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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ブレメーンシリーズ

赤い救急車が、来た話。

作者: NiO

『さてクイズだ。


 現代日本において、人間を殺すことが出来る職業はたった2種類なんだけど、わかる?』


『……なんだよ、やべえ職業のヤツ、って、こと?』


『あはは、違う違う。


 それはね……』






 ###




 8月某日 真夜中の午前1時過ぎ。


 前日から救急室のエアコンは故障していた。


 救急当直の医師である佐藤は全身汗だくになりながら、残っていた患者をようやく帰宅させることに成功し、救急室の椅子に座り込む。


「ちょっとセンセー、そこの扇風機、私が使ってるんですけど」


「いや、ホントに、マジで暑くて死んじゃうってオレ……。


 あ、そうだ!


 田中さん、ちょっと熱中症用の冷やした生理食塩水(せいしょく)500ml、点滴し(打っ)てくれない?」


 佐藤は田中に滅茶苦茶な頼みごとをするが、看護師である彼女は当然の様にそれを断る。


「ダメに決まってるでしょ。


 ほら、やっと患者さんが途切れてるんだから、今のうちに寝てきたらどうですか」


「ぜってー寝れねーし、こんなクソ熱帯夜……」


 佐藤は扇風機の前から立ち上がると、薄い紙カルテを1つ摘み上げて、団扇代わり使い始める。


「さて、カルテ整理もひと段落付きましたし、私も一旦看護師当直室に引っ込みますけど。


 扇風機、部屋に持っていかないでくださいね!」


「ちっ。


 うぃーっす」


 田中看護師にカルテを取り上げられ、代わりに小さな団扇を手渡された佐藤医師は、聞こえないように舌打ちすると医師当直室へ向かうのであった。


 #####


 当直室にやってきた佐藤は部屋の冷蔵庫を開け、買ってきておいた50:50カフェオレ(1L)を取り出すと、氷をたっぷり入れたコップの中にそれを注ぎ込んだ。 


 そして、それを一気にゴブゴブと音を立てて飲み干す。


 -液体の冷たさで自身の胃の形が分かる気がする-


 そんなどうでもいいことを佐藤は考えていた。


 数時間もの間、糖分どころか水分も摂っていなかった体には、本当にありがたい飲み物である。


 近いうちに糖尿になるな、と考えながらも佐藤は再度コップの中にカフェオレを注ぎ足していた。


 近くの椅子に座りながら今日を……もう昨日になるが……振り返る。


 今回の救急は荒れたなあ。


 高齢者で誤嚥からの窒息による心肺停止(CPA)が突然飛び込んできたのが朝の10時。


 急性心筋梗塞(ACS)と思わせきやメインがStanford A型:解離性大動脈瘤の患者にぶち当たってヒヤッとしたのが昼の13時。


 高エネルギー交通外傷とwheeze4度の喘息重積発作と修学旅行生15人のインフルエンザ疑いが同時に来たのが夕の17時。


 そして、意識障害を主訴に救急車で運ばれた泥酔の入れ墨オジサンが、目を覚まして暴れまわったのが夜の22時。


 マジで、なんて日なんだ。


 ……いや、やめやめ。


 取り敢えず今は、もう考えるのを止めよう。


 今日はなんだか重症患者に当たる日だ。


 これから7時間、まだまだ引く(・・)可能性は十分にある。


 だったらば、いったん頭を空っぽにして脳を休めよう。


 佐藤はそんなことを考え、机の上に無造作に置いてあるリモコンに手を伸ばす。


 壁に掛けられたテレビの電源が入り、今日のニュースが流れ始めた。


 時刻は午前2時15分前。


 ニュースのアナウンサーは、綺麗な発音でまがまがしいニュースを伝えていた。


『県内のニュースをお伝えします。

 13人もの人間を殺害した渡辺一郎容疑者は、パトカーに追われている最中に崖から転落しました。


 しかし、駆け付けた警察官が車内を調べたところ中に人はおらず、警察は犯人が車を置いて逃亡したと見て引き続き容疑者の行方を捜索しております』


「崖から転落、ねぇ……」


 佐藤はニュースの内容をなんとなく目で滑らせながら、カフェオレを啜っていた。 





 その時。





 plllllllll(プルルルルルルル)



 plllllllll(プルルルルルルル)



 plllllllll(プルルルルルルル)




 救急車からの直通電話のベルが、部屋の中に鳴り響いた。



「やっぱりね、今日は荒れる日か……」


 佐藤はひとりごちると電話の受話器を取り上げる。


「はいもしもし、こちら城東病院」


『ザザ……ザザザザザ……』


「……もしも~し? 何消防さんですか?


 電波が悪いのか、全然聞こえませんよ~」


『ザザ……ザザザザザ……』


 佐藤は首を傾げる。


 こんなことは今までなかったと思うが。


「……もしもし~? 


 患者の主訴は?


 生命兆候(バイタル)とか、教えてもらえます?」


『ザザ……ザザザザザ……』


「……あの~? 


 既往は?


 城東病院(ウチ)はかかりつけ?」


『ザザ……ザザザザザ……』


 切ってやろうか、と考えた佐藤は、一応、最後の質問をする。




「患者の、氏名は?」




『渡辺 一郎』




 そして、電話が切れた。



「……は?


 は? は? は?」



 あまりにも唐突な電話に、佐藤は絶句した。


 患者の名前だけを告げて一方的に電話を切る救急隊などあり得ない。


 しかし、それ以上に分からないのが。




 患者の名前が(・・・・・・)例の(・・)行方不明の(・・・・・)大量殺人犯(・・・・・)だったのだ(・・・・・)


 ……いや、行方不明とはいっても、ニュースの中での話。


 もしかしたら、ついさっき見つかったのかもしれない。


 救急車を呼ぶほどではない怪我だったので、警察が送ってきているのだろうか。


 であれば電話の要領を得ない対応も理解できる……か?


 まぁ、よくわからないが、来るものは仕方がない。


 佐藤は隣にいるはずのナースに声をかけようとして、手が止まる。


「あ、あれ?


 なんで誰もいないんだ?」


 救急車直通の電話は緊急である。


 当然看護師も電話の元へ赴き、詳細を確認しなくてはならない。


 今日の当直ナースは3人いたはずだ。


 まさか全員寝過ごしているなど有り得ない話である。


「どうなってるんだ、本当に……」


 佐藤は残っているカフェオレを飲み干すと、当直室を出る。


 救急救命室(ER)を通って、看護師当直室へ向かい、ナースを起こしてこよう。


 そんなことを考えていた佐藤は、ER室の扉を開き、驚愕する。


 救急車用の入り口に、既に救急車が到着していたのだ。


 あれ?

 サイレンの音なんてしたかな?

 救急車用の自動ドアは外から開かない仕組みだったんじゃ?


 色々な疑問が沸き上がるものの、それ以上の疑問の前に、その他の疑問は消し飛ばされる。


 即ち。



 なんで(・・・)救急車が(・・・・)赤いんだ(・・・・)



 ……と言う疑問に。




 ……梯子やらホースやらはついておらず、消防車と言うことは無いだろう。


 独特のフォルムとサイレンの形からは、やはりどう見ても救急車だ。


 車の正面である、顔の部分……フロントのライトの形が他の救急車と違うせいで、少しだけ、怒った猫の様にも見える。




「赤い……救急車?」



 それはまるで自動ドアを額縁にする地獄をモチーフにした(・・・・・・・・・・)絵画(・・)のようであった。


 音もなくクルクルと光るサイレンは、その車体を燃え上がる様に演出している。


 熱帯夜のど真ん中に現れた炎の様なそれに、佐藤は逆に薄ら寒さを感じた。




 -警察車両の、新型、とか?-




 先程から警報をならしている本能を押し込めて、佐藤は無理矢理納得しようとする。


 救急車からは、警察が出てくるだろうか。


 そんな淡い期待は、すぐに打ち砕かれる。


 出てきたのは、動物の骨の(・・・・・)被り物をした(・・・・・・)スーツ姿の(・・・・・)者たちであった(・・・・・・・)


 一目見ただけでもオカシイその異形に、佐藤はたじろぐ。


 これは、むしろ、アレだ。


 パーティー用の被り物なんかではなく。


 社会の教科書に載っている『ペストの医師(・・・・・・)』に近い。


 おかしな格好なのに、笑えない。


 そんな者たちが、4人ほど救急車から現れて。


 そして佐藤が自己葛藤している間に、救急車はその後方から救急患者を吐き出したのであった。


「お、おい、ちょ、ま……」


 佐藤がそんな言葉を発したのも、無理はない。


 出てきた患者が(・・・・・・・)重症なんてもの(・・・・・・・)じゃあなかった(・・・・・・・)からだ(・・・)



 顔面打撲、恐らく多発顔面骨骨折、気道閉塞の疑いあり。

 胸部打撲、恐らく血胸、多発肋骨骨折、フレイルチェスト、緊張性気胸、そして、場合によっては心タンポナーデ、心破裂。

 腹部打撲、恐らく腹腔内出血、骨盤骨多発骨折。

 そして、恐らく頚椎骨折、その他恐らく四肢多数骨折。


「お、おいおい……シートベルトしなかったな、アホめ……」


 ABCDEプライマリー・サーベイをしたら、全部引っかかるような患者が現れたのだ。


 まあ、まず、間違いなく(・・・・・)心肺は停止している(・・・・・・・・・)



 当直に医師が1名しかいない弱小救急には、絶対救命不可能な状態(・・・・・・・・・・)だ。



「た、直ちに心臓マッサージ!


 ナース、おーい、出てこーい!


 挿管……の前に胸腔ドレナージの準備、早く!」


 佐藤は心臓マッサージを開始しながら、看護師当直室へ大声で叫んだ。


「受付の高橋さん!


 院内コール、スタッフ全員呼び出して!」


 同時に、受付にも声をかける。


 患者がいなければ眠ってもよい医師と違って、受付担当は、眠ることはないからだ。


 しかし……。


「な、なんで、どこからも反応がないんだ……!


 ナース!


 受付!


 ちょ、あんたたち、何見てるの!


 心臓マッサージ手伝って!」


 看護師からも、受付からも、何の反応もなかった。


 佐藤は必然的に、患者を連れてきた異形の者たちへ声を掛ける。


 しかし、彼らは、四隅に立ったまま、身じろぎすらしない。


「ちょ、おい、お前ら!


 俺は胸腔ドレナージして、点滴の管(ライン)をとって、採血して、エピネフリン打って、気管挿管して、心電図取って……やること沢山あるんだ、お前らも手伝えよ、おい、おい!」


 一人で心臓マッサージをする医師を、彼らはただ、静かに見つめるだけであった。


「……くそ、心臓マッサージ、一時中断!」


 これほどの重症患者に対して一人で心肺蘇生など、絶対不可能だ。


 佐藤は断腸の思いで心臓マッサージを中断し、看護師当直室を激しくノックし、受付へ足を運ぶ。


 しかし……。


「誰も……いない?」


 そこには、誰も(・・)いなかった(・・・・・)



 電話を取り上げ、院内コールを行おうとしたが、電話もつながらない。


「おいおい、本格的に、どうなってんだ、コレ……」



 #########


 それから、佐藤は、一人で頑張った。


 可能な限り心臓マッサージを行いながら、胸腔穿刺を行い、鼠径部から静脈点滴用のラインを取って、それから、それから……。


 ……しかし、血液ガスの検査を見て、心が折れた。


「……pH6台前半、か……。


 他の採血結果も滅茶苦茶だし。


 ……心肺停止して、1時間は立ってるんだろう、なぁ……」


 一般的に、心肺停止後3分から5分で、脳は機能を停止すると言われている。


 それ以降は例え蘇生したとしても、脳に著しい障害が出る。


 そして、10分以上経ったら、その生存率は、医学的には、0パーセントだ。


 1時間の心肺停止なんて、まあ、まず間違いなく、助からない。


 それでも医療従事者であれば、少ない可能性にかけて心肺蘇生術を継続するところではあるが、何せ、それを行うだけの人数もいないのである。


 佐藤は、心肺蘇生術を終了し、心臓と、呼吸と、脳の運動確認に入った。



 すなわち(・・・・)死亡確認だ(・・・・・)



(心臓停止確認、呼吸停止確認、脳停止確認。


 ……うん、どうやったって、死んでいる。


 つか、既に死斑も出てるし)


 佐藤は、例え人数がいたって絶対に助けられなかったのだと、改めて自分に言い訳して、静かに頭を下げた。


(……さて、これから、どうするか、ねぇ)


 患者が医学的に死んでいるとしても、それで話が終わるわけではない。


「警察と、家族に、連絡、だなぁ」


 ……むしろ、医師としては、ここからが面倒臭いところでもある。


 何しろ、まだ、患者は。


 ……法律的には(・・・・・)死亡して(・・・・)いないのだから(・・・・・・・)




 #########


『クイズです。


 現代日本において、人間を殺すことが出来る職業はたった2種類なんだけど、わかる?』


 佐藤は、大学時代の友達が出した問題を思い出していた。


 ちなみに、答えは『医師と、歯科医師』。


 彼らだけが(・・・・・)死亡診断書を提出する(・・・・・・・・・・)ことが出来る(・・・・・・)


 そして、死亡診断書を提出しない限り、腐乱していようが、白骨化していようが、決して死亡扱いには(・・・・・・・・・)ならない(・・・・)


 つまり、現代日本において。



 医師と歯科医師しか(・・・・・・・・・)人間を殺せないのだ(・・・・・・・・・)



(極論、だけど。


 ……今なら、言っていること、少し、わかるがねぇ)



 大学時代は冗談としか考えていなかった友達のクイズであるが、医師となった佐藤は、今更ながら少しだけ腑に落ちるところもあることに気付く。


 佐藤にも、経験があるからだ。


 すなわち。


 医学的には死亡しているにも関わらず、配偶者が病院に到着するまで、無駄とも言える心臓マッサージをした経験や。


 医学的に死亡を確認した後に、他県から急いで向かっている患者の子供達がいると話を聞いて、死亡宣告を2時間程遅らせた経験が、あるからだ。


 患者を生かすも殺すも、医師の匙加減次第。


 それは、ある意味(・・・・)、正しい言葉である。


 そして、佐藤は、この患者の死亡宣告を現時点で行っていいものかどうなのか、頭を悩ませていた。



「できれば患者の家族……最低でもまともな警察官が立ち合いの元でないと、現時点での死亡確認は、いろいろ問題を引き起こす可能性がある……気がする」




 頭を抱えながら、佐藤は再度、110番に連絡を掛ける。


 そして、当たり前のように繋がらない。


 ……うん。


 おかしい。



 いまさらながら、佐藤は、現状の異常さを自覚していた。


 見つかっていないはずの、連続殺人犯の遺体。


 4隅に立つ、頭に動物の骨を被ったスーツ姿の者たち。


 そして。


 未だに外で、その存在感をアピールしている、赤い救急車(・・・・・)



「……あ、そうか、しまったな」



 ここで佐藤は、動物の骨を被った者の一人が、紙のようなものを持っていることに気が付いた。


 通常、救急搬送された人間がいた場合、その人間を間違いなく病院へ搬送した証明として、医師のサイン必要なのだ。


 そして、それを貰わない限り、救急隊は帰宅することが出来ない。


 通常は来院した時点で記載するはずであったが、患者が患者であったため、今の今まで記載することをすっかり忘れていたのだ。



「あ、すんません、サイン、しますね」


 心臓マッサージを手伝わなかったオカしい奴らだとはしても、彼らには彼らの言い分があるかもしれない。


 佐藤は自分の感情をそうやって無理矢理納得させると、その紙を持つ者に、近づいて行った。



「……ん?」



 佐藤は、その紙を、訝し気に見つめた。



 その紙が、医師のサインを記載させる紙ではなく。



 ……まだ何も記載されていない……死亡診断書(・・・・・)だったからだ(・・・・・・)



 通常の医師であれば、その異常さに、恐れ戦くであろう。


 人によっては、恐怖で泣き叫ぶかもしれない。




 ……しかし。



 佐藤医師は(・・・・・)激情家であった(・・・・・・・)



 簡単に言うと、激怒した(・・・・)


 今までの自分が行った行為を、無駄であったと一笑に付すような、その書類…… 死亡診断書に向かって。


 彼は力いっぱいに『お前らが死ね(・・・・・・)』と殴り書くと。


 動物の骨を被った者たちに向かって、投げつけたのであった。















 あああああああああああおおおおおおおおおおおおおお












 突然、赤い救急車が、サイレンを鳴らし始めた。




 それは、まるで、獣の(・・)雄叫び(・・・)



 異形の者たちも、獣のような声を上げて、動揺しているのが見て取れた。



「え、な、なに……」



 佐藤も、戸惑いの声を上げる。



 そんな中、赤い救急車が。



 巨大な火柱となり。



 救急室へと(・・・・・)突っ込んだ(・・・・・)




「……え……!?」




 救急室にいる者は、佐藤も、患者も、そして、異形の者も、等しく火柱に巻き込まれて……。






 ##################



『それは、佐藤、『火車(・・)』ってやつ、じゃないかな?』


「火車?」


 佐藤は、携帯の向こうにいる同期である鈴木へ、返事をした。


 もともとオカルトに興味のあった友は、興味深そうに自身の経験を確認した後。


 とても簡単に、核心部へと、踏み込んでいく。


『『火車』……もしくは『火の車』。


『火車』は葬式や墓場から死体を奪う猫の妖怪で。


『火の車』は悪事を犯した人間を、地獄へと連れ去る妖怪だ。


 牛頭馬頭などの地獄の獄卒が、燃えたぎる炎に包まれた車を引いて迎えに現れる、らしい。


 俺はどちらも同じ妖怪が、何らかの伝承の過程で変化していっただけのものであると考えていて、それは残された文献からも容易に推察することが出来……』


 鈴木の言葉を無視して、佐藤は、言葉を繰り返す。


「『火の車』……『地獄の獄卒』……」


 それらには、非常に、見覚えが(・・・・)聞き覚えが(・・・・・)あった(・・・)




 ……佐藤は、救急室で、目を覚ました。


 横には、死体となっている渡辺一郎がおり。


 既に、『火の車(・・・)』も、『地獄の獄卒(・・・・・)』も、そこにはいなかった。


 警察を呼び、死亡確認をし……なんだかんだで、医師としては、無事に対処を終えた佐藤であったが。


 結局、今回の出来事の意味が分からなかった彼は、友であり、医師であり、オカルトマニアであり、例のクイズ(・・・・・)を出した張本人でもある鈴木へ、ヘルプのコールをしたのであった。


『『火の車』は、基本的に、どんな悪人であろうとも、死んだ人間しか、冥府へと送ることが出来ない。


 そう、死んだ人間(・・・・・)しか(・・)


 だから、現代日本で死亡を確認できる、医師(きみ)の所へ向かったのだろう。


 ……まあ、相当な悪人であれば生者でも連れていくこともあるらしい。


 例に挙げると、『平仮名本 因果物語』では……』


「なる、ほど……」


 佐藤は鈴木の言葉を引き続き聞き流しながら、思い返して、納得した。


『きっと獄卒である異形の者たちは、単に、渡辺一郎の死んだ証……即ち、彼の死亡診断書が、欲しかっただけ、だったのかもしれない。


 もちろん、実際には、死亡を診断出来るのは医師と歯科医師だけではない。


 例えば『認定死亡』というものもあって……』


 鈴木の長話は更に続く。


 佐藤は静かにぼんやりとした相槌を打ちながら、重要な言葉を、待っていた。



『……そして、その死亡診断書に。


 佐藤、お前は、『お前らが死ね(・・・・・・)』と、書いた。


 これはちょっと、いろいろ解釈が面白いもので、なぁ。


 火の車としては、『獄卒こそが(・・・・・)真に連れていくべき(・・・・・・・・・)悪人の魂(・・・・)』と勘違いしたのかも、知れない』


「……。


 極悪人の渡辺一郎の元に、火の車が来て。


 連れて行こうにも、死亡診断書がないため、死者として扱うことが出来ず、ウチの病院に来た。


 うちの病院では、『獄卒こそが連れていくべき魂』と言われた。


 だから、獄卒を連れて(・・・・・・)地獄へ行った(・・・・・・)


 ……お前は、そう、考える、ってことか?」


『ん、まあ、そうだったら、面白いなって、くらいだ。


 ……ただ、それだと、一つ、気になることがあるんだが』


 歯切れが悪そうに、鈴木が、何かを付け加えようとする。


「……なんだよ、そりゃあ、俺の行動は、あんまり医師の道に則っているとは、言い難いけどさぁ」


『いや、そういうことじゃなくて……っと、やば、病院から呼ばれてるっぽいわ。


 電話切るぞ。


 何かあったら、すぐに連絡、くれよ!』


 佐藤が軽口を叩くが、鈴木は、なぜか少し慌てたように言葉を発した後、電話を切った。



 ……何を、慌てているのだろう。


 佐藤は、不思議に思った。


 赤い救急車は、火車、だったのだろう。


 極悪人、渡辺一郎を連れていくつもりが、佐藤の感情任せの行為で、獄卒を全員冥土へ送ってしまったらしい。


 獄卒には可哀想であるが、別に、特に慌てる理由など、見当たらない。



「渡辺一郎の両親も、喜んでいたし、な」



 渡辺の両親も、彼の死に目……実際には、医学的には死亡していたが……に間に合って。


 涙を流して悲しみながらも、私たちに感謝していた。


 大量殺人をした息子とはいえ、両親にとっては、当然、何物にも代えがたい息子、だったのだろう。


 そういう意味では、自分も、それなりの働きが、できたのかも、しれない。


 佐藤は、そんなことを考えた。




 ……なんだか背後で、『ありがとう』という言葉が、聞こえたような気が(・・・・・・・・・)した(・・)

 火車は、極悪人、渡辺 一郎を連れていくつもりが、佐藤の感情任せの行為で、獄卒を全員冥土へ送ってしまった。


あれ、じゃあ、極悪人・渡辺 一郎の魂は?って話。


いやはや。


佐藤先生に憑いちゃった、ということですかね?(笑顔で)



さて!


毎年、ホラー、書いてます。

楽しい作品だらけだよ!(宣伝)


2015

ブレーメンの屠殺場

https://ncode.syosetu.com/n9431ct/


2016

ハーメルンの音楽祭

https://ncode.syosetu.com/n1243dk/


2017 

ようこそ 裏野パークへ!

https://ncode.syosetu.com/n9433ec/


2018

まんまる虹のもり

https://ncode.syosetu.com/n8480ff/


現在連載中

油女様と子供たち

https://ncode.syosetu.com/n0090ey/

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