28話【盗賊と飛行船】
「なぁミラ。盗賊を探すとは言ったけど、アテはあるのか?」
飛行船のターミナルを出たアルムたちであったが、肝心の手掛かりが無ければ盗賊を探すのもままならない。それを疑問に思ったアルムはミラに尋ねたのだ。
「無いけど、それはこれから見つければいいでしょ。」
「あぁ、やっぱり…。」
ある意味予想通りであったミラの答えに、アルムは軽く脱力する。もっともミラの方も何も考えていないという訳ではなさそうであったが。
「とにかく、あの社長さんは他にも被害者がいるって言ってたわよね?まずは他の被害者から話を聞いてみない?」
割と明確なビジョンを持っていたようだが、それには1つ問題があった。それをアルムは指摘する。
「じゃあ、その被害者ってのはどうやって見つけるんだ?」
「あ、えっと…。」
急にしどろもどろになるミラ。どうやらそこまでは考えていなかったようだ。アルムは少し呆れたような表情になりながらも、冷静に案を出す。
「ミラ、お前この国では顔がきくんだろ?軍の人間に話を聞くこととかできないのか?」
おそらくアトランド軍にはそういった盗賊団の情報も入っているかもしれない。そう思ったアルムはミラの人脈を活用して話を聞き出そうと考えたのだ。
「そうね…直接コネがあるってワケじゃないけど、アトランド軍の上層部には知り合いがいるから、もしかしたら話を聞けるかもしれないわ。」
「よし、決まりだ。ならまずは軍の駐屯地に向かおう。」
とりあえず、目先の目標は決まった。一行は街の近くにある軍の駐屯地を目指すことにしたのだった。
軍の駐屯地へ向かう途中、何かを思ったのか不意にアルムが口を開いた。
「けどこの事件、何かおかしくないか?」
「おかしいって、何がよ?」
唐突な発言に、イオンはただ黙って聞いているだけであり、ミラはわからないといった様子で首を傾げている。そんな2人に説明するようにアルムは話を続けた。
「普通に考えたら、盗賊なら宝石とか貴金属みたいな金目の物を狙う筈だろ?それなのに飛行船の鍵を盗むだなんて随分とおかしな真似をするよな。」
確かにアルムの言う通り、普通は宝石や貴金属を狙う筈の盗賊が飛行船の鍵を盗み出すなど、どうにも腑に落ちない部分があった。だがそれに対してミラは反論する。
「わからないわよ?盗賊にも何か目的があるのかもしれないじゃない。」
「目的って、例えば?」
ミラの答えについて、アルムは更に深く尋ねる。そんな彼の質問に対し、ミラは急に複雑そうな顔になってしまった。
「なんだかよくわかんないけど、とにかく飛行船に飛ばれたら何か困ることがあるとかよ。」
かなり曖昧かつ漠然とした答えだったが、実は今のミラの発言は遠からずアルムの考えていた事に共通する部分があった。
「そこなんだよな。」
「そこ?どういうことよ?」
アルムの言っていることがサッパリ理解できないようで、ミラは少し苛立っていた。そんな彼女にもわかるように、アルムは順序立てて説明する。
「そもそも事の発端は今運航している二番機の飛行船が行方不明になったことだろ?」
「そうね。それがどうかしたの?」
「それは盗賊の仕業だと思うか?」
飛行船が行方不明になったのも盗賊団の仕業なのか。そんなアルムの質問に、ミラはやれやれといった様子で回答する。
「そんなワケないでしょ。今のところ二番機の飛行船がどうなってるのかはわからないけど、少なくとも普通の盗賊団が飛んでる最中の飛行船を奪うとかは無理でしょ。」
確かにミラの言う事はもっともである。だがアルムはここで、一番機の鍵の盗難と二番機の行方不明、2つの事件の接点について言及する。
「だけどこの2つの事件、タイミングが良すぎないか?」
「タイミング?」
相変わらずミラは話の内容がわからないといった様子で、難しい顔をしている。一方でイオンは、黙ったまま顎に人差し指を当てて何かを考えているようであった。
「つまり盗賊団は自分たちの意思じゃなく、誰かに依頼されて飛行船の鍵を盗んだんじゃないか、って思うんだ。」
ここで、アルムの考えを聞いたイオンが何かに気付いたかのような素振りを見せた。
「マスターは、盗賊団が飛行船を狙う誰かに雇われたとお考えなのですか?」
イオンの質問にアルムは頷く。
「あぁ。他の窃盗の件に関してはわからないが、少なくとも飛行船の鍵は盗賊団が狙っていた訳じゃなく、他の誰かに依頼されたんだと思う。」
「なるほど、流石はマスターです。」
「えっと、ゴメン…もっとわかりやすく説明してくんない?」
アルムの説明にイオンは納得した様子であったが、ミラはますます混乱したようだ。そんな彼女にもわかるように、アルムはより詳しい説明を付け加える。
「仮に二番機が誰かに襲われて行方不明になったのだとしたら、それを実行した犯人と、盗賊団に一番機の鍵を盗むことを依頼した人間が同一人物だとしたらどうだ?」
その説明を受けて、これまで話の繋がりが見えていなかったミラもようやくピンときたようだった。
「二番機が無くなったとしても、ターミナルにはまだ一番機の飛行船が残っているから、それすらも使えないようにする為に事前に手を打っておいたってこと!?」
ミラの言葉に、アルムは頷く。ここで、イオンは更にもう1つの事に気付いた。
「マスター。その仮説が正しいとするならば、盗賊団に依頼をした黒幕はターミナルに一番機が保管されているのを知っていた人物、という事になりますか?」
「そうだ。いい所に気付いたな、イオン。」
イオンの意見を肯定しつつ、アルムは更に説明を続ける。
「さっきの受付と社長の口振りからすると、おそらく一番機がまだ予備として保管されている事実は、そこまで広く知られているってわけじゃないんだろう。」
「という事は、黒幕は社長と親しい人ってこと!?」
話が少し見えてきたミラが大きな声を出した。決して的外れという訳ではなかったのだが、なだめるような口調でアルムは訂正する。
「親しいかどうかまではわからないが、少なくとも赤の他人が黒幕って事は無いだろう。」
確かに一番機が未だに予備として保管されている事など、見ず知らずの人間やこの街に来たばかりの人間が知るはずなどない。少なくとも、あの飛行船ターミナルの事情にそれなりに詳しい人物が関わっているのは明白だった。
だが他にも気になることがあったのか、ここで一旦ミラは話を戻した。
「でも、結局飛行船を飛ばせたくない理由がわからないままじゃない。それは一体なんなのよ?」
何となく話は見えてきたが、いずれも現段階ではあくまでも推測に過ぎない。せめて黒幕の目的でもわかればいいのだが、それについてアルムは肩をすくめながら答える。
「そこから先は盗賊団を取っ捕まえて、直接聞くしかないだろうな。」
「なによ、結局そうなるんじゃない。」
ミラはやや呆れた様子になった。やはり盗賊団に会ってみないと真相はわからないままのようだ。
20分程歩くと、軍の駐屯地が見えてきた。やはり国境に近い場所であるからか、それなりの規模がある。
駐屯地の入口では、当然のように見張りの兵士が立っていた。兵士はアルムたちの存在に気付くと、威厳のある態度で接してきた。
「おや、君たちは一体何者だ?アトランド軍に何か用かね?」
その質問に対し、ミラが前に出る。胸に手を当て、自慢気に名乗り出た。
「あたし、ミラ・イプスウィッチっていうんだけど?」
「ミラ・イプスウィッチ…何者だ?」
「えっ…?」
予想外の反応に、思わずミラは間抜けな声を出してしまった。自分が有名人であると自負していたミラは多少悔しそうな顔になりながらも、気を取り直して本題に入る。
「ここ最近、この辺りでラータっていう盗賊団の被害が多いそうじゃない?あたしたちが解決してあげるから、情報を貰えないかしら?」
何となく上から目線のような気もするが、一応は善意であるという意思を伝える。しかし、そんなミラの頼みを兵士は一蹴する。
「申し訳ないが、それを民間人に話すことはできない。」
兵士は頑なに話そうとしないが、そもそも軍の情報を民間人に話せないという事自体、当たり前と言えば当たり前である。だがそんな兵士に対し、ミラは小声で囁くように言った。
「あたし、実はクラウジウス大佐の知り合いなんだけど。」
ミラは脅迫するかの如く、唐突に個人の名前を出した。アルムにはその人物が誰なのかサッパリわからなかったが、少なくとも大佐という肩書きからすれば軍でもかなり上層部の人間の筈だ。
だが逆に、その名前を聞いた兵士は驚くどころか激昂する。
「嘘も大概にしろ!クラウジウス大佐のようなお方が、貴様のような小娘と知り合いである筈が無いだろうが!」
そんな兵士の返しに怒りが沸点に達したのか、今度はミラの方が声を荒げた。
「このわからず屋が!!そもそもあたしのこと知らないなんて無知にも程があるわ!あんたさては田舎者ね!?」
周りの目など全く気にせず、2人は駐屯地の入口で口論を始めてしまった。その様子を察したのか、駐屯地の奥から少し豪勢な軍服を着た兵士がこちらへ歩いてきた。おそらくだが、この兵士の上司であろうとアルムは思った。
「騒々しいな。軍曹、何の騒ぎかね?」
ミラと口論していた兵士は声に気付くと、慌てて敬礼をして事情を説明する。
「ハッ!大尉!民間人が盗賊団ラータの情報を教えろと言ってきているのですが…」
「おや、あなたはもしや、ネクロマンサーのミラ殿では?」
兵士の言葉を遮りながらミラに問う。どうやらこちらの兵士、大尉はミラの事を知っているようだ。大尉は先程の兵士を下がらせると、改めて自己紹介を始めた。
「私はこの駐屯地を預かっている、トラウトと申します。」
「あたしのこと、あなたは知ってるのね?」
「勿論。王都では貴女は有名人なのでね。先程の軍曹はほんの1年前に田舎から出てきたばかりなので、どうか大目に見てもらえるとありがたい。」
そう言いながらトラウト大尉は一礼する。一通り挨拶が済んだところで、早速大尉は用件について尋ねる。
「それで、今日はどう言ったご用で?」
ミラはこれまでのいきさつを話した。大まかなと説明が済むと、大尉は真剣な面持ちで頷いた。
「確かに飛行船が使えなくなるのは軍としても困りますな。よろしい、協力しましょう。」
大尉は懐から手帳らしき物を取り出すと、それをパラパラとめくり始めた。とあるページで手を止めると、その内容を確認する。
「実はついこの間、剣やナイフで武装した集団が近くの洞窟に出入りしているのを見たという兵士がいるのです。確証はありませんが、件の盗賊団である可能性は高いのではないでしょうか?」
確かに洞窟を根城にするなど、いかにも盗賊や山賊のやりそうな事だ。確定した訳ではないが、例の盗賊団である可能性も充分に考えられる。
「確かにその可能性はあるわね。場所を教えてもらえないかしら?」
「少し待っていてください、地図を持ってきます。」
そう言い残し、大尉は奥のテントへと消えて行った。
大尉が地図を持ってくるのを待つ間、アルムは先程から気になっていた件についてミラに尋ねた。
「ちなみにミラ、お前ナントカ大佐の知り合いって言ってたけど…」
「クラウジウス大佐ね。」
アルムの言葉を、ミラは途中で訂正する。
「そう、クラウジウス大佐。何でお前、軍の上層部の人間と知り合いなんだ?ネクロマンサーと何か関係あるのか?」
アルムの疑問ももっともである。確かにミラはアトランドではそれなりの有名人のようだが、ネクロマンサーと軍との接点など全くイメージがつかない。そんなアルムの質問に対して、ミラからは意外過ぎる答えが返ってきた。
「あたし、大佐の娘さんと学校で同級生だったの。」
「は?」
あまりにも斜め上からの答えに、アルムは拍子抜けしてしまう。だがミラの方はさも当然と言った様子で話し続ける。
「その子の実家に遊びに行く度に大佐と顔を合わせてたから、そりゃ顔見知りにもなるわよ。」
「仕事関係じゃねえのかよ!!」




