第一章 魔人族の国 五
外へ出ると明るく感じた空も夕暮れへと近づいていた。
夜へ少しずつ変化する空を傍観しながら、先ほど言われた称号について考えていた。
自分は、復讐したい相手さえも知らない。だが、このモヤモヤした感情がどうにも落ち着かなかった。
本当は憎む相手がおり、その者に復讐をしたいと常に考えているんだと思うほどに...。
「やはり、アミーラ様は以前の記憶がないのですね」
先ほどの結果に驚いた素振り見せたことでゴルドの疑惑が確証に至った。
「あぁ、本当に記憶がないようだ」
何がきっかけで記憶が消失したのかは定かではなかったため、アミーラ達は困り果ててしまった。
「原因が分かりかねますので、一旦家に戻り心を休ませてはいかがでしょうか?」
「そうだね、家に戻ろうか」
奴隷区からメインストリートにあたる場所へと移動していると魔族達が沢山集まって何者かを囲んでいた。何者なのかと前にいる魔族達の間を手で押し広げながら進む。
意外なことに魔族達が囲んでいた正体は、片翼の天使が二人。
片翼の天使はどちらも二つある翼の内、片方を無くしておりその片方の翼もボロボロの状態なのである。二人の天使は、片方は白花色のような真っ白の瞳をしており髪色も真っ白な天使。片方は、血に濡れたように真っ赤な色をした瞳に髪色は真っ黒な天使。
ほぼ全身が真っ白な天使は、髪型はミディアムのようで整った髪型をしていた。髪色が黒い天使は、一般的なショートをイメージとした髪型だった。
どちらも女性のような風貌でこちらを恐怖した様子で傍観している。
自分が何かを言う前に一人の上半身が狼の魔族が声を上げた。
「こんなとこに天使が何をしに来たんだぁ?」
魔族は獲物を見るように天使へ言う。すると、赤目の天使がこちら一歩踏み出した。
「ここに来たのは、私たちをこの場所に匿ってほしくてここへ来た」
そう言った赤目の天使は堂々と魔族への要望を言う。
「ほぅ、それでこの場所へ来たのか……」
その瞬間、その狼の魔族が殺意を露わにし襲い掛かった。ギリギリのところで攻撃が当たらないように調節をしたのだろう。目の前の天使には傷はなかったがそれ以上襲い掛かることをしていないが、狼の魔族は口を開く。その口から涎を垂らしながら…。
「まず貴様が考えるほど、世の中は甘くねぇ」
「貴様らがこの町を歩く度に俺達は気分が悪くなる...。なぜかって? 貴様らが我が同胞を何人も葬り去っているからだ。しかもだ、葬り去った後もあいつらは悪だの人殺しだのって言いふらしやがる。何を根拠に俺の同胞をやりやがったかは知らねぇ。俺は、三人ほど天使にあったことがあるがどれもあった瞬間に攻撃をしやがる...俺が何もしてないのにだ」
ただ狼の魔族は、今までの人生において天使にされたことを語る。周りの魔族達もそれに合わせるように咆哮を上げる。
「だからよぉ、貴様らを匿う必要もなければ俺らがやっちまえば簡単なんだよ...なぁ頼むよぉこの手でやらせてくれよぉ」
そう言うと爪の部分が大きく膨れ上がり、襲い掛かった。その周りにいる魔族達も…。
しばらくすると、その状況をアミーラは傍観をしていた。特に助けようと思わなかったのは分からないが何故か助けようと言う気にはならなかった。
魔族達は、飽きたのか少しずつ散っていき最後には狼の魔族も帰っていった。ちらりとこちらを見たが何も言わなかった。
目の前に広がる光景は、とても悲惨な状況だった。二人の天使はの周り血だまりが出来るほど出血をしており、壁にも付着していた。顔や体は傷だらけの状態ではあったが、天使の生命力はとても高いらしくどちらも呼吸音が聞こえてくるが、この出血なら数分もしない内に呼吸をしなくなるだろう。
ふと、アミーラは声をかけた。
「おーい、生きてるのか?生きてるなら返事して」
しかし、ビクリともどちらも動かないようだったのでアミーラは赤目の天使の髪を掴み、顔を上げさせる。
「聞こえてないようなら、やっちまうけどいいの?」
そう言うながら顔を上げさせた天使の目を見続けると、奥の方で少しだけ瞳孔が開くのが見えた。
アミーラそのちょっとした動作であることを決意した。
こいつらを配下にしようと……。
配下にする方法は事前にゴルドから聞いている...その内容は上下関係をハッキリとさせた状態での輸血である。輸血といっても一滴でいい。ただでさえ、魔族達に
軽く手を握ると掌から血が滴り落ちる。
アミーラは、二人の天使に近づくとそっと口を開かせ、掌から滴り落ちる血を天使へと飲ませる。
すると、小さな呻き声と供に天使は発狂する。
目の前で変質化し、天使の綺麗で真っ白だった翼は黒みがかかった真っ黒な翼へと変質するのだった。
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