」と突っ込む。