その8「温泉旅館」
◇兄、フロントから戻ってくる
兄「待たせたな、鍵もらってきたぞ」
妹「おっそい。もう待ちくたびれちゃったよ」
兄「けっこう混んでいたからな。でも、待つことすら楽しい、それが旅行というものだろう」
妹「それはちょっと分かんないけど。まぁいいや、それじゃあ兄さん、私の部屋の鍵ちょうだい」
兄「え?」
妹「なに?」
兄「鍵は一つだぞ」
◇兄妹、部屋へやってくる
兄「仕方ないだろ、二人分の部屋を取ると値段が倍くらい違うんだから」
妹「ねぇ兄さん、私、お年頃の女の子なんだけど。忘れてないよね……?」
兄「忘れてないって。別に家族なんだから何もおかしくはないだろう」
妹「そう、だけど。なにかヤラしいこと考えてたりしないよね……?」
兄「し、しているわけないだろ!」
妹「本当に? 少しも?」
兄「だ、大丈夫だから! 嫌かもしれないけど今日はもう我慢してくれ……」
妹「ふふ、ごめんごめん、ちょっと兄さんをからかっただけなの。むしろ相部屋の方が楽しくていいかもね!」
兄「楽しいって?」
妹「うん、たまには寝るまでお話ししよう!」
◇しばらくして
兄「それじゃあ、まずはお昼ご飯を食べに行こうか」
妹「そうだね、一階にいろんなお店があったよ」
◇食事処
妹「あー美味しかった!」
兄「やっぱり海の近くだからか海鮮料理がすごく旨かったな」
妹「ねぇ兄さん、今度はカラオケしよ!」
兄「よし、兄ちゃんの歌唱力をみせてやる!」
◇カラオケボックス
兄「くっ……」
妹「兄さん下手すぎ……」
◇ゲームコーナー
妹「古いゲームばっかりだね」
兄「旅館はこれで良いのだ!」
◇卓球場
妹「兄さん、脇が甘いよ!」
兄「お、お前、こんなに卓球上手かったのか……!」
◇温泉の入口前
兄「それじゃあ、風呂から出たらここのソファで待っているからな」
妹「りょうかい!」
兄「タオルとかちゃんと持っているか? 着替えは?」
妹「大丈夫だって。じゃあまた後でね!」
◇三時間後
妹「はぁ~、良いお湯だった!」
兄「おっそい。待ちくたびれたよ……」
妹「ふふ、待つことすら楽しいのが旅行、なんでしょ?」
兄「……はい」
◇大広間
兄「ぷは~」
妹「兄さん、お酒飲んでる。いけないんだー」
兄「兄ちゃんはもう成人だからお酒飲んでも大丈夫なの」
妹「ねぇ兄さん、一口だけ」
兄「未成年にお酒はあげません」
妹「いじわるっ!」
兄「今度、お前がお酒を飲めるようになったらまた来ような」
妹「……うん」
◇兄妹、部屋へ戻ってくる
妹「ふぅ、なんか部屋に戻ってくると安心するね」
兄「そうだな、なんかこうドっと疲れが肩にのしかかって……がくっ」
妹「もう兄さんは――って、そっちは私のベッドだってば!」
兄「あぁ、ごめん。でも、もう眠くて」
妹「まったく、お酒飲みすぎたんじゃないの?」
兄「そうかもな。普段まったく飲まないから、急に飲んで体がビックリしたのかも」
妹「もう。……今夜は兄さんとずっとお話しするって言ってたのに」
兄「あぁ、そうだった。うん、俺はまだまだ大丈夫だよ」
妹「無理しなくていいから寝てて」
兄「……」
妹「ねぇ兄さん。私、兄さんがお酒を飲んでいるところ初めて見た。なんで今日は飲んでいたの?」
兄「……そうだな。ちょっと見栄を張りたかったんだ」
妹「私に対して?」
兄「そう」
妹「私は、兄さんがお酒をたくさん飲めたって別にかっこいいなんて思わないけど」
兄「はは、そうだよな。でも俺は、大人っぽくお酒を飲めたらかっこいいだろうなって思っちゃったんだ」
妹「お酒飲んで潰れているよりも、ちゃんと約束を守る男の方がよっぽどかっこいいよ」
兄「……ごめん。正直に言うと、お酒が飲めるようになってお前に自慢したかったんだ」
妹「なんかガッカリするくらい子供っぽい!」
兄「ぐっ、兄の威厳が今音を立てて崩れていくよ……」
妹「もともと兄の威厳なんてないようなもんだから気にしなくても大丈夫だよ」
兄「それはそれで悲しい!」
妹「ふふ、でもそれが兄さんの良い所でもあるんだけどね」
兄「どういうこと?」
妹「そのままの意味だよ。ほら、もう寝よ! 明日も早起きしてお風呂入りに行くんだから」
兄「そうだな」
兄・妹「「おやすみ」」




