その18「カラオケ」
◇兄妹、カラオケ店にて
妹「こんにちは皆さん! 今日、私は兄と二人で近所のカラオケ店に来ておりまーす!」
妹「これから三時間、ノンストップで歌いまくりますよー! イエーイ!」
兄「あの、誰に向かって話しているの……?」
妹「いやほら、マイクを持ったらこんな感じのこと言ってみたくならない?」
兄「ならないっすね」
妹「もう、兄さんノリ悪いよー」
兄「お前の方はやけにテンションが高いな、何かあったのか?」
妹「何かって……。ほら、こうやって兄さんと二人で遊びに出かけるって久しぶりでしょ? テンションだって上がるよ」
兄「ああ、そういえばたしかに久しぶりだ。……よっしゃ、じゃあ気合を入れて歌うとするか!」
妹「イエーイ!」
◇一時間後
兄「もう疲れてきた」
妹「はやっ」
兄「ちょっと飲み物とってくる」
妹「じゃあ私のもお願い」
兄「お茶でいいのか?」
妹「兄さんのセンスにまかせるよー」
兄「はいはい」
◇さらに一時間後
兄「明日声出ないかも……」
妹「まだ全然歌ってないじゃん」
兄「普段歌うことなんてないからな。使ってない筋肉を動かしすぎたのかも」
妹「兄さんって友達とカラオケとか行かないの?」
兄「そういえば行かないな。誘われないし」
妹「なんか、ごめん」
兄「謝らないで、傷つく」
妹「私でよかったらいつでも付き合うからさ、歌もっと練習して友達を見返してやろうよ!」
兄「いや歌が下手だから誘われないってわけじゃないと思うぞ……」
◇それから五十五分後
電話「ピロロ、ピロロ」
妹「あ、電話鳴ってる」
兄「出るよ」
兄「はいもしもし。はい、……はい、……延長はできない、わかりました、……はい」
兄「あと五分だってさ」
妹「あーあ、もうそんな時間かー」
兄「近いんだし、また来ればいいさ」
妹「うん! 今日はダメだったけど、次回こそは兄さんに平均点を取らせてあげるからね」
兄「ふふ、そうだな、せめて平均点を取れるくらいには上手くなりたいよ」
妹「兄さんすっごく音痴だけど、声はけっこう私の好みなんだよね」
兄「え?」
妹「じょーだん! お会計の前に私ちょっとトイレに行ってくるね」
兄「はいよ」
◆
兄「おう、おかえり」
妹「兄さん……」
兄「ん? どうしたんだ」
妹「困ったことになった……どうしよう」
兄「え?」
妹「レジのところにクラスメイトの男子がいた」
兄「それがどうかしたのか」
妹「……兄妹で来ているってバレるの、恥ずかしい」
兄「あー…なるほどね。お前もお年頃だもんな」
妹「むむむ……」
兄「でももう部屋を出ないとお店の人に怒られちゃうよ」
妹「……こうなったら、もうこの手しかない」
兄「?」
妹「兄さん、私の彼氏になって!」
◇カラオケ店、レジ前にて
兄&妹「……」てくてく
男子1「ん?」
妹(できれば気づかれませんように…!)
男子1「あっ! おーい」手を振る
妹(やっぱり気づかれちゃうか…)
男子2「なんだ、お前もカラオケ来てたのか」
妹「う、うん。今日はその……か、彼氏と、デート、なのっ!」
男子1「へ、へーそうなんだ」
男子2「彼氏さんは高校生ですか?」
兄「あ、いや、一応大学生やってますっ」
男子2「そうなんですか。あ、俺らは彼女さんのクラスメイトなんですよ」
兄「あ、ああ、そうだったんだ」
男子1「お前、大学生と付き合ってるのかよ…!」
妹「ま、まあねっ!」
妹「それじゃあもう行くから! またねっバイバイ!」
男子1「お、おう」
男子2「じゃあねー」
妹(……よし、完璧にごまかせたっ!)
男子1(なんだ、あいつ彼氏いたのかよ……。)
男子2(あの彼氏さん、どっかで見たことがある気がするんだよなー)
兄(まだ時間大丈夫かな…。一分でも過ぎたら延滞料金とか発生するのかな……)
◇兄妹、帰り道にて
妹「ふぅ、一時はどうなるかと思ったよ」
兄「大げさだな、別に家族と来ていたからって誰もからかったりしないぞ」
妹「それでもなんかイヤなのっ」
兄「まぁでも、思春期はみんなそんなもんだよな」
妹「……それよりも兄さん、いつまで手をつないでいるの?」
兄「ん? もう彼氏のフリはいいのか?」
妹「うん、ありがと。もうクラスメイトも見ていないし、私達、もう別れよっか」
兄「なんだか意味もなく悲しくなるのはなんでだろう」
妹「そういえば、兄さんって今まで彼女いたことあるの?」
兄「あー…」
妹「ん? それとも、もしかして私が初彼女だったりする?」
兄「……内緒」
妹「えーないそれ!」
兄「なんだか腹が減ったな、帰る途中でコンビニ寄っていこうか」
妹「露骨に話をそらしているー」
兄「プリンを買ってやろう」
妹「わーい! さすが兄さん!」