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錬金術師の花嫁  作者: KUMA
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外伝25.5話【魔法の才能】

国境を目指すアルム一行は、街道を西に進んでいた。旅人や行商人、果てには軍の人間までもがよく利用する道であるためか整備はされているものの、やはりモンスターが出没すること自体は珍しくはなかった。


「ヒートブレード!」

「フレイムウォール!!」


アルムの剣技とミラの魔法が炸裂する。たった今襲ってきたモンスターは植物型の【マンドレイク】だ。火に弱いモンスターであるため、2人の技を喰らった途端にあっさりと沈んだ。


戦闘が終わるとアルムは刀からカートリッジを外しポケットにしまう。それを見ていたミラは、前々から疑問に思っていたことをアルムに尋ねた。


「ねえアルム、あんた魔法は使わないの?」


「俺は魔法の才能無いからな。」


アルムは刀を納めながら答えた。


そもそも魔法とは、死霊術のような例外を除けば基本的には自然界に存在する炎・雷・風・冷気などの現象を操る術である。年齢や性別に関係なく誰にでも扱うこと自体は可能だが、どれくらいの魔法を操ることができるかという才能は生まれつきほとんど決まっており、モンスターとの戦闘に使えるほどの魔法を使いこなせる人間はそう多くはない。


ミラの祖国であるアトランド王国は昔から魔法に優れた家系の人間が多く、王国自体も魔法によって栄えたといっても過言ではない。故に、アトランドでは魔法の才能に優れた人間でないと神官や政治家といった要職に就くことはできないとされている。


「でも、いざって時のために練習ぐらいはしておいた方がいいんじゃない?例えば武器が使えない状況とか…」


「俺は魔法は使わない。」


ミラは心配して言ったつもりであったが、アルムは頑として聞き入れない。その態度に少しムカムカしたミラはカマをかけてみることにした。


「まさかあんた、【ファイヤーボール】すら作れないとか?」


それを聞いたアルムは顔をしかめる。ファイヤーボールとは攻撃魔法の基礎中の基礎と言っていいほどのものであり、アトランドでは10歳前後の子供が学校で最初に教えられるレベルの魔法であった。


「バカにすんな、それぐらいはできる。」


「じゃあちょっと見せてよ。」


「嫌だ、面倒くさい。」


別に挑発などではなくミラは単に興味本位で言ってみただけのつもりであったが、アルムはきっぱりと断った。


アルム自身、別に魔法の才能が無いのを見られるのが恥ずかしいというわけではなかった。第一、自分に才能が無いのは先程から口にしているので今更どうということはない。魔法を使うと体力も消耗するし、単純に面倒なのだ。しかし、それまで2人のやり取りを眺めていたイオンが唐突に口を挟む。


「私もマスターの魔法は見たことがありません。是非見せてください、マスター。」


イオンは相変わらず無表情だが、何となく期待の眼差しを向けられているような気がしてアルムは断り辛かった。結局、イオンの頼みは断ることができずに1度だけ魔法を披露することになった。






アルム自身、ファイヤーボールを出すのは久方振りであった。最後に使ったのはオニークス近くの森の中でフォレストベアと対峙した時であり、その時はおそらく効果はあまりないと判断してすぐに消してしまった。それ以来、戦闘において攻撃魔法というものを使った記憶が全くと言っていいほど無い。


ただ、今は戦闘中ではないので気楽にやれる。さっさと済まそうと思い、アルムは適度に神経を集中させる。


「ファイヤーボール!」


右手をかかげてアルムがそう叫ぶと、手のひらから炎が上がりやがて球体となった。が、その大きさは握り拳ほどの大きさであった。それを見たミラは残念そうな顔でアルムに言い放った。


「…それで本気なの?」


「本気じゃねえよ!」


少し手を抜いたのは事実だが、なんとなくバカにされているような気がしてアルムは思わず反論した。そして今度は全神経を右手に集中させ、再び力を込める。


「うおおぉぉ!!」


アルムは周囲一帯に響くような大声で叫ぶ。すると右手からは先ほどよりも大きな炎が上がり、既に作られていた火球を包み込む。


「…で、できたぜ…。」


アルムは肩で息をしながら言った。完成した火球は先ほどよりも大きくなり、大ぶりのリンゴほどの大きさになっていた。よほど体力を使ったのだろうか、顔中に汗をかいている。しかしミラは一層悲しそうな目でアルムを見ている。


「えっと…これが本気なのね?」


一応確認した。アルムは無言のままなので、おそらくこれが本気で間違いないのだろう。ミラは肩をすくめると、呆れるように言う。


「あんたに魔法の才能がないのはよーくわかったわ。だってこの大きさ、アトランドだと子供でも作れるもの。」


「…大きな…お世話だ…。」


よほど消耗が激しかったのか、アルムはまだ息切れしているような状態で答える。自分に魔法の才能が無いのは昔からわかっていたが、改めて言われると何だか腹立たしい。しかも相手は天才と称される程の魔法の使い手であるので、最早見下されているようにしか聞こえなかった。


アルムの呼吸も落ち着いてきたのでさっさと出発するかと思いきや、不意にイオンが口を開いた。


「ミラ様のファイヤーボールも見せてください。」


思いがけないところからの注文に、ミラはキョトンとする。


「あたしの?見せたことなかったっけ?」


「はい、いつも戦闘ではもっと上級の魔法を使われていますので。」


確かにそうだった。事実、ミラ自身も思い返してみると長い間ファイヤーボールなど作った覚えがない。ただミラの場合はもっと上級レベルの魔法をガンガン出せるのでファイヤーボールなど今更出す必要のないレベルだという理由であるが。


「そうね、久々にやってみようかしら。」


そう言ってミラは右手を挙げ、人差し指を立てる。すると一瞬にして巨大な炎が空中に巻き起こり、渦を巻きながら集まって直径1メートル程の大きさの火球になった。その様子をアルムはただ黙って見ていただけであったが、イオンは無表情のまま拍手をした。


ミラは火球ができあがったのを確認すると指を鳴らす。そうすると火球は瞬く間に消えてしまった。イオンは相変わらず無表情ではあったが、充分に満足した様子でミラに尋ねた。


「今のがミラ様が本気で作られたファイヤーボールなのでしょうか?」


しかしミラはそれをあっさりと否定する。


「本気じゃないわ。ヘタに本気出して周りの草木に燃え移ったら大変だもの。」


「なるほど、とてつもない才能をお持ちなのですね。」


そう言われたミラの顔がほころぶ。自分にとっては朝飯前のことではあったが、褒められて悪い気はしない。


ミラがアルムの方を見ると、無表情で出発の準備を整えていた。アルムの性格上悔しがっているということはないだろうが、面白く思っていないのは確実だろう。それに対して悪戯心が芽生えたミラは、勝ち誇ったような表情でニヤニヤしながらアルムの顔を覗き込む。


「少しぐらいなら教えてあげよっか?」


そう言われ、アルムは少しイラついたような表情でミラを見た。


「俺には必要ない。」


アルムは冷静に返すが、イオンが更に余計なことを付け加えてしまう。


「その通りです。先程の魔法を見る限りマスターに才能が全く無いのは明白です。やるだけ時間の無駄です。」


「お前はどっちの味方だ、イオン!!」


悪意ゼロの毒を吐かれたアルムは思わず大声で突っ込みを入れる。2人のやり取りを聞いていたミラは思わず笑い出し、アルムはやれやれといった様子で目頭をおさえる。




国境まではあと少し。3人は荷物をまとめると再び街道を歩きだした。

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