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ド●キは何でも売っている

「次は身嗜み編。主にエチケット方面だ」


 槍チンがどこから出したのかメモを片手に宣言する。


「昨日した、俺が二日間風呂に入ってなかった状態の写真を見せたのに、モジャ兵より清潔感があるって言われた話を覚えてるか?」


『うん』


 三人が頷く。モジャ兵は少し複雑な表情だったが。


「いいか、よく覚えておけ。男は何はともあれ『清・潔・感!』はい復唱!」


『清・潔・感!』


 三人が唯々諾々と声を合わせて復唱する。


「そう、清潔感こそが何より大事……! ぶっちゃけ本当に清潔かどうかより重要なのだ!」


「な、なんだってー!」


「そりゃないですよあんまりだ!」


 コンビネーションバッチリの合いの手を入れるミノルとアリップ。


 その様子に槍チンは満足そうに頷く。


「逆を言えば……実際にはバッチリ清潔だったとしても、清潔感がないと判断されれば生ゴミ以下だ。それが現実……! 分かるな?」


 そう言って槍チンが視線を向けたのは、モジャ兵だった。


「むさくて、肌も荒れてて、脂ギッシュで、髭も体毛も毛ダルマの雪男なんて、当然のことながら女子受けがいいワケがねぇ。少なくとも十代の女子には見向きもされねぇ……それが全部当てはまっているのが、モジャ兵。おめぇだ」


 槍チンの言葉にモジャ兵はすでに諦めたかのような声を出した。


「でも……どうすればいいって言うんスか……何度でも言うけど、自分、コレでも毎朝シャワー浴びてから学校来ているんスよ。髭も毎朝剃ってます。なのに昼にはジョリってるし、放課後には髪もベタベタ、体育のあった日には臭いなんて言われる始末。ホルモンか!? 女性ホルモン注射して男性ホルモン抑えろってかーーッ!?」


「落ち着けモジャ」


 その諦観(ていかん)自棄(やけ)っぱちにまみれた叫びを、槍チンが冷静に諭すように言う。


「落ち着けるか! お前らはいいよな! 普通とかむしろ女顔だとか! 羨ましいよ! 俺はベタベタのジョリジョリの悪臭毛ダルマ雪男だよ!」


 とうとうミノルとアリップにまで八つ当たりを始めたモジャ兵の肩に、槍チンがそっと手を置く。


「やりようは……ある!」


「……一体どんな!?」


「一つずつ片付けるぞ。いつだって問題を一つずつ解消していくしかないのさ、俺達は」


「解消……できるのか?」


「できる!」


 豪語する槍チンにミノルとアリップが口を挟む。


「槍チン、本当にできるのか?」


「さすがに無理じゃないのコレばっかりは?」


「黙って聞け。まずはベタベタする髪だ。それを短く切れ」


 槍チンの鋭い制止に、二人は黙る。


「まさか切って短髪にして目立たなくする……とかじゃないだろうな? そんな苦し紛れの子供騙しじゃJKの目は誤魔化せねえ!」


 いよいよ発狂寸前のモジャ兵の目を真っ直ぐ見つめ、槍チンは口を開いた。


「切るのはおめぇの天パレベルじゃ、長ければ長いほど比例して清潔感が落ちていくからだ!『短髪は、清潔感への第一歩』はい復唱!」


『短髪は! 清潔感への第一歩!』


 最早良く訓練された兵士の様に、練度の高い反応をする三人。


「しかし短髪にしてもベッタベタだったら意味がねぇ。オイリーシャンプーを使え。ガッツリと頭皮を洗うんだ」


「おいりー……それで、何とかなるのか?」


「なる。お前の脂は最早普通のシャンプーじゃ根絶できねぇ」


「じゃ、じゃあ……体臭は?」


「体臭を消す石鹸がある! そいつを使え! お前の体臭は最早、以下同文!」


「ジョリジョリは!?」


「髭を剃ったらアフターシェーブローションを使え! 髭を剃った後はな、肌が荒れて毛穴が開くんだ。だからその開いた毛穴の太さのまま新しい毛が生えてくるんだよ! 毛穴を引き締めろ! キュっとな! 勿論保湿も忘れるな!」


 実にテンポ良くモジャ兵の疑問をバッサバサと斬っていく槍チン。


 ミノルやアリップやモジャ兵、そしてその他のモブを含むモテない男子達とて一応男の子である。可能ならば自分を磨いてみようかと、その研鑽の手法を調べてみようとファッション雑誌に手を伸ばしたことは、ある!


 ある者は本屋で!


 ある者は床屋の待ち時間で!


 だが……!! 確かに日本語で綴られているはずのその文字の意味を、誰一人解き明かすことができなかったのだ!


 そう! メンズファッション雑誌に書いてあることは! 正に今「サナギを破ろうっかなー?」と思った芋虫にではなく! 既にサナギを破り、自分を美しくすることに完全に興味を持った蝶へと向けたモノなのである!(作者の個人的見解)


 童貞どもの結論は一貫してこうだ。


『意味わかんね』


 そして悟ったのだ。「ああ、コレはもう俺みたいなヤツじゃなくて、()()()()に行く……別世界の住人向けの本なんだ」と!


 しかしそんな意味不明で、なんなら眠気を催す呪いがかけられているとすら思われていた禁書、メンズファッション誌を解き明かした勇者が、自分達と同じ掃き溜めにいたはずの槍チンである。


 調子こいてるイキリストと彼を罵る者もいる。


 だが、それでありながら彼は自分達を同じ境地へと導いてくれる希望の星なのである。


 そして、今この時間こそが、待ちわびたその瞬間なのだと童貞達は感動に胸を震わせていた。


「あ、脂ギッシュは!?」


「アフターシェーブローションにな、脂を抑える化粧水があるんだよ! それを使え!」


「……ベタベタも、ジョリジョリも、体臭も、抑えられるのか?」


「られりゅ!」


 少し噛んでしまったが、英雄はそう答えた。


「そんな魔法みたいなアイテムが……あるのか?」


「あるんだよ。それを求めもせず、調べもせず! 自分の怠惰を棚に上げてどうしようもないって何かのせいにしたのは、お前の弱さだ!」


 まるで断崖絶壁で刑事に言い負かされた犯人役のように、ショックを受けたモジャ兵は、その場に両手をついてうずくまった。

 

「俺は……何て愚かだったんだ」


「勿論、それだけのアイテムは通常のより値が張る。お前はワケ分かんねぇベストやレイバンに金使う前に、そっちだ。今日帰りにド●キ行くぞ。全部見繕ってやる!」


「う、うぅ……うああぁ……!」


 まるで、自白と懺悔が終わった後の犯人のように、嗚咽を漏らして泣くモジャ兵。


「……終わったか」


「……悲しい事件だったね……」


 何故だか空気にあてられて、ミノルとアリップも悲痛な声を出した。


「まだ全然終わってないけどな。次は体毛編」


「え、まだあんの?」


 もう情緒に訴えかけるエンディングテーマと共に、スタッフロールがPANしてくるものだと思っていたモジャ兵が顔を上げる。


「コレは夏だけでいいけどね。腕毛もスネ毛も、剃るのはめんどくせぇし、ケアを怠るとさっき言ったみたいに太いまま生えてきちまう、そこで魔法のアイテム――」


「またか」


「魔法が段々安くなってきたね」


 完全に司会の槍チン、解説のミノル、ゲストのアリップさん状態と化しているが、二人はテンポ良く見解を述べる。


 ちなみにモジャ兵の役どころは、悩みを投稿する恋するウサギちゃんだ。


「――バリカンだ」


「バ……バリカン?」


「そう。体毛は剃るより刈る。ストッパーつけとけば身体を傷つけることもない。コレで一瞬で雪男は卒業できる」


「バリカン……」


「そうだ。帰りにド●キで買うぞ」


「またド●キかよ」


「何でも選べる便利なお店だからな」


 ミノルのツッコミに槍チンが即座に反応する。


「そしてトドメに……コレはミノルにアリップ。お前らにも当てはまる」


「む」


「……何?」


「眉を整えろ」


「……あー」


「眉、かぁ……」


 二人は溜め息を吐く。


 読者のジェントルメンはご存じかも知れないが、そう。


 眉毛を整えるのは、右も左も分からない素人の時分にはレベルが高く感じられるのである。


 というのも、眉毛というのはそもそも完全に左右対称ではないのだ。たまにそういう人もいるが基本レアだと思っていい。


 大体片方を整えると「アレ? 何かバランス悪いな」ともう片側もイジることになる。


 そして行き着く先は……草も残らぬ荒野のみ。後悔せども、切った眉毛はすぐには戻らない。


 そしてそんな心折れた状態のビギナーくんは、眉を描くという発想に至らないのだ……! お姉ちゃんでもいればワンチャンあったかもね!


「無理して整える必要はねぇ。体毛と同じで短く刈るだけでいい。形はイジるな。見た人が『あ、ちゃんと細かいとこにも気を遣ってるんだ……』と思うくらいに手を加えるだけで十分印象変わるから」


 しかし予想に反して、槍チンのアドバイスは簡潔なものだった。


「でもバリカンだと大きすぎないか?」


「あるんだよ。フェイス用の小さいのが。しかも先っちょの装備を変えることで、ミニバリカンになったり、鼻毛カッターになったりする便利なアイテムがよぉ!」


 最早セールスマンというか、先程から連呼している店の回し者なのではと疑うくらいに絶好調な槍チンに、ミノルは恐る恐る聞いてみた。


「もしかして――そのアイテムも?」


「あぁ、ド●キで買って帰るぞ!」


『またド●キかよ!!!』


 三人の声がハモった。

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