53話『クリスマスくらい』
――十二月二十五日。深夜零時――。
ちょうど日付が変わった。
ホワイトクリスマス。
俺の部屋は暖房で温まっていてミカンは幸せそうに寝息を立て、俺の帰宅にすら興味を示さず、おかえりの言葉もなかった。
世間一般的にこの時間帯はアダムとイブで、きっと果物を育てているころだ。
ネットではクリボッチとか、リア充〇ねだとか言って大いに盛り上がっていた。
俺たちは得も言われぬ雰囲気の整った部屋に二人きり。薄い扉からお楽しみの声すらなく沈黙。
「……えっと、そろそろ、寝ようか」
「そう、だね。もう夜も遅いし」
遅くまで起きていると肌に悪い。クリスマスにすることはすべて済んでいる。
人生ゲームとか……主にパーティーゲーム。
遊び過ぎて疲れてしまった。先に上がった人が勝利という条件で、俺が二勝、三月が一勝。
まぁ、そう言うことだ。
次の言葉も忘れてしまうほどに。
その夜。やはり健康で健全な男子高生は眠れなかった。
翌日お昼前。
俺と三月は朝ごはんを食べ終え、ミカンの相手をしていたころ。
「あ、来た来た!」
インターホンにミカンと同じくらいの速さで反応を示した三月がすとすとと小走りで玄関ドアを開けた。
もちろん相手は莉緒。バイトは最も忙しくなり始める夕方から。なのでそれまでの間俺の家でクリパ(クリスマスパーティ)ということだ。莉緒はその身体に似つかわしくない大きな箱と気泡が上がる大きなビンを手に提げていた。
「はい、これケーキだから。あとシャンパン。パパが一昨日買ってきたやつ、子供には早いからって独り占めしようとしてたから持ってきた」
「へー、これまたお高そうな」
「シャンパンの方は頬擦りするくらいだからまぁまぁ高いんじゃない? それは駅前のケーキ屋であらかじめ予約しておいた、まぁ安物」
「ほう、で、今食べるのか?」
「そりゃそうでしょ? それともご飯後?」
莉緒は鼻をすんすんと鳴らす。いったい何の香りが漂っているのか。
「いや、むしろご飯はこれから」
「なら丁度いいじゃない、昼食はケーキで決まりね」
「マジか」
「太りそう」
「何言ってんの三月、そんな痩せた身体で喧嘩でも売ってるの?」
莉緒が目を眇めて言った。
「じゃ、開封」
「わぁ……立派」
サンタやら、トナカイやらソリやら家やら、もはやジオラマだった。
「って、これどう切り分けるのが正解?」
「もうスプーンで突いちゃえば?」
「そういうところだぞ、女子らしくないって言われるの」
「――うっさい、なら早く切り分けてよ。お腹空いてるんだから」
莉緒は早く食べたいとばかりにフォークで素振り。タイムアタックでも始めるのか、と心配になる。
とりあえずケーキの上の砂糖菓子をすべて皿に並べていく。
「あ、先に食べちゃうんだ」
「早い者勝ち、三月も食べる?」
皿に置かれたサンタクロースは頭から莉緒に砕かれた。無残に食われていく砂糖菓子の笑顔は死を悟った笑顔に見えてきた……。
と思うものの俺もトナカイを捕食。
何とも言えない砂糖菓子特有の味だ。
とりあえず八等分に切り分け、皿に乗せる。
「ほら、あと、ミカンにあげるなよ? 死ぬから」
「分かってるっ」
シャンパンの栓を抜き、コップに注ぐ。しゅわしゅわと心地いい音が耳に響く。
三人はコップを手に、掲げた。
「乾杯! いただきまーす」
久しぶりに食べたケーキはやはり美味しかった。チョコの生地、チョコホイップの層、イチゴやオレンジの層。最初は食べきれるか心配だったが女子二人の前には不要な心配だった。
それからやはり人生ゲームをして、莉緒は愚痴を吐き捨ててバイトへ向かった。ひと口目できっと三人とも感付いていた。けれどまぁ、そういう雰囲気だったし、誰も特に言わず、酔顔を見合わせて笑った。
「共犯だね~」
「全くうれしくないけどね……アイスでも食うか?」
熱を持った顔を冷ますように二人はアイスを食べた。莉緒は大丈夫だろうかと密かに心配した。




