39話『寝巻』
午後二十三時――。
洗い物が終わってしばらく後。三月はお風呂に入っていた。
こんな夜遅くにお風呂に入ると近所に聞こえたりする。けれど幸い隣の部屋は空き部屋だ。
ちょっと前に引っ越しの業者が来ていたのを見た。くたびれた顔をした男性がたぶん住んでいた。
そういえば三月はシャツと、洗濯したスカート姿だった。あれ意外服は無いと思う、さすがに寝るときもその姿というのはなんだかなぁと、俺は思いちょっと訊いてみることにした。
「部屋着、必要だったら買う?」
そうモザイク越しに話しかけてみる。互いの表情も見えない。輪郭の薄い肌色が少し見えるだけ。その方が妙に心をくすぐる。
キュッという蛇口が回される音でシャワーが止まる。
「修哉さん?」
「あぁ、ごめん後での方が良い?」
「いえ、大丈夫です、続けて下さい」
「そうか、で、部屋着とか必要だよな?」
部屋着が必要な関係とは一体。そう思ったがしばらく居候するつもりならあった方が絶対に良い。他意はない。
「今週末にでも買いに行くか」
「い、良いんですかそんな。迷惑じゃ」
「いいから、仮にも同じ屋根の下で暮らしてんだから気なんて遣う必要ないからほんとに」 男という生き物は可愛い女の子に頼られたい訳だ。
「……考えておきます」
「了解」
それから二十分後。
「あの」
「どうした?」
「そろそろ上がるので、そこに居られると出るに出られないので……」
「あぁ、ごめん。ちょっと寝てた」
俺は申し訳なさそうに風呂場から逃げた。




