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錬金術師の花嫁  作者: KUMA
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32話【偽られた積荷】

フラキスへと戻ったアルム一行は、飛行船ターミナルへと戻る前にまずアトランド軍の駐屯地に寄って盗賊団ラータに関する報告をする事にした。


「おおミラ殿、随分と早いお帰りで。それで、盗賊団はどうなりましたかな?」


駐屯地に到着すると、盗賊団に関する情報を提供してくれたトラウト大尉が出迎えてくれた。そんな大尉に、ミラは首を横に振りながら嘘の報告をする。


「あたしたちから逃げる途中で全員崖下に落ちていったわ。確認はできなかったけど、おそらくあの高さだと生きてはいないでしょうね。」


それを聞いた大尉は少し残念そうな顔になった。一応これでフラキスへの被害が無くなるのは間違いないのだが、やはり生きたまま捕らえて詳しい情報を聞き出したかったというのもあるのだろう。


「そうでしたか、それは残念です。では準備が整い次第、奴らのアジトである洞窟に調査隊を派遣させるとしましょう。もしかしたらまだ盗品が残っているかもしれませんので。」


「ええ、お願いするわ。あたしたちはこれから依頼人の社長さんの所へ報告しに行かなきゃならないから、これで失礼するわ。」


「ご協力、感謝します。」


そう言って大尉はミラたちに向かって敬礼した。嘘の報告をした事を少し心苦しく思いながらも、ミラたちはそのまま飛行船ターミナルへと向かった。






飛行船ターミナルに着いた一行は、早速社長に取り戻した鍵を見せる。それを見た社長は、大層嬉しそうな表情になった。


「間違いありません、この鍵です。本当にありがとうございます。」


「お礼なんていいわ。それよりも社長さん、あなたに聞きたい事があるの。」


鍵を受け取って喜んでいる社長に、ミラは単刀直入に言う。そんなあまりにも直球なミラを見て、アルムは少し嫌な予感がした。


「聞きたい事?どんな事でしょうか?」


「この飛行船ターミナルで運ぶ荷物の中に、“幸福の蜜”っていう積荷はないかしら?」


あまりにも軽率だが予想通りのミラの行動に、ガッカリした様子のアルムは思わず目頭を押さえる。そもそも、この社長自体あくまでも可能性の範囲であるとはいえ、幸福の蜜を密輸している人間と共謀しているかもしれないのだ。


「幸福の蜜…?いえ、そのような積荷は聞いたことがありませんな。」


「本当に?嘘ついてんじゃないでしょうね?」


ミラは疑わしげな目で社長を見る。そんな彼女の様子に社長も少し腹立たしくなったのか、やや強めの口調で答えた。


「本当です!どうしても疑うようでしたら、特別に積荷のリストをお見せすれば納得していただけますかな?」


そう言って社長は受付の奥へと戻ると、1分もしないうちに何かの紙束を持って戻ってきた。その紙束の一番上の用紙を手に取ると、ミラへと押し付けるように渡した。


「それが今日運ぶ予定の積荷です。どうぞご確認を。」


社長にそう言われ、ミラは渋々ながらも確認し始めた。アルムとイオンも左右から覗き込むような形で一緒に見ている。



『ルビー原石 1箱』

『トパーズ原石 1箱』

『白ワイン 2樽』

『瓶入りメイプルシロップ 50本』

『トマト 10箱』

『ナス 8箱』



見たところ、幸福の蜜という名前の積荷は書かれていない。ところがそのリストを見ていたアルムは、ある事に気付いた。


「積荷って言う割には、随分と量が少ないような気がするんだが?」


確かにアルムの言う通りであった。通常であれば、飛行船を用いた貿易などそれこそ箱や樽にして何十という量の積荷を一度に大量に運ぶ筈である。ところが、今見ているリストに書かれている量は控えめに言っても大量の積荷とは到底呼ぶことはできないであろう。そんなアルムの質問に、社長は率直に答えた。


「ウチは元々旅人の移動手段として飛行船を運行していますので、貿易は目的にしていないのです。依頼される積荷も、大きな会社としてではなく個人的に依頼してくることがほとんどでしてね。」


会社からの依頼ではなく、個人的なものならば積荷の量が極端に少ないことも納得がいく。だがそれと同時に、その話を聞いたアルムは1つの可能性について考えていた。


「なぁ社長さん、今日運ぶ予定だった積荷の現物を見せてくれないか?」


実際に積荷を見てみれば、よりハッキリするだろう。そう考えたアルムは社長に対して申し入れるが、対する社長は渋ったような表情をしている。


「いくら鍵を取り戻していただいた恩人といえども、さすがにそこまでは…。」


やはり顧客からの荷物を見せるのは抵抗があるのか、首を縦に振ろうとはしない。とはいえ、それに関しては致し方ない部分もあるだろう。アルムも無理に詰め寄るのは止め、ここはおとなしく引き下がる。


「わかった、それなら仕方ないな。ミラ、イオン。飛行船の準備ができるまでどこかで待ってよう。」


「はい、マスター。」

「あ、ちょっとアルム!」


外へ向かったアルムに続き、イオンとミラも一旦ターミナルの外へと出ていった。




ターミナルの外に出ると、少しイラついた様子のミラが早速アルムに意見する。


「あのままでいいの!?まだ完全に疑いは晴れてないわよ!」


ミラとしてはもう少しあの社長を問い詰めたかったのだろうが、その事に関してアルムは冷静に指摘する。


「ミラ、お前こそ少し安直過ぎるぞ。あんな直球に聞きやがって。仮にあの社長が幸福の蜜を作ってた奴らと本当にグルだったとしたら、俺ら間違いなく目を付けられてるぞ?」


確かにアルムの言う通りだ。もう少し慎重になるべきだったと、今更ながらにミラは少し反省した様子を見せる。


「…そうね、少し急ぎ過ぎてたわ。」


その横で、今度はイオンがアルムに尋ねる。


「それでマスター。この後はどう動かれるおつもりでしょうか?」


「社長から見せて貰った積荷のリストの中に、気になるものが2つあった。“メイプルシロップ”と“白ワイン”だ。それをどうにかして調べたい。」


確かに積荷リストの中には、その2つが書かれていた。とはいえ先程の話にもあったように量自体は少ないものの、どちらも貿易品としては然程珍しいものでもない。当然のように疑問に思ったミラが質問する。


「それのどこが怪しいの?どっちも普通の積荷じゃない。」


「逆だよ。他の積荷は野菜や宝石しか無かったから、仮に薬を偽装したんだとしたらその2つのどちらかしかないと思うんだ。」


アルムの言うように、野菜や鉱石に薬を仕込むのは難しいだろう。だが輸送するのが瓶や樽であれば、中身の液体を丸々薬に入れ替える事自体は可能な筈だ。


「偽装?ってことは、あの社長はやっぱり嘘ついてたって事!?」


その事実を知りミラは少し怒ったような口調になったが、アルムはそれをなだめるように答える。


「いや、それはまだわからない。もしかしたら社長自身も騙されてて、彼は本当にただの貿易品としか思ってないのかもしれないからな。」


「社長は知らずのうちに犯罪の片棒を担がされていた、という事でしょうか?」


何となく状況を察したイオンの一言に、アルムは頷く。


「あの社長の態度を見る限り、俺はそうなんじゃないかと思う。どちらにせよ、実際に積荷を確認する必要がありそうだな。」


結局のところ、現時点では何が正しいのかまだハッキリしていない。そもそもアルムたちは盗賊のベルから話を聞いていただけであって、まだ幸福の蜜の現物すら見たことが無いのだ。


先程からアルムが言うように積荷の中身を確認するのが一番手っ取り早いのだろうが、それをしようにも大きな問題がある。その事に関して、ミラが怪訝そうな顔でアルムに尋ねた。


「でも、どうするの?あの分だと素直に積荷を見せてはくれそうにないわよ?」


見られるとまずい物が入っているのかそれとも単に仕事上の守秘義務かはわからないが、とにかくあの社長にはいくら頼んでも積荷を見せてもらうことは難しいだろう。だがその点については、既にアルムの中ではある方法が思い浮かんでおた。


「それに関しては俺に考えがある。とにかく今は、飛行船の出発の準備が出来るまで待とう。」


「本当に大丈夫なのね?」


ミラは不安そうな顔で尋ねたが、かといって他に良い方法があるわけでもない。3人は飛行船の準備が出来るまで待つことにした。

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