17話『夏休み終わりからバイト』
「やったじゃん! おめでと、結婚式は呼んでね?」
莉緒と会ったのはなんだか久しぶりな気がする二日後の事。莉緒は特に心の底から喜ぶでもなくて、むしろ、そうなるのが当然でしょ? と、さすが保証してくれただけある。
「で、めっちゃ手つないだ」
「――ブッファ! げほげほ……急に、小学生みたいな喜び方しないでよ気持ち悪い」
ホットの紅茶を思わず噴き出した莉緒。恥ずかしさに顔を染めながら紙ナプキンで拭いていく。親切心で手伝おうとしたら手を叩かれた。
「し、仕方ないだろ、初めて付き合うんだから……それで、相談っていうか、頼み事なんだけどさ」
「なによ。やめてよね、変なこと頼むとか」
「俺が変な事頼んだことないだろ、まぁ、頼みって言うのはさ、バイトなんだけど……よかったら、一緒に同じところでやらないか?」
「は? なんで? もう浮気ぃ?」
「失礼な! 付き合ってまだ二日だというのに浮気なんてするわけないだろ! 莉緒は俺をなんだと思って――……まぁそれは良い。ほらこの前バイト探してたじゃん、ひとりだと心細くても、二人なら何とかなるんじゃないか?」
莉緒の家はすごく大きい、俺が住むアパートが十個くらいなら余裕で入りそうな敷地を持っている、そんな莉緒は夏休み前にバイトを探していた。お金には困っていないが社会体験をと、そう言っていたのを思い出し、ちょうどいい、だから誘ってみた。他意はない。
「いやいや、それは良いんだけど、そうじゃなくて。なんでいきなりバイトしたいなんて言い出すのかって? まさか、結婚式費用とか……いわないわよね?」
「ほんとか! いやぁ断られたらどうしようかと思ったけどこれで安心だな。まぁ結婚式費用、って事じゃないけどさ……それもあるけどさ、ほら、俺、三月と付き合ったじゃん? だから今年のクリスマスは、ねぇ? プレゼントとか、あるじゃん、そのためのお金が欲しいなぁって……なんだよ、その顔は……」
俺は自分で言っていて少し恥ずかしくなった。あ、恋って、こんなのなんだ。
そんな修哉に莉緒は口の端を痙攣させていた。思わず俺は不貞腐れたように片頬を膨らませる。
「あぁ……いいや、素直に引いてた……でもまぁ、良いんじゃない。もう恋人同士だし、修哉がやることはたぶん、三月の為だし私は応援してあげるよ……で、なにあげんの? マフラーとか?」
「それは……まだ俺の口からは、恥ずかしい!」
「……」
「それで、バイト先の事なんだけどさ――」
そのあと、莉緒は俺の話の腰を折ること無く進んだ。とりあえず莉緒は窓の方に視線を投げていたがうんうんとうなずいていた。
三月にもちゃんと莉緒とバイトすることを伝え、承諾される。ミカンの世話も快諾してくれた。さすがだ……。
そんな日から間もなくして始業式は来てしまった。




