変化
「倫護〜さっさとご飯たべな〜」
下から声が聞こえた。
たぶん姉ちゃんか親が叫んだのだろう。
<姉ちゃん><親>と言ってもどちらとも血のつながりがあるわけではない。
俺たちは孤児院出身でこの家に引き取られた。
そんな奴らが4人いる。
上から姉ちゃん、俺、弟、妹だ。
みんな小さい頃からこの家に引き取られいて俺がここに引き取られた時には姉と妹がいて、そのあと一年くらいで弟がきた。
倫護は二度寝したくなる気持ちを抑えて起き上がり朝ごはんを食べに階段を降りていった。
「あっ、やっと起きた!」
キッチンに入ると義弟の透麻が倫護をいち早く発見した。
そこには弟の他に妹と母親がいた。
父親と姉は会社があるから先に家を出ていたみたいだ。
「倫兄ぃ、今日帰ってきたらゲームしようよ!」
「あぁ…」
朝からハイテンションな弟を適当にあしらってご飯にありつく。
「お兄ちゃん、ネクタイ落ちてるよ…ハイ」
妹がネクタイ拾って倫護に渡した。まだ意識がハッキリしていないので、ここに来る途中に落としてしまったみたいだ。
「ああ、わりぃな」
ネクタイを受け取りまた首にかけ、再び箸を進める。
『──次のニュースです。昨晩○○銀行に強盗が入りました。警察の調べによると金庫は重機のようなもので破壊され近くの工事現場から盗まれた重機はとの関連性も調べています。重機も犯人もいまだ見つかっていません。続いて全国の天気──』
倫護は無造作に流されていたニュースを見ていた。
今のもそうだが最近ニュースは殺人や窃盗などが目立っているような気がする。
それだけ世の中が不景気ってことだ。
「やぁね〜。最近世の中物騒で、そういえばこの前もこの辺で車のタイヤが盗まれたって聞いたわ」
すげぇな。タイヤなんかどうやって盗むのだろう?
「いってきまーす!」
「いってきます」
倫護たちがニュースを見ている間に弟が妹を連れて学校にいった。
あまりに弟の声がデカイので妹の声はかき消されていた。
「車に気を付けるのよ!」
母は玄関にいる二人に聞こえるように声を張ってしゃべる。
みんな元気だなぁ。
時間は8時を回っていた。俺もそろそろ学校へ行かないと。
入試の時に切って以来髪はそのままだ。髪が長いため寝癖がかなりひどい。急いで寝癖を直してまだ眠そうな目を擦り学校へ行く。
「いってきます」
高校には近いので歩いていく。そういう理由で選んだ高校だ。
今年念願の高校に入り最初は浮かれ気分半分、不安半分でいたが2ヶ月もたつとしだいに馴れてくる。今じゃだるいくらいだ。
「おはよう。春日くん」
あくびをしながらぶらぶら登校していると幼なじみに出くわした。
「おぅ、佳凛」
こいつは幼馴染の佳凛。
佳凛に初めて逢ったのは小学校だ。
孤児院からあの家に引き取られて初めてできた友達が佳凛だった。
「ねぇ、春日くんテスト勉強した?」
最近テスト週間で早帰りだからか不安なのだろう佳凛はここのところいつもこんな感じだ。
「んー、俺は…」
「よう! ハルヒ!」
話の途中で彼方に出くわした。
こいつは高校から友達になった。
このメンバーのムードメーカー的存在だ。
「春日だっつうの!」
「突っ込み普通すぎ! そんなんじゃダメだぜ!」
相変わらずなんでこんなにもテンション高いのか教えて欲しいくらい元気だ。
「今日帰りにカラオケ寄ってかねぇ ?」
朝会ったばかりなのに彼方はもう帰りの話をした。
「私はかまわないけど…」
本来ならなぁ佳凛は帰って黙々と勉強するタイプだがそうしないのは彼方が誘ったからだろう。
「倫護、もちろんお前は行くよな?」
彼方はすでに、倫護は行くだろう、と言う顔をしていたが一応聞いてみた。
「あぁ? ん〜…俺はこれといって用事はないけど…」
どうやら倫護にとって“テスト勉強”は用事に含まれないらしい。
「じゃあ、決定だ!」
(最初から決まってたくせに…)
と、倫護は思ったが口には出さなかった。
授業時間なんて大抵周りと話しているからすぐに終わってしまう。
この年頃だ。時間なんていくらあってもたりないくらいだ。
あっという間に時間は過ぎ、放課後──
「さぁさぁさぁ! 待ちに待った放課後だ! さっさと起きろぉぃ!」
6時限目をフルに睡眠時間に使っていた倫護を彼方が起こしに来た。
「ほら、春日くん。早く行こうよ」
倫護があまりにも起きないので佳凛まで起こしに来た。
「ん〜…。もう放課後?」
ボーッっとしていてまだ完全に起動していない頭で周りを見て見ると彼方が、早くしろよ、と言う目で見ていた。
「ああ、わりぃ」
「先に行ってンぞ」
二人が教室を出て行くのを見てあわてて帰る支度をして追い付くために急ぎ足で向かう。
急いでいたため顔に寝ていた痕がついているかも…
校門を出るとビラ配りをしている人が目に留まった。
その人の姿また奇妙で道化師の格好にありきたりなファンタジーゲームの要素を足したような出で立ちだ。その所為もありみんな無視をしているし、目にも入っていないかのように通りすぎている。
奇妙な道化の近くはみんな避けていたため空いていた。
倫護はそこをダッシュで通り抜ける。
こんなにも近くを通のだから受け取らないのも不自然かとでも思ったのか、倫護はビラを受け取りそれを乱暴にカバンに押し込み二人に合流した。
しばらくの間道化は仲間と楽しげに話している倫護を見ていた。
倫護はそれに気付いていない。
「ただいま」
「おせー! 帰って来るの遅すぎ!!」
倫護が帰ってくるなり透麻がどたどた走ってきた。後ろに妹もいる。
「別にいいだろ」
「よくねーよ。ゲームするって約束したじゃん」
そういえばしたような気がする。
「してねーよ」
だんだん約束した記憶が鮮明になってきたため、あえて否定した。こうしないと後々面倒だから。
「あと、あんまり羽希をいじめんなよ」
羽希は一番下の妹だ。例によって血の繋がりはない。
倫護がそういったのは透麻の右手に羽希のぬいぐるみを持っていたからだ。
「い、いじめてねーよ!」
さっさと自分の部屋へ向かう兄に吐き捨てていつの間にか後ろにいた妹にぬいぐるみを投げつけてむくれて行ってしまった。羽希は半分泣きそうになってぬいぐるみを拾い、倫護の部屋に向かった。
夕飯の時には姉ちゃんと親父も帰ってきていたのでひさしぶりに家族全員での食事となった。
弟のむくれ具合が酷かったので仕方なく明日一緒にゲームすると言ったらすぐに機嫌が直った。単純なやつ。
そんなことを話すとおふくろが
「なんのための“テスト週間”なのよ。勉強しなさい」と、言ってくる。
「透麻のアホ。俺のコップ壊しやがって…」
倫護は舌打ちをして切ってしまった指を押さえた。
風呂から上がって何か飲もうとしたら透麻が割ってしまったのだ。
姉の魅紅が羽希の髪をドライヤーで乾かしながら、あんたのケータイ鳴ってたわよ。
と知らされたので見てみる。何かと思えば彼方からだった。
『借りていた本カバンに入れておいたからな』
と、言う内容だったので自分の部屋に行き確認して見る。
「ん? なんだこれ?」
ビラが入っていた。
そういえばあのピエロから貰った気がする。なんだったのだろう?
片手にケータイを持っていたので怪我した手でビラを取る。多少血が付いたが気にしない。
鮮やかなオレンジ色の髪。たてに割れた翡翠色の瞳。女性か?
いったい何をしているのだろう?
!!!
こっちを見た!!