その20「探偵たち」
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暗闇の中に浮かぶ絶海の孤島。
島の中央の古びた屋敷、その数ある窓のうち、一つから明かりが漏れている。
0時を過ぎた今、その一室には島にいるすべての人間が集っていた。
探偵を自称する青年
探偵を自称する少女
探偵を自称する熊
探偵を自称するピエロ
探偵を自称する兄
探偵を自称する妹
今、この島で生き残っているのは、たった6人―――。
◇館の一室にて
青年「―――ではもう一度だけ聞くとしよう。この中から犯人を名乗り出るものはいないか?」
………
妹「ま、ここで素直に犯人が名乗り出てくるわけないよね」
兄「ああ、だがこの中に必ず犯人は“いる”」
少女「そうね、もう島に残っているのはこの6人だけだし」
熊「被害者は館主1名。犯行は今夜の夕食以降。全員にアリバイはないときた」
ピエロ「んん、私はずっと台所で食器の後片付けをしておりましたよぉ。このピッカピカのお皿がアリバイになりませんかねぇ~?」
少女「皿洗いなんてせいぜい数分で終わるでしょ。片付けた後にいくらでも時間はあったはず」
兄「犯行現場は館主の自室か」
青年「部屋の窓と扉は内側から施錠されていて完全な密室となっていたな」
少女「死因は鋭利な刃物による斬殺。凶器はまだ見つかっていない」
熊「あ、一応言っておくが、私の手足の爪はちゃんと丸く研いである。凶器にはなりえないよ」
妹「どれどれ~……おぉ、熊にも肉球あるんだね」
兄「……うん、今回の事件、だいたい分かっちゃったな」
妹「あ、兄さんも?」
青年「ふむ、兄妹とも探偵を自称するだけあって多少は頭が回るようだな」
少女「あら、私だってとっくに犯人の目星はついているんだけど」
熊「ほう、犯人がわかったのは私だけだと思っていたが」
ピエロ「意外に意外! では皆様のてんで的外れな推理を聴かせてもらいましょうかぁ! その後にちゃんと私が正しい犯人を言い当ててあげますょっ!」
兄「じゃあ妹よ、言ってみなさい」
妹「え?」
兄「だって犯人が分かったんだろう?」
妹「いやいや、兄さんが先に分かったって言ったんじゃない。先に言っていいよ」
兄「いやいやいや、お前はまだ探偵としては未熟だからな。こういう簡単な事件で経験を積ませてやろうとだな」
青年「おい何をしているんだ。どっちでもいいからはやく言ってみろ」
少女「そういうあなたこそ本当は犯人分かんないんじゃないの~? ぱっと見一番おバカそうだしっ」
青年「な、なんだと!? 俺はこの中で唯一の“本物の探偵”だぞ! お前らみたいな自称探偵が分かって俺が分からないわけないだろう」
熊「まあまあ落ち着きなさいって」
ピエロ「んん~下手ですねぇ。本物だとか自称だとか抜かしていますけど、それ以前にあなたは嘘が下手へた下手っ! そんなんじゃ強がっているだけってバレバレですよぉ」
青年「ふざけた格好してぬかしやがって…!」
兄「落ち着いてって! 第二の犯行を犯そうってのかい」
少女「まったく、もう見てらんないわ」
妹「あれ、ねぇどこへ行くの?」
少女「トイレー」
青年「……怪しい」
少女「ちょっ、ちょっと、なに? ドアの前に立たないでくれる? 邪魔なんだけど」
青年「どうせあれだろ、トイレなんて嘘で、みんなが部屋に詰めている間に証拠隠滅をしようって魂胆だろ」
少女「そんなわけないでしょっ! 早く退いてっ」
青年「俺は騙されないぞ!」
熊「いや、流石にそれは可哀想なんじゃないかな…」
妹「わ、私が着いていくから」
青年「いいや、今確信したぞ! この少女がこの事件の犯人だ!」
少女「うう……」
ピエロ「いやー……ほら、少女ちゃんも泣きそうになっているしさ。一旦落ち着こ?」
兄「そ、そうだよ」
青年「騙されるな! それは嘘泣きだ!」
熊「いやぁ…」
ピエロ「うん…」
兄「―――すみません、ちょっと休憩いいですか」
◇アトラクション施設にて
スタッフ「はい、分かりました。5分休憩入りまーす」
妹「ほら、休憩もらったから今のうちにトイレに行っておいで」
少女「……」
熊「もう、君。流石に熱くなりすぎだよ」
ピエロ「そうですよ。いくら役になりきっていても女の子泣かしちゃうのはマズイって」
青年「……はぁ」
少女「……ふふ」
青年「あいつ、本当に嘘泣きなんですよ」
少女「ばっちりみんな騙されたみたいだねっ!」
兄「え、嘘泣きだったの?!」
妹「じゃあトイレっていうのも」
少女「うそですっ」
青年「こいつ、俺の従姉妹でして…。本当にこういうの得意なんですよ」
熊「こりゃすごい。まんまと騙されちまったな。いや君、悪かったね」
ピエロ「ってことは本当に証拠隠滅に行こうと?」
少女「はい! 犯人は私でしたっ!」
兄「まじか」
青年「皆さん犯人が分かったって言ってましたよね…?」
妹「いや、ははは」
熊「ほら、探偵役やるんならこういう事言っておかないとさ」
ピエロ「私も、自分だけ分からないってのは恥ずかしかったので…」
兄「じゃあ誰も犯人分かっていなかったんだ…」
スタッフ「えーと、休憩時間まだ必要ですか?」
青年「あ、すみません。もう今ここで事件解決してしまったので」
熊「今回はここまでってことで」
スタッフ「分かりました。それではそちらのゲートが出口となっております。出て右手に売店がありますので良かったらどうぞ」
兄「はい、ありがとうございました」
◇兄妹、自宅にて
妹「遊園地なんて久しぶりだったよ」
兄「楽しかったな」
妹「うん! でもまさかあんなアトラクションが出来ていたなんてね」
兄「“体験型ミステリー小説”だったっけ」
妹「そうそう、もう一回行きたいなー」
兄「あれ一人3000円もしたんだぞ。待ち時間もやたら長かったし」
妹「兄さんの探偵役、けっこうハマってて格好良かったよ」
兄「ま、まじか」
妹「うん。もう一回見たいなっ」
兄「そう? そうか…そうだよな! お前がそこまで言うならまた行こう!」
妹「よしっ」
【町の観光案内】
この秋、新装オープン! “体験型ミステリー小説”~探偵になって殺人事件に挑め!!~
実際に探偵役や犯人役となって舞台に上がり、巻き起こる事件を体験しよう!
セリフなどの台本は一切無し! 自分の思うままに遊びつくせ!
料金:3000円
体験時間:30分~1時間
対象年齢12歳以上(15歳以下は18歳以上の保護者の同伴が必要です)




