その16「合宿①」
◇兄、妹の部屋のドアをノックする
コンコン
妹「入ってよし」
兄「どうも」
妹「今明日の準備で忙しいんだけど、何か用?」
兄「ああ、その準備を手伝ってやろうと思ってさ」
妹「このくらい私一人でもできるよ」
兄「いいや、お前は結構忘れっぽいところがあるからな。信用できない」
妹「むかっ」
兄「旅先ではどんなトラブルに巻き込まれるかわからないんだ。兄さんが万全に準備してやるから後は任せろ」
妹「兄さんは心配しすぎ。たかだか二泊三日だよ?」
兄「いやいやいや、二泊三日もだぞ? 知らない奴の車に乗せられて山奥の何にもないところで二泊三日も過ごすなんて俺には信じられないよ」
妹「……山奥じゃなくて海の方」
兄「海だって?……溺れる……意識不明……救急車……ああ、やっぱり合宿は危ない。主催者に電話してくるからそいつの電話番号を教えてくれ」
妹「あーもう、心配しすぎって言ってるでしょ! もう出てって」
兄「ちょ、ちょっと待って、てうわっ」
妹「はいはいお帰り下さいませ」
兄「ストップストップ、その前にこれ、居間に筆箱が置きっぱなしになってたぞ」
妹「……むかっ」
◇兄、居間にて
兄「困った、困った。二泊三日の旅行なんて」
ミニ妹「兄さんどうしたの?」
兄「ああ、お前か。聞いてくれ、あいつ明日から二泊三日で部活の合宿に行くんだって」
ミニ妹「へぇ、いいなー。私もついて行っていい?」
兄「これ以上悩み事を増やさないでくれ」
ミニ妹「兄さんは合宿に反対なの?」
兄「当たり前だよ。だいたい二泊三日っていったら修学旅行と同じ長さだぞ? 修学旅行は中学三年生になって初めて行くことを許されるんだ。中二のあいつには荷が重すぎる」
ミニ妹「ちょっと過保護すぎない?」
兄「そんなことはない! いや、でもどうだろ。こんなこと初めてだしな」
ミニ妹「もうちょっとあの子を信じて上げてもいいんじゃない? 私が言うのもなんだけど、真面目だし危なそうなことはしないと思うよ」
兄「……うん」
ミニ妹「そうだ! そんなに心配なら私達もこっそりついて行こうよ。それなら兄さんも安心でしょ?」
兄「たしかに! よし、そうしよう」
妹「に、い、さ、ん」
兄「なっ! いつの間に!」
妹「勝手についてきたら許さないからねっ!」
兄「……」
ミニ妹「怒られちゃった」
妹「まあ、それはそれとして」
兄「ん」
妹「私の緑のカバン知らない? あと携帯用歯ブラシと折りたたみ傘……」
兄「……」
妹「べ、別に一人でも支度できるけど! 兄さん準備手伝いたがっていたから!」
ミニ妹「兄さん」
兄「ああ」
兄(やっぱりこっそりついて行った方がいいみたいだな)