14話『やはり夏はチョコミント』
「夏になると食べたくなるんだよなー」
そうひとりごちる。周囲に人が居ないそんな空いた時間帯。俺はコンビニのアイスケースをカバー越しに覗き込む。とりあえず莉緒の頼んだアイスと、夏と言えばチョコミント、俺はチョコミントを手に取った。三月はいらないらしいがとりあえずこの前食べていたのと同じのを買えば間違いは無いだろうと、大福のアイスを買う。
「何、コレ? なんの、冗談?」
「あれ? チョコミント、もしかして食べられない人?」
「食えるかこんなもの!」
すっ飛んできた爽やかグリーンのアイスを両手でキャッチ。
まったく今時の女子高生は食べ物を粗末にし過ぎだ。
それより殺意むき出しのその顔を早く落ち着かせてほしい。ミカンも逆毛立てている。
「冗談だよ、これだろ? あんま食べ過ぎると太るぞ?」
「余計なお世話。最初からこっちを寄越しなさいよ」
「三月は食べるか?」
「……じゃぁいただきます」
べりべり蓋を剥がし、ミントカラーの爽やかな香り立つ草原にも似たアイスをスプーンで掬う。一口含み、舌の上で溶け染み渡り香る爽やかさは呼吸と共に鼻を突き抜け爽快。味よし香りよし、俺はそんなチョコミントが大好物だ。だがどうもこの想いを共有することはできずにいる。
食べるごとに幸せを顔にする俺に怪訝な視線を送るのは莉緒。まったく、怒ったミカンみたいだ。まぁそんな顔も可愛いものだと、男心が叫ぶ。
ミカンは新鮮な生餌を前にしたゾンビみたいに鉄格子から爪むき出しの手を伸ばし、俺の袖を引っ張ろうと頑張るがあと少し長さが足りない。くふふ、可哀想な奴めぇ……と、俺は引っ掻かれそうで引っ掻かれないそんな距離を保つ。
「そういえば、私明後日予定があったの思い出したー……だから花火大会、二人で行ってきなよ」
莉緒はパンと手を叩いてそう言った。
「随分と急だな……」
「まぁだから、そう言うことだから楽しんできてね。あと写真よろしく」
そう莉緒に気が取られていたせいで足元の注意が完全に削がれた俺は言葉にならない叫びをあげた。
当のミカンは俺の叫びに驚き琥珀眼を向ける。こいつ……本当に憎たらしい顔を。
「まぁ、分かった……残念だけど明後日の花火大会は俺と三月だけか」
「不満なわけ?」
「いいや、十分すぎるよ、この身に余る幸せ。そういえば気になってたんだけど……浴衣とかやっぱ着るの?」
「……」
「……」
「どうなの?」
「…………内緒」
三月は困ったように微笑んでそう言った。
俺は早速楽しみになってきた。今から鼓動を早くしてどうする――。




