26話『すべてを忘れたころに彼はまたーー』
そんな夢から二年が経って、ようやく目が覚めた。
十七歳の冬、高校三年最後の冬に俺は毎日、大それた目的もなくバイトをしていた。
バイト、というのはお手伝いの上位互換の様な物で、働いた分だけお金がもらえる。
別に楽しいという訳でもないが、辛いということもない、人と接するのは苦手だったかもしれない、けれど今ではなんだか楽しい。
店長もいい人で、最近よく飲みに誘われる、けれど未成年の身だ、断るしかない。そのたびに早く十八になれよという。あと二か月もすれば十八になってしまう……。
「雨……」
ツトツト細い雨が降り始める。天気予報はそんなこと言っていなかった。過信できないなぁ。
けれど久しぶりの雨だった。
十一月夜の二十二時。フルタイムで朝からバイトだった、帰りは少し遅いがいつもの事。
疲れた身体にはちょうどいい雨かも知れない。
気温は十三度を下り、それでも街は独特の人の暖かさがあってなんだか好きだ。
頭に電撃が走る。そんな嫌な頭痛にここ半年、苛まれている。
俺はその時、きっと、泣いていたのだと思う。
どこか懐かしい黒髪の少女は、かつて小学生の頃拾った黒猫みたいに。
雨は罪悪感を際立てるように強く叩きつけ始める。
俺はちょうどいいところにあったコンビニに走り、大きめのビニール傘を一本購入。
まだうずくまる少女に、俺は傘を差した。その範囲だけ雨は止むのに、俺は今だ、雨に打たれていた。
その涙は、押し固められた灰を溶かしていくようだった。




