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その6「夏かぜ」

◇妹、兄の部屋へやってくる



妹「ただいまー、いろいろ買ってきたよ」


兄「おお、ありがとう」


妹「はいはい、じゃあとりあえず冷えピタ取り替えますよー」


兄「悪いな」


妹「いいのいいの。飲み物もたくさん買ってきたし、何か食べてお薬も飲まないとね」


兄「う、うん」


妹「いろいろ買ってきたけど、この中で食べれそうなのあるかな?」


兄「そうだな、水茶漬けとか食べたいかも」


妹「りょうかいした!」


兄「……」


妹「ふふ、今日も付きっきりで看病してあげるから安心してね!」


兄「……なぁ」


妹「ん?」


兄「ちょっと優しすぎないか」


妹「え?」


兄「俺の妹ってこんなに優しかったっけ」


妹「熱で頭がおかしくなっちゃった?」


兄「ぐっ」


妹「ほら兄さん、熱が上がってきたみたいだからちゃんと寝ててね。私はご飯作ってくるから」


兄「……」






兄(一体何が起きているんだ? 本当に熱で俺の頭がおかしくなっているのか?)


兄(昨日から熱が出て、それっきりあの妹が付きっきりで看病してくれるなんて)


兄(夢みたいだ)


兄(いや、夢なのか? そうだ、きっとこれは夢だ。理想の妹が優しく看病してくれる夢を見ているんだ)


兄(うん、いつもの妹だったらまずありえないもんな)


兄(……どうせ夢なら、もっと甘えてみよう)





◇妹、料理を持って兄の部屋へやってくる


妹「兄さん、水茶漬けできたよ」


兄「ありがとう、じゃあさっそく食べさせてくれ」


妹「う、うん。まあ別にいいけど」


兄「実は腹ペコだったんだ。はやく食べさせてくれ!」


妹「けっこう食欲が戻ってきたみたいだね。ならきっとかぜもすぐに治るよ!」


兄「いや、ダメかも」


妹「え、他にどこか調子悪いの?」


兄「ま、まあ、ちょっとね」


妹「そっか。じゃあとりあえずコレ食べちゃってお薬飲んで早めに寝ちゃおう」


兄「……そうだな」


兄(うーん、いざ甘えようと考えるとどう甘えたらいいか分からないな)


妹「ほら、あーん」


兄「……」


妹「どうしたの?」


兄「いや、やっぱり恥ずかしいっていうか」


妹「た、食べさせてって言ったのは兄さんでしょ!」


兄「やっぱり自分で食べるよ」


妹「まったくもう」


兄「ははは……ああ、コレ美味しいよ、ありがとう」


妹「うん、じゃあ私は今のうちに布団持ってくるね」


兄「え?」


妹「布団。今日は兄さんの部屋で寝るから」


兄「なんでそうなるんだ! かぜが伝染るかも知れないからそれはダメだぞ」


妹「大丈夫、私ここ数年かぜ引いてないから!」


兄「そういう問題じゃないって……」


妹「だってもし夜中に兄さんが突然苦しみ出したら誰が助けるのよ」


兄「隣の部屋なんだから困ったら呼ぶよ」


妹「それよりも隣に私が寝ていた方が早いでしょ」


兄「まったく」


妹「懲りてくれた?」


兄「妹よ、俺はな、お前が俺を心配してくれるようにお前を心配しているんだ」


妹「どゆこと?」


兄「つまり、俺もお前にかぜで苦しんでほしくないってことだ」


妹「だから大丈夫だって」


兄「……」


兄「……そうか」


兄「なんで今日はいつもより優しいかやっと分かったよ」


妹「……」


兄「お前が妹になってから、俺がかぜを引いたのは初めてだったな」


妹「……そうだね」


兄「心配かけて悪かったな。でももう大丈夫、お前のおかげですごく良くなった!」


妹「本当に‥…?」


兄「ああ、初めての看病にしてはかなり上手だったぞ」


妹「ふふ、初めてじゃないよ。ママの看病は私の仕事だったんだから」


兄「そっか。うん、だったらあの人も幸せだったろうな」


妹「……うん」


妹「……兄さんは、私を残して勝手に遠くへ行っちゃったりしないよね?」


兄「当たり前だろ、俺一人じゃ絶対に生きていけないからな。現に今だってお前に頼りっきりだ」


妹「そっか。なら良かった」


兄「ああ、だから大丈夫だ。俺はどこにも行かないから安心して自分の部屋で寝ろ。明日には完全復活して、朝一番にお前を起こしてやるからな!」


妹「うん、約束だからね!」





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