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彼女と黒猫  作者: M.H
彼女と黒猫 (上)
26/54

26話『すべてを忘れたころに彼はまたーー』

 そんな夢から二年が経って、ようやく目が覚めた。

 十七歳の冬、高校三年最後の冬に俺は毎日、大それた目的もなくバイトをしていた。

 バイト、というのはお手伝いの上位互換の様な物で、働いた分だけお金がもらえる。

 別に楽しいという訳でもないが、辛いということもない、人と接するのは苦手だったかもしれない、けれど今ではなんだか楽しい。

 店長もいい人で、最近よく飲みに誘われる、けれど未成年の身だ、断るしかない。そのたびに早く十八になれよという。あと二か月もすれば十八になってしまう……。

「雨……」

 ツトツト細い雨が降り始める。天気予報はそんなこと言っていなかった。過信できないなぁ。

 けれど久しぶりの雨だった。

 十一月夜の二十二時。フルタイムで朝からバイトだった、帰りは少し遅いがいつもの事。

 疲れた身体にはちょうどいい雨かも知れない。

 気温は十三度を下り、それでも街は独特の人の暖かさがあってなんだか好きだ。

 頭に電撃が走る。そんな嫌な頭痛にここ半年、苛まれている。

 俺はその時、きっと、泣いていたのだと思う。

 どこか懐かしい黒髪の少女は、かつて小学生の頃拾った黒猫みたいに。

 雨は罪悪感を際立てるように強く叩きつけ始める。

 俺はちょうどいいところにあったコンビニに走り、大きめのビニール傘を一本購入。

 まだうずくまる少女に、俺は傘を差した。その範囲だけ雨は止むのに、俺は今だ、雨に打たれていた。

 その涙は、押し固められた灰を溶かしていくようだった。


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