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憧れの人の言葉>>>親友達の言葉

「それで、その彼女持ちの子が、友達みんなをプロデュースしてやるって?」


「……ええ、全く以て余計なお世話というヤツですよ」


 ここは地域最大級のレンタルビデオショップ……の、狭い休憩室である。


 アリップは週に二日、多い時は三日程、この店でアルバイトをしている。


 食費や学校で使う物の金は出す。だが高校生になったのだから自分の趣味に使う分の金は自分で稼げ、という通達を親に出されてしまったからである。


 そこでアリップは近所で一番でかくてゲームを売っている店でアルバイトをすることにした。お世辞にも接客が得意とは思えない彼がこの店を選んだ理由は、ずばり『社員購入割引』である。


 ゲームを買うお金をゲーム屋で稼ぎ、社割を利用するアリップ。


 与えた賃金をそのまま店につぎ込んでくれるバイトを雇った店側。


 お互いにWin-Winが成立しているのだ。


 ――そんなレンタルビデオショップ(ゲーム屋兼)の、狭い休憩室のテーブルを挟んだその向い側。


「アハハ、友達思いなんだね! 普通そんなこと言わないよ」


 アップにしてまとめた綺麗な茶髪。白い肌が色合いをより引き立たせるメイク。瞳の大きさを強調する長いまつ毛。


 アリップのバイト仲間であり、先輩でもある大学生、北方空(きたかたそら)がケラケラと面白そうにそう言った。


 彼女を一言で言い表すなら『白ギャル』だ。ファッションを追いかけることに情熱を注ぐリア充ガール。


 アリップや、アリップが普段関わっているクラスの連中とは対極に属する女性である。


 無論、アリップは出会った当初、彼女を苦手に感じていたし、自分の教育係として紹介された彼女のリア充オーラたっぷりの顔を目の当たりにした時は、本気で勘弁してくれとめまいに近いものを覚えた。


 男を見下していて、自分が世界のカーストのトップにいるという、根拠の無い勘違いをしている攻撃的な人種……彼は北方空のようなギャルをそう認識していた。


 だが、それがすぐに偏見であったことを自覚した。


 彼女はその派手な見た目に反して、とても気まじめで、面倒見のいい女性だったのだ。


 アリップのような無口な日陰者にも、気さくに話し掛け、彼が職場で孤立しないように目を配る。


 そんな彼女がアリップの信頼を勝ち取るまでに、そう時間はかからなかった。


 見た目は白ギャル。だが成績優秀。明るく、誰もを尊重し、誰からも好かれるスーパーガール。


 それが今のアリップから見た北方空という女性だ。


 作者の別作品『恋と罰ゲーム』という恋愛短編のヒロインである。別に読まなくても問題はないが読んだ方がより深く物語に没入できること請け合いである! いやホント読んだ方がいいと思うなぁ!


「いや、友達思いっていうか、自分に彼女ができたから、調子に乗ってマウント取りに来ただけですよ」


「いやいや、自慢したいだけだったら素直に惚気(のろけ)るだけで済むじゃん。ファッションや髪形やらを見てあげるなんて言わないよ」


「じゃあ、どういうつもりなんでしょう、あいつ」


 アリップの問いに、彼女は少しだけ首を傾げ、考え込むような仕草を取る。


「すんごいおいしいお菓子やお店を見つけたら、友達に教えたくなるじゃない」


「北方さんも、そうでした?」


「うんうん! ハマったお菓子すぐ友達に勧めてシェアしちゃうもんあたし!」


 彼女の言ってることは本当だ。彼女は自分やバイト仲間に休憩中に食べて、としょっちゅうお菓子やお土産のおすそ分けをしてくる。


「あとねぇ、すっごい泣ける映画とか、少女マンガとか、めちゃめちゃお勧めするよ、友達に」


「それ……髪型や眼鏡外すのと繋がりますかね?」


「例えば、映画館に入るのや、おいしいご飯を食べる為……高級レストランなんかに入る為のドレスコードみたいものじゃない?」


 なるほど、上手いことを言うものだな、とアリップは関心した。


「プロデュースすること自体が目的じゃなく、その先の女子との関わりを味あわせるのが目的だと?」


「もしかしたらプロデュースもあるかもね。でも、実際鏡見て『あ、今日のあたしちょっといいかも』って思うと元気出てくるよ。頑張る勇気貰えるっていうか」


「…………」


 ……知らない感覚だ。興味を持ったことすらない。


「逆に『あ、今日何か駄目だぁ。すごいブスかも』って思うと、へこむけどね」


「…………」


 ……北方さんをブスだと思ったことなんてない。


 そう思ったが、それを口に出す資格は自分ごときにはない。何の努力もしてこなかった人間のそんな言葉に如何程(いかほど)の重みがあるというのか、とアリップは黙る。


「でも、今日の自分がいいって思う為には、毎日努力し続けなきゃいけないんでしょ? 辛くないですか?」


「ふっふっふ、よく気づいたね、アリップくん。さすがは優秀な我が弟子だ」


「ありがとうございます。師匠」


 ……最近の教育係は師弟関係扱いなのか、とは思ったが、実に嬉しそうに笑う彼女に付き合って、なんとなくアリップはそんなことを言ってみる。


「その『辛い』や『面倒臭い』を吹っ飛ばす原動力。それが恋なのだよ」


「……恋」


「好きな人ができるとね、努力するのが辛くなくなるの。頑張れるの」


「…………」


「だから恋する乙女は無敵って言われるのだ!」


「……無敵ですか」


「無敵だよぉ。でもね……それを抜きにしても、今までの自分が触れてこなかった世界へ踏み出すのってすごい素敵なことだと思うよ。誰かに好きになってもらう為の努力で、いつの間にか自分で自分を好きになれるから」


「自分で自分を……」


 その言葉は今までゲームやアニメの中で、コンプレックスなど何もない主人公を、何故かポンポンと好きになる女性達との恋愛しか知らなかった彼にとっては目から鱗が落ちるような名言だった。


「でも……僕がいきなり髪切ったり、服装とか変えたら、変じゃないですかね」


「全然変じゃないよ」


 彼女は即答した。


「あたしは絶対笑わないし、笑う人がいたら『コラ!』ってしてあげる」


「でも……」


 彼女の言葉は非常に嬉しかったが、それでもアリップはいつかやってくる『何やってんだろ僕』が怖くて、一歩を踏み出せずにいる。


「……ちょっと、ごめんね?」


 そう言って北方がアリップの眼鏡を外した。


「え? あ……っ」


「……綺麗な目」


「ちょ、返して下さい……」


「えへへ、ごめんごめん。でも、うん。やっぱり全然変じゃないよ。ていうか――」


「何です?」


 そこで北方空は、一度言葉を止め、下から覗き込むような視線を向け、先程までとは違う声音で囁くように言った。


「――眼鏡、無い方がカッコいいよ」


「…………」


 生まれて初めての女性からの「カッコいいよ」にアリップの脳はフリーズした。


「もしちょっと頑張ってみる気になったら、髪型も服装も違う、アリップくんニューバージョン見せてね。約束」


「……はい」


 自然とその二文字が口からするりと出てしまうアリップだった。


 こうして彼はバイト終了後すぐに槍チンに電話し、槍チンプロデュースを経た上での合コン参加を表明することになる。


 ……アリップが、堕ちた。

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