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第6話「記憶の扉」

 青年の僕への質問に、秋は首を傾げていた。

 天界は以前、前の異世界で聞いたことがある。

 確か、世界のバランスを保つために動いてる組織みたいなものだ。

 でも僕は、そんな人たちとの関わりをもったことは…

 

 

 ───一度だけある。

 

 

 あの時、僕が元の世界に戻る前に、天界の使者を名乗る女が姿を現した。

「どうした。早く答えろ。貴様は天界の関係者か、そうじゃないのか。」

 答えを急かす青年は、イライラした顔で僕を見てくる。

「昔に一度、姿を見ただけだよ。関係者ってほどじゃない。」

 青年は僕のことを睨み付ける。嘘ならば殺すと言わんばかりの殺気を放ちながら…

「ちなみに、そいつが姿を現したのはどこだ。」

 この人、やたら天界を意識してるみたいだけど、なんなんだろう。

「こことは違う、別の異世界だよ。天界を知ってるならわかるでしょ。異世界がここだけじゃないことくらい。」

 隣で話を聞いていた秋は、話についてこれないのか頭に手を乗せている。

「それで、その世界はどんなところだった?」

「一面お花畑の世界さ。あとはその世界の中心に城があるだけ。」

「なるほど…」

 青年はしばらく考えた後に、そのままこの場を立ち去ろうとする。

「ちょ、ちょっと待って!」

 僕が青年に声をかけると、彼はため息をついてこちらを向く。

「なんだ?こちらは用を済ませたのだから、早く次の目的地に行きたいのだが?」

「あなたはどうして天界のことを知ってる。それに、天界の情報を集めて何を…」

「お前に話す義理はない。」

 そう言って、青年はこの場から立ち去ってしまった。

 後を追いたいところだが、秋のお兄さんを探さなければいけないし、今は諦めよう。

「あの、翼さん。天界がどうとか言ってましたけど、それって何なんですか?」

 秋は先ほどの会話が理解できなかったようだ。

 まあ何も知らない人が天界なんて言葉を聞いても混乱するだけか。

「その話は拠点に戻ってから話すよ。今はまずお兄さんを探さないと。」

「そうですね。ひとまず今は、野宿できる場所を見つけましょう。」

 その後僕たちは、野宿できる場所を見つけ、休息をとった。

 

 

 

 翌日の昼。

 僕たちは、秋のお兄さんが受けた依頼の目的地にたどり着いた。

 辺りは草むらが広がっていて、空気も澄んでいてうまい。

「ここに秋のお兄さんがいるんだよね。」

「はい。確か、薬草を集めに行くって言ってたはずです。」

 まだこの辺りを彷徨っているなら、見晴らしのいいこの草原なら見つけるのは容易だが、何かトラブルに遭遇してる可能性の方が高いだろう。

「離れるのは危険だから、二人で行動しよう。何か手がかりになりそうなものがあれば教えて。」

「わかりました。」

 こうして僕たちは、秋のお兄さんを見つけるための探索を開始した。

 しかしこの草原は広すぎる。

 これは一日じゃ探しきれないんじゃないか?

 それにしても魔獣も一匹もいないし、障気も感じない。

 ここは一体、なんなんだろう…

 そんなことを考えていると、遠くに何かがあるのを見つけた。

「何だろう、あれ。」

 僕の呟きに反応した秋も、僕の見ていた物を見つける。

「行ってみます?もしかしたら何か手がかりがあるかも…」

「そうだね。行ってみよう。」

 僕たちは遠くにある何かに近づくと、それはとてつもなく大きい白い岩だった。

「なんだこれ…」

「わかりません。こんなの、見たことない…」

 巨大な白い岩の前に、呆気をとられる僕たち。

「と、とにかく、このことはお兄ちゃんを見つけてからにしましょうか。」

「そうだね。えっと、この辺りに手がかりはあるかな…」

 岩の周りを探していると、地面に刃物で引いたと思われる線があった。

「これ、もしかしてお兄ちゃんが?」

「可能性はあるね。どうやら先に続いてるみたいだし、この線を辿ってみよう。」

「はい。」

 こうして僕たちは、線を辿って行くことにした。

 

 

 

 線を辿り始めてから三時間後。

 僕たちはまだ何も手がかりを見つけられていなかった。

「何もないね。」

「まだ三時間しか経ってないんです。そう簡単に見つからないですよ。翼さんは前に一度、異世界に行ったんですから経験あるんじゃないですか?」

「僕はあの世界では城に引きこもってたからそんな経験はないかな。」

「……つまり異世界ではニートをしていたと。」

「城しかなかったんだよ。だからそこにいた女の子と二人で暮らしてたんだ。」

「つまり異世界で知らない女の子と二人きりで暮らしてたと。」

「……ねえ、何だか今日は当たりがきつくない?」

「そんなことはないですよ?」

 まあ、もしかしたらお兄さんの手がかりがあるかもしれないってことで焦ってるのかな。

 そんなことを話していると、秋が何かを見つけたようだ。

「あの、あれって…」

 秋が指差す方を見ると、そこには扉があった。

 僕たちは扉のところに行ってみると、辿っていた線がここで途切れていた。

「おそらく、君のお兄さんはこの扉の中にいるだろうね。」

「この中に…お兄ちゃんが…」

 僕は扉の取っ手に手を伸ばし、扉を開けようとすると、秋が不安を混じらせた声で尋ねてきた。

「あ、あの。大丈夫何ですか?開けた途端に、何か起きたりとか…」

「確かにその可能性はあるけど、中を見てみないとお兄さんがいるかもわからないし…」

「そ、そうですよね。すみません。変なこと言って…」

 秋はまだ不安そうな顔をしているが、僕は構わずに扉を開けた。

 扉の先に広がる景色は真っ暗でなにも見えなかった。

 僕は扉の中に入り、秋も続けて中に入る。

「なんなんですか、これ…」

 僕たちが扉から離れた途端に、扉がひとりでにバタンと閉じた。

 僕たちはその音を聞いて扉のあった方に振り向き、そこに駆け寄る。

「な、なんで扉が閉まるんですか!どうなってるんですか!」

「秋、ひとまず落ち着いて。まずは状況を…」

 確認しようと言い終わる前に、僕の視界が光で遮られた。

「うっ、眩し!なんだ、これ…」

 僕は状況が把握できずに混乱していると、どこからか声が聞こえてきた。

「お久しぶりですね。優輝翼。」

 この声、どこかで聞いたことがある…

「確かあなたは、あの城に現れた…」

「そうです。アンジュです。ふふ、覚えていてくれて嬉しいですよ、翼。」

 アンジュがからかうようにそう言ってくるが、今はそれどころではない。

「アンジュ。天界人のあなたが、どうしてここに…」

「私は元々この扉の管理をしているのです。ここにいることは、そう不思議なことではありません。」

 何だか頭が混乱しそうなので、この話はひとまず置いておこう。

「そういえば、あの扉は何?開けても何もなかったけど。」

 アンジュはしばらく無言でいたが、やがて扉について語り出す。

「あれは記憶の扉。この世界の記憶が眠られています。あなたは今、その記憶に飛ばされようとしている。」

「この世界の記憶?一体何を言って…」

 あれ、何だろう。意識が遠のいていく…

「あなたにお願いがあります。」

 アンジュが、強く芯の通った声で話し出した。

 

 

「あなたに、この世界を救ってほしいのです。」

 

 

 その言葉を聞いて、僕の意識が途切れた。

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