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錬金術師の花嫁  作者: KUMA
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10話【死霊術】

「流石は港町、人の数がオニークスとは段違いだ。」


この日、アルムはタルコスという港町にやって来ていた。レムリアル共和国の中でも有数の港町であり、オニークスからは馬車で半日ほどの距離にある。


「これだけ大きな町なら、確かに世界中の書物が集まってそうだな。」


言葉の通り、アルムがこの町にやって来た理由はある本を探す為であった。


オニークスにも一応書店はあるが売っているのはほとんどがレムリアルのものであり、他国の技術に関する本は全くと言っていいほど売っていない。その点タルコスは港町であるため、他国の本も手に入りやすいだろうと考えたのだ。


「日暮れまであんまり時間がないし、急いで回ろう。」


オニークスを出たのは早朝であったが、この町に来るまで10時間以上かかったためもう大分日が傾いている。日暮れまではあと1時間くらいといったところだろうか。


ほとんどの書店は夜には閉店してしまうに違いないと思い、アルムは急いで本を探すことにした。






「あった、書店だ。」


探し始めてから数分も経たない内に書店が見つかった。見たところ客は入っていないようだが、時間帯も関係しているのかもしれない。そもそもアルムにとっては客の多い少ないは至極どうでもよい問題であった。


店に入ると、初老の女性が店番をしていた。どうやらこの女性が店主のようであり、早速アルムに用件を尋ねる。


「いらっしゃい、どんな本をお探しで?」


「『死霊術』に関する本が欲しいんだが。」


店主は意外そうな顔をし、再度尋ねる。


「死霊術?お客さんもしかして『ネクロマンサー』かい?」


死霊術とは魔法の一種で、死霊の魂をこの世に呼び戻したり、会話を行うことのできる術だ。更に上級の術者になると死者の魂に仮の肉体を与えてゾンビとして操ることもできる。これらの死霊術を操る魔法使い全般のことを、一般的にネクロマンサーと呼ぶのだ。


無論、アルムには死霊術どころか普通の魔法の才能すら無い。死霊術のことが知りたいのはもっと別の理由だった。とは言え事情が事情なだけに説明するわけにもいかないので、ここは適当にごまかしておくことにする。


「いや、俺が使うわけじゃないけど。」


「あぁ、要するに買い物を頼まれたってことかい。ちょっと待ってなよ。」


店主は勝手に納得したようで、いそいそと本を探し始めた。待っている間、アルムは周りにある本を眺める。流石は貿易の盛んな港町と言うべきか、オニークスでは中々手に入らない魔法や機械工学に関する本がいくつもあった。


しばらくすると店主が本を持ってきた。古そうなものが1冊と、比較的新しそうなものが2冊だ。


「死霊術の本は3つあるけど、どれにするかね?」


「なるべくアトランドの本がいいな。」


師匠の書斎にも死霊術に関する本はあるにはあったのだが、読んでも大した情報は得られなかった。やはり魔法に関しては隣国アトランドの本で調べるのが一番だろうとアルムは考えていた。


「これは3つともアトランドのだよ。」


そう言って店主は本の裏側を見せる。そこにはアトランド魔法管理局というサインと判子が押してあった。


「なら全部くれ。いくらだ?」


「3800ゴルトだね。」


アルムは店主に代金を手渡す。本を受け取り鞄にしまうと、そそくさと店を出て行った。


「他にも書店はありそうだな、探してみよう、」


まだ時間は残っているし、できる限りたくさんの本が欲しい。アルムはすぐさま次の書店を探すことにした。






その後もアルムはいくつかの書店を周り、全部で8冊の本を買い集めることができた。買い物を終えた頃にはもう日が暮れる寸前であったので、近くの宿に一泊することに決めた。


食事を終え、今アルムは宿の部屋で先程購入した本をさっそく読んでいる。


「死霊術の基本は…死者の魂を呼び出す事。そこから魂をどうするかは…」


最初に読み始めた本はかなりのページ数であったが、中には死霊を使って相手に呪いをかける方法など死者の蘇生と全く関係なさそうな内容まで載っていた。時間も勿体ないのでとにかく今は必要そうな部分にだけ目を通し、もの凄いスピードで読み進めていく。


1時間程で1冊目を読み終え、一旦本を閉じた。


「そうか、やっぱり死者の魂を人形に宿す術は並の魔法使い程度じゃ無理なのか…。」


アルムが死霊術のことを調べる理由は、死者の魂を新しい肉体に宿す方法について知りたかったからだった。先程読んだ本にも書いてあったように、死霊術には死者の魂を人形に宿らせて使役する術がある。


「ホムンクルスと同じ製法でシルヴィアの肉体を完璧に再現して、そこに死霊術でシルヴィアの魂を宿すことができれば…。」


口で言うのは簡単だが、それは魔法の才に乏しいアルムにとっては大きな問題であった。ホムンクルスの技術で肉体を作ることができても、そこにシルヴィアの魂を宿すことができなければ意味がないのだ。その方法を探るためにも、アルムは次の本へと手を伸ばす。






更に2冊目を読み終えたが、こちらも特別役立ちそうな情報は得られなかった。ところが3冊目を読んでいる途中、アルムにとって重要な意味を持つ内容が目に入ることとなる。


「『降霊術』をより確実に成功させる為の要素…?」


降霊術とは、死者の魂を呼び出して会話を行ったり、他人や人形に憑依させる術だ。術の内容自体は他の本にも書かれていたが、書かれ方が今までの本とは若干異なり何となく異質な感じがしたので少しは期待が持てそうであった。


「より確実に死者を呼び出すには、その人物が生前に愛用していた品や愛着のある物があると良い…。」


黙々と読み進めるが、ここまでは他の本にも載っていた。だがその続きには、更にアルムを驚愕させる内容が書かれていた。


「最も確実性が高いのは、対象の人物の遺骨やミイラ、血液を利用すること…!?」


この方法今までの本には載っていなかった上、確かに確実性はありそうだ。だが、遺体を利用して術を使うなど一般的な感覚で言えば死者への冒涜もいいところである。とは言っても有効そうな方法であることに変わりはない為、一応記憶に留めておくことにした。




3冊目の本を読み終え、アルムは一度情報を整理する。とりあえず死者の魂を呼び出す方法や、それをより確実にする為の手段はわかった。だが残された問題は、呼び出した魂をどうやって作った肉体へ宿すかであった。これに関しては科学的な技術でどうこうできるものではない為、どうしても自分の苦手な魔法に頼らざるを得ない。


「誰かの手を借りるのも難しいしなぁ。」


仮に本職のネクロマンサーに協力を求めたとしても、死者の蘇生など成功する筈がないと鼻で笑われるか、大罪となる禁術の行使は御免だと断られるかのどちらかに決まっている。やはり自分で何とかするしかないと痛感したアルムは、更なる知識を求めて4冊目の本を読み始めた。




結局アルムはその日、夜が明けるまでずっと本を読み続けていたのだった。

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