序章
この世界は、混沌に満ちている。
そう思い始めたのはいつの頃だっただろうか…。
幼少期、当時農村暮らしであった自分は魔族と呼ばれる化け物の襲撃に合い、次々と火の粉舞い上がる中、幼馴染がその魔族達に攫われしまうのを目の辺りにしてしまう。自分は、父親にされるがまま地下の倉庫に連れて行かれ、大きな樽中で魔族達が過ぎ去るのを息を潜めて生き延びることが出来た。しかし、魔族達が立ち去った後は、ところどころに小さな炎が立ち込め、動くものは誰もいなかった。
自分の知っていた人達が誰もいなくなってしまったことで、自分一人で生き残ることを余儀なくされた。
魔物と呼ばれるやつらから逃げ続ける毎日。絶対に死んでなるものかとひたすら走り続け、足の皮膚から血が滴り落ちていようが逃げ続けた。やっとのことで大きな街にたどり着き、そこで運よくマタ=フィーレと言う貴族の女性に出会い、拾われることになった。
そこでの暮らしは、とても大変であったもののとても充実した毎日であったことを覚えている。
毎日繰り返される英才教育。
朝と夜に行われる模擬実戦トレーニング。
マナーや礼儀作法と言った一般常識。
どれをとっても自分には有難いものであり、自分の身になるものだった。
自分は、少しでも拾ってくれたフィーレに親孝行をしようと当時とてつもない高倍率を誇っていた騎士学校を目指した。ひたすら勉学を頑張り、その騎士学校を主席で合格することに成功した。
この現代、魔術や魔法といったものは少なからずあったが、使える人たちがごく少数であった。自分は使えるのではないかと模索してみたが、少数の中に入ることが出来ず、断念した。
騎士学校を卒業する頃に、騎士の称号をもらうことが出来た。少なからず親孝行が出来たのではないかと思って自分の家に帰ると忽然と家がなくなっていた。
農民の人に聞いたところ、王族に近い大貴族どもがフィーレを嫌っており、フィーレを罠に嵌め、盗賊達に襲わせたらしい。フィーレ自身は、魔法を使えることが出来たため、自分に仕えてくれたメイドや執事を全員ではないが逃がすことに成功したらしいが、フィーレは逃げることはなく、盗賊達に抵抗するも虚しく捕まったいう…。自分は必至の思いで探しに探し回ったが遂に見つけることは出来なかった。
この当時、初めて胸に嫉妬や憤怒といった感情がポツポツと芽生え始めた……。
騎士として国からの依頼が度々来る。
それから数年が経つ。
自分はやめるにやめれなくなった騎士の職務をしていた。
自分がよく任される依頼は、周辺の国の調査というスパイに近いことをしていた。そんなこと騎士のやるべきことではないとよく酒を飲み交わす知人が嘆いていたが自分は無くすものなんてものがない独り身であったため、断ることなく数十回と周辺の国や街へ赴き、調査を行い続けた。この時は、少し自暴自棄になっていたのかも知れない……。
こんなことを続けた報いが、四年後に訪れた。
周辺の国が結託して、自分を捕まえようと企んでいる情報を得た。自分は周辺の国かかわらず、様々な種族のところいき、情報に探りをいれていた。そのため、どの国にどれほどの戦力、資源や武装、人材といったものを知り尽くしていた。追われる日々が続く……人族、亜人族、機人族、天人族など沢山の種族に追われることになった。
追われ続ける日々の終着点は、この世界にいる魔王を打ち倒すために存在する勇者の剣による攻撃だった。
「君は、知りすぎたんだよ」
そう呟く勇者は、まだ自分よりも若い。十四、十五歳くらいだろうと予想できる。自分よりも若い者にやられるのは何とも言えないでいると血まみれで地面に倒れていた自分は、勇者の剣によって人族として人生を終えた。
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