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錬金術師の花嫁  作者: KUMA
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26話【国境の検問】

アルム一行は国境のすぐ目の前までやって来ていた。国境は大きな石造りの壁で仕切られており、中央には大きな門がある。この門をくぐれば、そこから先はもう魔法の国、アトランドなのだ。


だが、ここに来て大きな問題が1つあった。それに関して、アルムは頭を押さえながら考え込んでいる。


「国境までやって来たのはいいが、出入国には検問を通らなくちゃならないんだよな…。」


そう、国境を越えるにはそれぞれの国の側で出国および入国審査を受ける必要がある。出入国には当然許可証が必要となる上、しかもアルムは今現在レムリアル側では指名手配されている身だ。


「あたしは当然許可証持ってるけど、あんたたちは持ってないのよね?」


「許可証どころか、指名手配犯だってバレて終わりだろうな。」


中々いいアイディアが浮かばなかっが、ふとアルムが思いついたように言う。


「アルケミーグローブを使って壁に穴を開けるってのはどうだろう?」


「マスター、そんな大規模な術を使ってはエネルギーが足りずに触媒の魔晶石が途中で割れてしまうのでは?」


「それもそうか。」


「そーゆー問題じゃないでしょ!そんな事したら大騒ぎになるでしょうが!!」


とんでもない案を冷静に話し合うアルムとイオンに、思わずミラが大声で突っ込む。自分のアイディアを否定され、不服そうなアルムはミラに尋ねた。


「じゃあお前には何か案があるのか?」


アルムはあまり期待せずに聞いたが、当のミラはさも自信ありげな様子で答えた。


「その件なんだけど、あたしにいい考えがあるのよ。」


「考え?」


アルムは微妙に嫌な予感がしたが、他に良い方法があるわけでもないのでとりあえずミラの提案を聞くことにした。








数十分後、ミラは1人で国境の門の前にいた。門の前では出入国の審査を受ける人々が行列を作っており、ミラもその行列に並んでいる最中だ。


「次!」


国境を警備している兵士に呼ばれ、ミラは門へと足を進める。兵士は目の前までやって来たミラに対して口を開いた。


「では、許可証を。」


「はい。」


ミラは兵士に小さな紙を手渡した。紙は確かに出入国の許可証であり、しかもアトランド女王直々のサインと刻印がしてある。


「確かに。では荷物検査の方を。」


「はい、どうぞ。」


そう言ってミラは鞄を兵士に手渡し、受け取った兵士は中身を確認する。中にあったのはほとんどが衣類やアクセサリーであり、他には化粧品や携帯食料、魔法に関する本などが入っていた。


だが、兵士は鞄の奥に入っていた妙なものに気が付いた。取り出してみるとそれは小さな檻で、中にはそれぞれ金色と銀色の毛並みをしたハムスターが1匹ずつ入れられている。


「このハムスターは?」


「ペットよ。見ればわかるでしょ。」


兵士の問いかけに、ミラはさも当然といった様子で答える。ペットのハムスターを鞄に入れて持ち歩くなど兵士は聞いたことがなかったが、かといって何の変哲もないただの小さなハムスターが危険物と呼べる筈もないので、少々戸惑いながらも鞄に戻してミラに返す。


「よし、通っていいぞ!」


「どうも。」


ミラは兵士に軽く手を振ると、大きな門をくぐる。その門を抜けると、数週間振りのアトランドの景色がミラの眼前に広がった。


だが、これで終わりではない。先程の兵士はあくまでもレムリアル共和国側の出国審査である。門をくぐった後は、今度はアトランド側の入国審査を受けなければならないのだ。とは言え、ミラにとってはむしろこちらの方が自信がある。その理由は、入国審査を担当している兵士の態度からも明白であった。


「これはミラ様、お帰りなさいませ。」


「ただいま。」


先程のレムリアル側の兵士とは違い、アトランドの兵士は相手がミラだとわかると非常に丁寧な対応をする。どうやら彼女が以前アルム達に言っていた、自分はアトランドで顔がきくという話は本当のようだ。


「今回のお仕事はいかがでしたか?」


「いかがも何も、レムリアルの貴族からの死んだ妻と会わせて欲しいっていうだけの依頼だもの。ただ、たった15分だけ会話させてあげただけなのに80万ゴルトも支払ってくれたんだからやっぱり貴族は太っ腹ね。」


兵士に尋ねられ、ミラは仕事の内容を淡々と述べた。一通り聞き終わると、兵士は改めて仕事に戻る。


「それではミラ様。入国許可証と手荷物検査の方を宜しいでしょうか?」


「出国と入国で2回も検査があるなんて面倒よね。」


「お手数をおかけします。一応、規則ですので。」


ミラは嫌そうな顔をしながらも、渋々といった様子で許可証を見せ、鞄を兵士に手渡した。


兵士はレムリアル側での出国審査の時と同じように、鞄の中身を確認していく。だが魔法に疎い向こうの兵士とは違い、魔法の国であるアトランドの兵士はある違和感にすぐ気が付いた。


「ミラ様。こちらのハムスター、僅かながら魔法の反応がありますね?」


兵士が疑問に思ったのは、先程の出国審査の際にも尋ねられた2匹のハムスターであった。心なしか兵士の言葉に金色のハムスターが若干ビクついたような気がしないでもなかったが、ミラは澄ました顔で説明する。


「レムリアルで行商人から買ったのよ。可愛いでしょ?ずっとあたしの近くにいたから、そのせいで魔法の反応があるんじゃないかしら?」


「大変申し訳ありません。魔法生物の密輸入は禁止されていますので、一度こちらで預かって検査をしてもよろしいでしょうか?問題が無いとわかれば速やかにお返し致しますので。」


兵士はあくまでも規則通りの対応を行おうとしただけなのだが、それを聞いたミラの態度が急変する。


「あ・た・し・の!ペットなのよ!?下手に触って怪我でもしたら、あんた責任取れんの!?」


ミラは脅しをかけるような声で、左手に黒い炎を巻き起こしながら兵士を脅迫するかのように問い詰める。その気迫に押され、兵士は冷や汗を流しながら答えた。


「め、滅相もございません!失礼致しました!!」


「わかればいいのよ。」


ミラは左手の炎を消す。それを見た兵士はひとまず安堵し、速やかに鞄をミラへと返した。これ以上関わって機嫌を損ねるとまずいと判断したのか、兵士はミラを尻目にそのまま次の入国希望者の対応へと当たってしまった。


鞄を受け取ったミラはその場を立ち去り、近くにある人気のない林へと向かった。






林に到着したミラは、周囲に誰もいないことを確認すると早速鞄の中から2匹のハムスターが入った檻を取り出す。檻の鍵を開けてハムスターを外へ出すと、指をパチンと鳴らした。


「もういいわよ、お疲れ様。」


ミラが指を鳴らすと、ボンと大きな音がしたと同時に金色のハムスターがアルムに、銀色のハムスターがイオンの姿に変わった。ほんの数十分間であったが、狭い檻の中に閉じ込められていたせいか2人はぐったりとしている。


「無事に国境を越えられたわね。」


「無事も何も、最後の方は完全に脅迫まがいの強行突破じゃねえか。」


澄まし顔で言うミラに、まだ本調子ではないアルムが指摘する。実際アルムの言う通り、最後の方は完全に脅迫であったという他ない。


「文句言わないの。無事に入国できたんだからいいでしょ?」


「しかしまさかハムスターに変えられるとはな。」


国境を越える前にミラが提案した事とは、彼女の魔法で2人を動物に変えて検問を潜り抜けるというものであった。結果的には途中でバレそうにはなってしまったが、最終的には見事な脅迫で無事に突破できたのだった。


人を動物に変える魔法はかなりレベルの高い術であり、数十分間という長い時間、しかも2人同時に変えるなど並大抵の事ではない。相変わらずのミラの天才っぷりにはアルムも終始驚かされっぱなしだ。


「さて、とりあえずは近くの街まで移動するわよ。2人とも、歩ける?」


「俺は問題ない。」


アルムはスッと立ち上がったがイオンはまだ顔色が良くなく、懇願するように言う。


「すみません、マスター。あと10分だけ休ませてください。」


「仕方ないわね。」


少し休んでいくのかと思いきや、ミラからは突拍子も無い提案が出される。


「アルム、あんたイオンをおんぶして行きなさい。」


「俺がかよ。」


あまりにも唐突かつ急な命令にアルムは思わず口を開いた。


「あたしよりあんたの方が力あるんだから当然でしょ?」


ミラに諭され、アルムはぐうの音も出なかった。もっとも、最初から拒否する気などさらさら無かったのだが。


「わかったよ。ほらイオン、掴まれ。」


「申し訳ありません、マスター。」


アルムはひょいとイオンを背負う。人1人分の重さではあるが、普段から熊や狼を乗せた荷車を引いていたアルムにとっては大した重さではない。


だが、その様子を見ていたミラが急にクスクスと笑い出した。


「これじゃあんた達、どっちが主人なのかわかったもんじゃないわね。」


「大きなお世話だ。」


まだ笑っているミラを先頭に、3人は近くの街へと向かう。

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