43話『どうということのない土曜日の夜』
買ったばかりの寝間着は洗濯機へ。今日は仕方なく男物のシャツで過ごしてもらう事に。
居間に三月の姿は無く。
その三月はというと二十分ほど前。俺は寝間着をとりあえず洗濯した。
そう、自分が選んだ服が洗われているのを三月は好奇心旺盛な猫みたいに眺めている。
「あとどのくらいで終わる?」
「あと十分です」
風呂上がりの三月はきっと何もはいていないのだろう。精々シャツを羽織っているか、下着を着けていてほしい。
脳内で妄想を育ませている思春期男子高生。鼻の奥に熱いモノが。あ――。
「終わりましたー」
きっと早く着たいだろう、けれどソレは明日へ。
乾燥機にかけると縮んでしまったりする。最悪着られなくなって買ったという事実だけが残る。
「開けるぞー」
一応ノックして、声かけして開ける。
「あ――」
その『あ』は何なのか。唐突で言葉が出なかったのか。抵抗できない、というのはこのことで。俺が悪いわけでも、三月が悪いわけでも無い。何が悪いのか、何かの生にしてしまいたいこの年頃。きっと神様が悪いのだ――。
「だ、ダメです! 開けては!」
「――ッ! 痛ッたーッあ!」
押し開けられたドアがまるでそう言うトラップとか生き物みたいに、茂みに隠れるトラバサミみたいに、海底で獲物を待つアンコウみたいに。俺の足はゴリッと挟まれたのだった。間一髪で見えなかった。見えていないのにこの仕打ちなのだ。せめて一つでも二つでも、何でも見させてくれよ。と、自分自覚するほど最低なことを思いながら痛みに悶絶しながら、背中から転がる。
「ご、ごめんなさい、大丈夫、ですか? でも……急に開けないで、ください、まだ身体の準備が――」
「ノックもしたし声もかけたし、そもそもなんで裸なんだよ……ソレと、襲ったりなんてしない! そう言うのはさ……お互い、好きで……そのさ、なんて言うか、まだ早いって言うか……とりあえず俺に下心は無い!」
ドアの隙間からそっと妙に申し訳なさそうに眉根を寄せた顔を出した三月。
もう何の話だ。寝間着の話でしょ。
それからとりあえず服を着た三月をよそ目に、俺は湿った寝間着をカゴにいれ、ベランダに干した。朝になったらきっと凍って氷柱が出来ていそうだ。
それから電気を消した夜。しんと静かな空間に響は暖房の風だけ。
「あの、さっきはごめんなさい」
「もうその話は良いって。別に骨折したわけじゃ無いんだし」
「はい……おやすみなさい」
「おやすみ」
こうして俺の土曜日は終わった。




