27話『秋冷の夜』
細く逆立つ心を沈めるような雨は瞬く間に叱責する、絶え間ない大粒の雨は鎮まる事の無いこの感情に訴えるように打ち付ける。
十一月下旬夜二十二時。気温は十三度を下る雨の夜。
細い路地にまでこの街の喧騒が濃く響いている。
高校三年の冬、バイト終わり。やりたいこともまだ定まらない、就職するのか進学するのか、そんなこともまだ、俺にはわからず。何か、当時の自分には大きく思えた夢のために始めた気がするバイトも、今ではただ惰性にこなしていた。
陰鬱に潜む影に、頭の片隅で、彼女を誰かに重ねていたのかもしれない。
ネカフェの胸辺りまである看板と、電柱の狭間に三角座りをする一人の彼女、いつかの黒猫のように濡れた髪と、良心に訴える様な幼い琥珀眼を濡らしていた。
名を忘れた、声を忘れた、柔らかさを忘れた、顔を忘れた、身体を忘れた、柔らかさを忘れた、香りを忘れた、温かさを忘れた。その白い顔は俺を見上げた。
沸き上がった感情を抑えるようにその雨はさらに冷たく撃つ。
そしてこの出会いを境に、俺はすこしずつ、昔の何にも代えがたく、温かい日々を思い出していくきっかけになった。
けれど、きっと、俺には辛く、思い出したくないものだ――。




