11(挿絵有)
「恭太、楽しい?」
変なこと聞いた。
私に付き合って無理やり参加したコンパが楽しいわけないのに。
でも、いつも私と一緒にいて、私を優先する恭太が、他の人に何かちょっとでもいいから興味や楽しみを見付けて欲しかったから、いろんな人が集まるコンパに連れていこう、と思ったのだ。
まあ、結局私と参加したら私の側にベッタリなのは分かってたけど、かといって恭太だけがこういう場所に来るわけもなく…。
会場の店に着く前から、凄かった。
その店は、大学から最寄駅の途中にある商店街の中程に位置するカジュアルな居酒屋で、うちの学生もよく利用する繁盛店だった。
実は、素に戻ってからの恭太はこの商店街を避けて遠回りしている。
早朝とか人が少ない時は通るが、人が多いところで目立つのが嫌なのだ。
今日だって、大学からお店に行くまでの道すがら、視線がすごかった。
私がいなかったら声をかけてきそうな人もちらほら。更には店に入ったら、素知らぬふりして後から入店しようとしてきたグループもいた。今日はサークルの貸し切りだったので、店員さんが謝って追い返してたけど、あれは後から飲んでるときに声かけよう、と企んでいたに違いない。私という連れがいたのに。
こんなのが日常な恭太を不憫にも思う。
自分が、小さい頃から彼のバリアになってることは自覚してる。まあ、多少頼りないバリアで、よく突破されたりもしてたけど、それでもないよりはマシかな、と自負してきた。
と同時に、私が彼の人生を縛り付けてる気もずっとしてる。
私がいなければ、彼はもっと豊かな人間関係を築けていたのではないか、とふと思うことがある。友人も何人かいて、適切な距離の恋人もいて……
……。…………。 ありえない。
自分で想像しておきながら、やっぱりこの容姿でそんな普通のことは出来ないとしか思えない。
それでもやっぱり、私達の関係は普通ではない、と思う私は、恭太の目がもっと外に向けられないものか、と思って聞いてしまった。
恭太は私の声が聞こえなかったようで、聞き返されたけど、そこへテンション高めな中山さんがやってきた。
*****
「二人は付き合ってるの?」
やっぱりそう来たか。と、思った。
最初はスポーツマンらしくはつらつとした雰囲気で接してくれてたけど、やりとりしていく間に、やたら恭太のことを聞いてくるのが引っ掛かった。巧妙に話の流れの中で、自分の聞きたい情報を引き出していく彼女は、スポーツマンじゃなくネゴシエイターとかにでも向いてるんじゃないかと思うくらいだった。まあ、のらりくらりとかわしたけれども。
巧みな統率力、というより情報戦でサークルをまとめあげていたのね、と気付き初めていたので、お決まりの質問をされても動じたりしなかった。
そんなことより、恭太の反応の方が怖かった。
逃げたりしたせいで、過敏になってる恭太にこれ以上刺激を与えないで欲しい。
「付き合ってる」って言われても私はそこから逃げたいのに、周りに公言されても困る。
「付き合ってない」って言われても、恭太に惹かれている私の心は、そんなセリフを恭太の口から聞いたら、ギシギシと悲鳴をあげるだろう。
どちらにしても無理、と思った瞬間、恭太が何か口にする前に、私から逃げ出した。
「ひめちゃん!」
店を出た私のすぐ後ろから声をかけられた。
見知った顔を見て、涙腺が緩む。彼は「しょうがないな~。駅まで送るよ」と言いながら、私の肩に手を置いた。
そこに、今までにあまり聞いたことのないくらい艶やかでいて冷徹な恭太の声がした。
「姫乃」
ヤバい。
真っ黒な笑顔全開なんだけど。
更には彼の背後からは、ドス黒いオーラが舞っている。気がする。その、怒気を孕んだ壮絶な笑顔は、私が知ってるマジ切れした恭太の中でも1、2を争うキレっぷりだった。
そこで、はた、と気づいた。
ハル兄のことを恭太に言ったことがなかったことを。
うわあああ!
恭太からしたら、見知らぬ男に肩を抱かれてる私!そりゃ怒る!!
「こっちに来て」
珍しく命令口調な恭太に逆らえるはずもなく、彼の方へ歩き出した。
金曜の繁華街はそれでなくても人が多いのに、真っ黒笑顔の超美形が、往来で女の子を抱きしめているのは、超絶目立つ。
腕の中で顔に血が登るのを止められないでいると、周りからは「なんだあ?修羅場か?」「映画の撮影?」「カッコいいけど、ちょ…なんか怖くない?」だの好き勝手なことが聞こえてくる。
はっと気づいて振り替えれば、ハル兄が駅の方へ歩いていく所だった。
と、突然恭太に腕を捕まれて、そのままぐいぐいと商店街の中を駅とは反対方向に大股で進んで行く。背の高い彼の歩幅で大股歩きされると、平均身長の私でも小走りにならないと追い付けない。
「恭太!」
呼んでもチラとも顔を見てくれない。こちらから顔を仰ぎ見たら、まっすぐ前を見て無表情だ。夜のネオンに照らされた、そんな横顔もキレイだな、と思ってしまう。
商店街を抜けて大通りを右に曲がる。どうやら恭太は大学に行こうとしているらしい。
めちゃくちゃ怒ってる、とは分かっているが、無表情で無言のままの恭太が何を考えているのかわからないまま、ただ引きずられるように連れて行かれる。
握られた恭太の手がやたら熱い。




