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第5話「謎の男」

 拠点を出てからしばらくたち、辺りが暗くなってきた。

「暗くなってきましたし、今日はこの辺で休みましょうか。」

 秋の提案に賛成し、野宿の準備を始める。

 ひとまず僕は、薪を集めようと森の中に向かうと…

「どこに行くんですか?これから野宿の準備をしないといけないのに…」

「いや、野宿なら薪とか集めないと…」

 秋は何を言ってるんだろうという目でこちらを見つめる。

「ひょっとして翼さん、この世界に来たの、最近ですか?」

「うん。」

 僕の返答に、秋は信じられないという表情を見せる。

「え、え?だって翼さん、拠点であの人たちを圧倒してたじゃないですか。それに、ここに来るまで魔獣と戦いましたけど、結構手慣れてるように見えましたけど…」

 どうやら秋は、僕をベテランの戦士だと勘違いしていたようだ。

 僕は異世界に行ったことはあるが、そこには魔獣なんていなかったし、城には食料もちゃんとあったから、野宿もしたことがない。

 あそこでは、本物の剣を使って剣術を教わったくらいで、後は前の世界でも出来るようなことがほとんどだ。

 最も、城での生活は余程の金持ちでないと出来ないだろうが。

「僕は剣術を教わったことがあるだけだよ。この世界に来たのだって、今日なんだから。」

「今日!?」

 秋の今日一番の大きな声に、僕は少しびっくりした。

 秋は両手を頭に乗せながら、何かぶつぶつ言っている。

「ひとまずその事は後で話すから、今は野宿の準備をしよう?」

「そ、そうですね。えっと、野宿が初めてなら、いろいろ教えた方がいいですよね。」

 そう言いながら、秋は袋から小さいヘクセストーンを取り出した。

「そのヘクセストーンは?」

「ヘクセストーンのことは聞いたんですね。これはフラッシュという魔法が刻まれたヘクセストーンです。本来は明るすぎて魔獣に気づかれちゃうんですけど、このくらいの大きさなら、辺りを照らす程度の明るさになるので、近くに魔獣がいなければ気づかれることはありません。」

 秋はヘクセストーンに手をあてて、魔法を唱えると、小さな光の球体が浮かび上がり、辺りを照らす。

「このくらいの大きさならって、もしかして魔法の威力ってヘクセストーンの大きさによって違うの?」

「はい。大きさに比例して、魔法の威力が上がるんです。」

 説明を終えた秋は、おにぎりを二つ取り出し、そのうちの一つをこちらに差し出した。

「……いいの?」

「はい!私の問題に協力してくれてるので、これくらいは。」

 別に気にする必要はないんだけどなあ…

 でも、せっかくの厚意を無下にするのも気が引けるし、ここは素直に受け取ろう。

「ありがとう。ありがたくいただくよ。」

 僕は秋が差し出したおにぎりを受け取り、かじりつく。

 ……おいしい。

「おいしいね、これ。具は入ってないけど、ちょうどいい塩加減だと思う。」

「本当ですか?ありがとうございます!一生懸命作ったので、そう言ってもらえて嬉しいです!」

 僕の誉め言葉に、秋は満面の笑みで返した。

 これまでは、どこか思い詰めてるみたいだったけど、少しは心に余裕ができたかな。

「ごちそうさま。そういえば、寝るときの見張りはどうする?」

「そうですね…じゃあ一時間おきに交代しましょうか。」

「了解。」

 秋はおにぎりを食べ終わり、光の球体を潰して消すと、早々に眠りについた。

 やっぱりこちらの生活に慣れてるのか、眠りにつくのが早い。

 ……暇だ。

 今のところ魔獣の気配も感じないし、物音ひとつしない。

 僕はポケットに入れていたスマホを取り出し、画面を開く。

 日本にいたときは、暇なときスマホゲームで暇潰しをしていたが…

 

 ───案の定、画面の左上に圏外の文字があった。

 

 やっぱりこの世界で電波が通ってるわけないよな。

 僕はスマホの電源を切り、ポケットに入れる。

 まあ暇ということは安全が確保できてるってことだし、暇に越したことはないか。

 そんなことを考える僕に、秋はこちらに背を向け、寝っ転がりながら話しかけてきた。

「あの、翼さん。」

「ん、どうしたの?」

 秋はしばらく黙っていると、やがて深く息を吸って話し出す。

「今日は、ありがとうございました。困ってる私に、手を差し伸べてくれて。」

 なんだ、そんなことか。

「お礼ならお兄さんを助けた後にしてほしいかな。お兄さんを救えなきゃ、本当の意味で助けたことにならないと思うから。」

「……わかりました。じゃあお兄ちゃんを助けることができたら、ちゃんとお礼を言わせてください。」

「うん、わかった。」

 なんだろう。ちょっと前までは人との関わるのが怖かったのに、今だとなんだか…

 ……いや、駄目だ。

 ここでまた、安寧に身を委ねたら、あのときと同じになる。

 それだけは、嫌だ…

 

 

 

 僕たちが交互に見張りをしてから三回目の見張りのとき。

 辺りから魔獣の気配を感じる。

 一匹二匹なんてものじゃない。感じられる気配の数だけでも七匹。

「秋、起きて。魔獣が来てる。」

 僕の声で目覚めた秋は、辺りを見渡し状況を把握し、杖を構える。

「秋、さっきの見張りのときは本当に魔獣はいなかったんだよね。」

「はい、間違いないです。少なくとも、気配は一切感じられませんでした。」

 もしそれなら妙な話だ。

 今感じている魔獣の気配は徐々に近づいてきたものではなく、突然感じたものだ。

 もし気配を消していたなら、僕たちを襲う直前で気配を感じさせる理由がない。

 一番考えられる可能性は、魔獣がその場で生まれたとかだが、七匹もほぼ同時に生まれるなんでことがありえるだろうか…

 そんなことを考えているうちに、魔獣がどんどん近づいてくる。

 考えるのは後だ。今はこの状況を何とかしないと。

 やがて茂みの中から魔獣が姿を現した。

 そこにいたのは、狼が三匹、犬が二匹、猪が二匹だった。

 それを見た秋が、左腕に身につけた腕輪に埋め込まれたヘクセストーンに触れ、魔法の準備を始める。

 すると魔獣たちが、一斉に襲いかかってくる。

 それと同時に魔法の準備が終わった秋は、すぐに魔法を発動する。

「『シェル』ッ!」

 半透明な壁が僕たちを覆い、魔獣の攻撃を防ぐ。

 攻撃を防いだと同時に壁は消え、それを見た僕が犬の魔獣を一匹倒す。

 僕たちは犬の魔獣を倒してできた隙間を走り抜け、僕たちの後を、魔獣が追ってくる。

 さすがにあの数を相手にまともに戦えば、無事では済まないかもしれない。

 それに突然魔獣が大量発生した場所に長く留まるのは得策ではない。

 ならば、別の場所で迎え撃つ方がいいだろう。

 走り始めてから十分たった。そろそろ迎え撃とう。

 そう考えて後ろを振り返り、剣を構える。

 秋も杖を構え、戦闘体制に移る。

 僕たちと魔獣の群れとの距離が詰まっていくなか、何か声が聞こえた気がした。

 やがてその声は聞こえなくなり、空耳かと思ったその時、

「『オプスキュリテ』ッ!」

 森の中から黒い波動が魔獣の群れを襲い、一掃した。

「!?一体何が…」

 森から現れたのは、灰色の髪に赤い瞳を持った、黒ずくめの青年だった。

 その青年が、こちらに近づいてきた。

「あ、あの、助けてくれてありがとうございます。」

「えっと、ありがとう。」

 助けてもらった礼をするが、青年は何も反応を示さない。

 すると、青年が口を開き、

 

 

「貴様、天界の関係者か。」

 

 

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