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錬金術師の花嫁  作者: KUMA
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1話【錬金術師の少年】

初投稿です。元々はNintendo Switch用ソフト【RPGツクールMV Trinity】用に書き下ろしたシナリオだったのですが、諸事情によりゲームの作製が滞ってしまい完成の目処が立たなくなってしまいました。

シナリオ自体は大半が完成していたので、このままお蔵入りさせるのも勿体ないと思い急遽小説用に文章を書き直して投稿させていただきました。


タイトルは自分の好きな漫画作品「鋼の錬金術師」と映画「フランケンシュタインの花嫁」から取っています。


「さて、これで必要な素材は全部揃ったな。」


深い森の中を、丈の長いローブを纏った金髪の少年が歩いている。左手には何かのリストが書かれたメモを持っており、それを確認し終えるとペンで最後の一行に印を付けた。


メモを懐にしまうと、目の前の樹の根元に咲いている花を摘み取り腰に付けた小さな鞄の中に入れる。


「あとは入口に置いてきた荷車引いて帰るだけか。」


用事が全て済んだので、来た道を引き返し森の入口へ戻ろうとする。と、その時、背後で何かが茂みの中を高速で移動するような音が聞こえた。


この森は街からそれほど遠くはなく危険な魔物が棲んでいるわけではないが、それでも猟師が狩りをしたり軍の兵士が訓練を行う程度には猛獣が生息している。


「おでまし、かね。」


振り返ると、2匹の狼がこちらを見ていた。明らかにこちらに敵意を持ち、今にも飛びかからんばかりに威嚇している。


戦闘能力のない一般人であれば一目散ににげるか腰を抜かして動けないところであろうが、少年は冷静に判断した。


「【ウルフ】か、2匹相手なら逃げるとかえって危険だな。」


ローブの下、腰に下げた鞘から刀を抜く。見た目は何の変哲も無い普通の刀のようだがただ一つ、刀身の根元には鍔の代わりに何かをはめ込むような窪みのある装置が取り付けられていた。


刀を抜いた次の瞬間、1匹の狼が地面を蹴って飛びかかってきた。しかし少年はその場を動かずに狼が自分の間合いに入るのを待っていた。


「今だ!」


刀を振り抜く。確かな手応えを感じると狼は地面に転げ落ち、やがて動かなくなった。すぐさまもう1匹の狼の方に向き直ると、何故か狼は背を向けて森の奥へ走り去っていく。


「逃げた…?」


勝てないと踏んで逃げ出したのかと思ったが、次の瞬間にはそうでないことがすぐにわかった。


自身の背後で枝を踏む音がし、振り返ってみると巨大な影が現れた。熊だ。


「【フォレストベア】!まだ冬眠中の筈じゃないのか!?」


季節的には今は初春と言える時期ではあるが、本来であればこの辺りの熊はまだ冬眠中の筈だった。しかし、他の仲間より早く冬眠から目覚めてしまった個体がいたとしてもそれほど不思議なことでもない。


そんな事を考えるよりも、今はこの状況をどう乗り切るかが重要であった。


「危ねっ!!」


フォレストベアが爪を振り下ろしたが、咄嗟に後ろに身を引き事無きを得た。どうやら冬眠から目覚めたばかりで空腹のせいか、相手は完全にこちらを餌としてしか見ていないようだ。生き残る為にはこちらも戦う他ない。


「フォレストベアの弱点は…火!」


少年は左手を掲げ、集中する。


一瞬にして何もない筈の手のひらから炎が上がり、やがて球体になった。そう、これこそ魔法である。


なのだが、完成した火球は握り拳程度の小さなものだった。正直言ってこんなもので2メートルはあろうかという熊をどうこうできるとは思えない。


「相変わらず俺って魔法の才能無えのな。」


やや自虐気味に言うと、折角作った火球を消してしまう。無論相手は待ってくれる筈もないので、すぐさま次の戦術に切り替える。


「やっぱりこっちだよな。」


少年はローブのポケットから手のひらに収まる程のサイズの赤い箱を取り出し、それを刀の窪みにはめ込む。すると数秒もしないうちに刀身が高温に熱された鉄のように赤く染まっていった。


湯気が立ち上る程に高温になった刃を構え、フォレストベアの懐に一気に飛び込む。


「ヒートブレード!」


フォレストベアの身体を斜め一直線に切り裂いた。熊は刀による傷と大火傷でしばらくもがき苦しんでいたが、やがて力尽きたのかその場に倒れこんだ。少年はそれを見て一息つくと、手に持った刀を見ながら呟く。


「あと一回だけ使えるかな。」


そう言いながら刀にはめ込まれた赤い箱を外す。すると先程まで赤熱していた刀身は徐々に冷えていき、普通の色に戻った。どうやらはめ込まれていた赤い箱は熱を発生させる装置だったようだ。


倒した熊は完全に絶命したようで、ピクリとも動かない。放っておいてもいずれは他の動物の餌になるのはわかっているが、折角なので有効活用させてもらうことにした。


「持って帰って肉屋に売るか。」


刀を鞘に収めると、地面に横たわっている熊の死体を担ぎ上げる。見たところまだ20歳にもなっていないような少年だが、それなりに鍛えているのか自分よりふた回りも大きな熊を担いで森の出口に向かって歩き始めた。








森で集めた素材と仕留めた熊を乗せた荷車を引きながら1時間ほど歩くと、大きな門と塀に囲まれた街が見えてきた。門の上に掲げられた看板には『オニークス』と書かれている。


門の前には1人の兵士が立っており、兵士は少年を見ると手を振って出迎えた。


「おう、おかえりアルム。」


「ただいま。」


兵士は少年…アルムの引く荷車を見て、少し呆れたような顔になった。


「大物が荷車に乗ってるみたいだが、今日は薬草を取りに行くだけって言ってなかったか?」


アルムは肩をすくめながら答える。


「こいつが勝手に襲ってきたんだよ。返り討ちにしたんだけど、折角だから有効活用させてもらおうかと思ってね。」


「相変わらず逞しいボウズだ。」


兵士は笑いながら門を開ける。アルムもいつも通りといった様子で荷車を引いて街の中に入っていった。








このオニークスは錬金術で栄えた国、【レムリアル共和国】の北西に位置する街である。


レムリアルとは違って魔法で発達した隣国【アトランド王国】との国境に近いということもあり、行商人や旅人の出入りが多く近年急速に工業や商業が発達していった。今では街の中には大きな市場や工場もあるほどだ。


街の市場に着いたアルムは、真っ先に肉屋へ向かった。言うまでもなく目的は荷車に乗った熊の事である。


「店長のおやっさんは…お、いたいた。」


肉屋の前に来ると、頭にタオルを巻いたやたらと体格の良い男性が台の上で猪の肉を切り分けていた。見事な包丁捌きで、大きな肉の塊を次々と小分けにしていく。一通り切り終えたのを見計らって、アルムは声をかける。


「こんちは、おやっさん。」


「おう、アルムじゃねえか。肉が欲しいのか?それとも何か動物でも獲ってきたか?」


店長は包丁をケースにしまうと、頭に巻いたタオルを外しながらアルムの方に近寄ってきた。


「うん、今日はこいつ。」


アルムは荷車に乗った熊を指差す。冬眠から覚めたばかりであるからか多少痩せていたが、それでも重さは100キロは軽く超えていそうだ。それを見た主人は大層嬉しそうな表情になった。


「また結構な大物獲ってきたな!いくらで売ってくれるつもりだい?」


「いつも通り1キロ100ゴルトでいいよ。」


それを聞いた店主は顔をしかめる。何しろ熊の肉が1キロ100ゴルトなど、本来の相場の1/10以下の値段だったからだ。


「またそんな破格のサービスしやがって!それじゃお前さんが儲からねえだろうが!?」


「いや、俺はこれで稼いで生活するつもりなんてないし。」


アルムは冷めた顔で否定した。


それもその筈、アルムは猟師でも商人でもない。この熊だって本業の仕事のついでに獲ったに過ぎないのだ。


それを聞いた店主も腕を組みながら笑って言った。


「そりゃそうか、何つったってお前さんは猟師じゃなく【錬金術師】だもんな!」


「笑ってないで早く換金してってば。俺この後大事な用があるんだからさ。」








肉屋で熊の換金を済ませたアルムは、オニークスの領主であるラッセルハイム伯爵の屋敷へと向かった。


今日の予定の中で一番、というよりもアルムの日常生活で一番重要な用事があるからだ。

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