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個性のない十代にドロップキック!

「トーク編。まず基本的な精神を教える。全ての発言はコレを念頭に置いて行え」


『ごくり……』


 重々しい槍チンの言葉に、三人が息を呑む。


「……女性の言葉には、基本的にイエス! はい復唱!」


『女性の言葉には! 基本的にイエス!』


「うむ」


「……ってちょっと待たんかい! 何から何までイエスは無理じゃないか?」


 モジャ兵が異を唱える。


「厳密には、基本肯定的であれ、だ。間違っても否定するな。イエスがどうしても無理な時は笑え」


「いやいやいや。さすがに無理だろそれは。すっごい無茶苦茶なこと言ってきたらどうすんだ」


 さすがにミノルも口を出す。だが槍チンは「自分も以前はそう思っていたよ」とでも言いたげに首を振った。


「とにかく、肯定しろ。とにかく、誉めろ。でも誉めすぎると嘘臭くなる。誉め過ぎるな」


『いや無茶を言うな無茶を!』


 コレには三人が声を合わせた。


「女子との会話は基本聞き側に回ることだ! 相手の言葉を聞き、それに対して自分のことを少しだけ語ると同時に自分を卑下して、それに比べて○○ちゃんはすごいなぁ、で締めろ! その繰り返し!」


「いやいやいやいや!」


「急に難易度上がったよ!」


「そんな太鼓持ちが気に入られるものか!」


 コレまで、多少自分の主義に沿わない無理難題を言われてもどうにか耐えてきた三人だったが、ここにきて不満が爆発した。


「あとな、よく観察すれば相手が言って欲しいことが分かる。それを上手いこと言え。それ以外の言葉は基本不正解だと思え」


 何てことない様子でとんでもないことを言う槍チンに、さすがに頭を抱えたくなってきた三人だった。


「例えばすっげえ手間のかかっているネイルとか、男から見たらぜんっぜん興味ねーことでも、とりあえず誉めろ。何故なら、『大体女子がネイルの話題を振って来る=そのネイルを褒めろ』だからである」


「ふざけんな! 接待じゃないんだぞ!」


 ただでさえ軟派な行為を毛嫌うモジャ兵が、我慢の限界を迎えた。


「モジャ。お前が好きなミリタリーの話とか、特撮の話とかを理解出来て、ついてこれる女子がいたらどうする?」


「……っ!?」


「『グロックってぇ、トリガーセーフティーだからぁ、未熟な兵士が引き金に指を掛けたまま取り出したりぃ、仕舞う時に暴発する事故が起こりうるんだよねぇー』もう惚れるだろ?」


 槍チンが裏声でギャルっぽい喋りをする。


「……惚れる。何なら撃鉄がないから映画とかの脅しのシーンでガチンとハンマーを起こす動作ができない話までしたい」


「だろ! その本来なら異性がカケラも興味を持たねえ話題を褒めてこそ、誉められる側の喜びは一入(ひとしお)だって、分かるだろ! 向こうが誉めてくれる保証はない。でも、俺達は誉めようぜ……!」


「そういうことだったのか……」


 何かを悟ったようにモジャ兵が天を仰ぐ。


「いやいやいや勝手に納得すんなし」


「こいつガタガタ言うくせに結構チョロいよな」


 ミノルとアリップがジト目でツッコミを入れる。


「何だよおめーら、不満か」


「だってそんな風に甘やかしてるだけだったら、増長したクソわがままな女が出来上がるだけじゃん」


「モジャはどっちかってーとそういうのを(たしな)めるポジションだと思ってた」


 二人の言葉にモジャ兵がはっと我を取り戻す。


「そうだよ! ハッキリと自分の意見を持った男の方がいいって女子もいるだろ!」


「はん! 分かってねえなぁ! そんな言葉を額面通り受け取るなんて!」


 しかし槍チンはモジャ兵の意見を鼻で笑い飛ばした。


「口で説明するよりこっちのが早い。試しにシミュってみるぞ。モジャ、お前の思う通りにやってみろ」


 そう言って槍チンが先程の様にギャルを憑依させる為、目を閉じた。


「お、おう」


「ビシっと言ってやれモジャ!」


「自分好みのメス豚にしてやれモジャ」


 二人の声援を受け、モジャ兵が仮想女子に挑む。


「昨日さ~、二時間並んで超人気のネイルの店行ってさ~、コレやってもらったの! 超デコった!」


 ギャルインザ槍チンが見せびらかすように指を見せる。


「それは本当に二時間も並んでお金を費やす価値があるのか! 小細工はやめてそのままの自分で勝負しろ!」


「はぁ~? うっせーバーカ! ゲロキモいんだよアフロ! はい終了。彼女は怒って帰ってしまいました」


 素に戻った槍チンがシミュの終わりを告げる。


「ギャル辛辣過ぎんだろ!」


「モジャちょっと泣いちゃってるじゃん! 謝れ!」


 見かねたミノルとアリップが槍チンを責める。彼はそんなのどこ吹く風で語り出した。


「女とはその瞬間を全力で生きる生物だ! 他人に言った酷いことはすぐ忘れる! 口癖は『そんなこと言ったっけ?』だ! その時本当に好きだった物や人を何であんなん好きだったんだろとか平気で言う! 趣味も主義主張も風向きの様にコロコロ変わる! でもその時は本気だし本心なんだ! だから話を合わせるのが一番なんだ! あ、あと他人に言われた酷いことは絶対忘れないみたい!」


「な、何だってー!」


「そりゃあんまりだ!」


 先程よりも悲痛な声でミノルとアリップが叫ぶ。


「だったらなんで叱ってくれる人が好きとか言う女がいるんだ!?」


 モジャ兵が半泣きで問う。残る二人も同じことを思ったようだ。頷いている。


「だからその言葉は額面通りに受け取っちゃ駄目なんだって」


 槍チンが溜息を吐く。


「まさかただしイケメンに限るとか言うんじゃないだろうね?」


 アリップが呆れたような口調で言う。


「惜しい! 実際には『恋愛対象とみなした異性に限る』です!」


「何じゃそりゃ!」


 槍チンの返答に憤慨するモジャ兵。


「冷静に考えろ、モジャ。お前……俺達や自分の母ちゃんにその頭カッコいいねって言われるのと、合コンにくる女子に言われるんだったらどっちが嬉しい?」


「…………」


 一瞬で理解したモジャ兵が黙る。


 いや、モジャ兵だけではない。真に理解していたのはアリップである。


 槍チンに言われたカッコいいと、北方さんに言われたカッコいいが、全然違ったのを身をもって知っているからだ。


「だから女を叱ったり、自分色に染めるのは付き合ってから、せめて恋愛対象になってからだ。でないと、どんなに正しいことを言っていてもすべからく答えは『うっせーバーカ』だ」


「それまではどんな無茶で興味ないことでも肯定すんの?」


「うん。基本『分かる』と『マジで?』と『すごいね!』以外の発言はすんな」


「そこまで言うんだったらお前がお手本見せてくれよ! こちらもギャルを用意してみました! さあ、行け、アリ子!」


 そう言ってミノルが指差した方角から現れたのは……


「どうも~、アリ子で~す。趣味はギャルゲーで~す」


 女子を憑依させたアリップだった。このコンビネーションたるや、さすが幼馴染である。


「ギャルゲー好きのギャル……ややこしいな」


 モジャ兵がボソリと呟く。


「あたし~、ギャルゲーでぇ~、最初高飛車な態度で主人公をバカにしてたヒロインが~、何かメスの顔して主人公に優しくなってきた時に一気に好感度下げて~また態度悪くなったの見てクソビッチ呼ばわりするの大好き!」


「分かる分かるすっげー分かる! そんでまた好感度上がって態度が軟化してきたら容赦なく下げるんだよね! もう爆笑もんだわ!」


『すげえなお前!!』


 槍チンの柔軟過ぎる対応に称賛の声を上げずにはいられない三人だった。

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