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第3話「魔法」

 僕は未来と一緒に拠点の外に広がる荒野に向かっていた。

 こんなところに来た理由は、魔法の使い方の確認のためである。

 どうやらこの世界には日本人に限らず、外国の人間も転移しているようで、金の単位を統一する考えは意見がまとまらず却下となり、結論としては金銭的なシステムは設けず、役割分担を拠点内の人間全員に割り振り、協力し合う方針らしい。

 その方針のお陰で、背中に背負っている剣、グランエスパーダを無料でくれたわけだが、そんな方針でトラブルが起きないかと不安になる。

 だが未来いわく、生きていくのに精一杯であるうちは大丈夫とのこと。

「あまり拠点から離れすぎるのもまずいから、この辺にしよう。この辺には狼みたいな強いやつはいないから。」

 そう言って未来は腰に下げた短剣を抜く。

「それじゃあ魔法の使い方を説明するね。魔法を使うときにはヘクセストーンに生命力を注ぐの。翼の剣にもヘクセストーンがついてるでしょ。これに体のどこかに触れて念じるの。それで魔法が発動待機状態になるの。じゃあ、一回やって見せるね。」

 未来は短剣の柄についたヘクセストーンに触れる。

 するとヘクセストーンが輝きを放ち、未来の周囲に風が集まっていく。

「今の状態が魔法発動待機状態。そしてこの状態でヘクセストーンに刻まれた魔法名を唱えれば魔法が発動する。見てて。」

 そう言うと、未来は左手を岩の方に向け、魔法名を叫ぶ。

「『トルベジーノ』ッ!」

 未来が魔法名を叫んだと同時に、風の刃が岩目掛けて飛んでいき、岩をスパッと切り裂いた。

「これが魔法。さあ、やってみて。」

 説明を受けた僕は、剣の柄の部分についたヘクセストーンを見る。

 拠点にいた古代語に詳しいおばさんに翻訳させたら、これに書かれた古代文字は、『シャイン』と読むとのこと。

 僕は近くにある岩に魔法を当てることにした。

 僕は未来の言っていたようにヘクセストーンに触れるように剣を握り、念じる。

 するとヘクセストーンが光を放ち、左手に光が集まる。

 このあとは確か、魔法名を唱えればいいんだよな。

 僕は左手を岩に向け、魔法名を唱える。

「『シャイン』ッ!」

 すると左手に集まっていた光が打ち出され、ドカンと大きな音をたてて岩を砕いた。

 すごい…これが魔法…!

「やっぱりみんな魔法を使うと興奮するんだね。まあ私も人のことは言えないけど。」

 未来は苦笑しながらそう言うと、足音が聞こえる方を見る。

 僕もそちらを見ると、そこには狼の魔獣が三匹こちらに向かってきていた。

 おそらく岩を砕いたときの音を聞きつけたのだろう。

「よし。それじゃあ最後に魔法を実践で使ってみようか。大丈夫だよ。私も一緒に戦うから。」

 そう言うと、未来は僕の隣に立つ。

「翼は自由に動いて。私は援護するから。」

 自由にと言われても、異世界に来たばかりの人間にそんなこと言うかな普通。

 まあ森で戦った魔獣と比べると小さく、見晴らしがいいこの荒野では不意打ちをくらうこともないから大丈夫ということなのか。

 僕は近づいてきた狼の魔獣に向けて左手を前に出し、

「『シャイン』!」

 左手から光の塊を放ち、右の魔獣に命中する。

 魔法を使うには生命力を使うって言ってたし、これ以上の使用は控えよう。

 シャインをくらった魔獣は、ダメージは与えたが、まだ倒れてはいない。

 すると残り二体の魔獣が僕に襲いかかってきた。

 僕は攻撃を後ろに飛んでかわし、左側の魔獣を切り裂く。

 斬られた魔獣の傷口からは障気が溢れていた。

 無傷の魔獣はこちらに向かって襲いかかってきた。

 だが森で戦った魔獣よりも遅く、攻撃をかわすのは難しくない。

 僕は引っ掻き攻撃をかわし、攻撃後の隙をついて攻撃に転ずる。

 僕の振るった剣は魔獣の首を切り裂き、そのまま霧散していき、ヘクセストーンを残していった。

 残る魔獣は二体。そして相手はどちらもダメージを負っている。

 二体の魔獣は、同時に僕をそれぞれ別方向から襲ってきた。

 すると突然無風だった荒野に風が吹いた。

 風の向かう方を見てみると、そこには未来が魔法発動待機状態で構えていた。

「『トルベジーノ』!」

 風の刃は一体の魔獣を襲い、そのまま霧散する。

 最後の魔獣はそのまま僕目掛けて地を駆けていた。

 僕はヘクセストーンに生命力を送り、光輝く左手を前に出し、

「『シャイン』ッ!」

 放たれた光は魔獣に直撃し、霧散した。

 僕がフウッとため息をつくと、未来がこちらに近づいてきた。

「すごいね翼!初めてとは思えない戦いっぷりだったよ!」

 未来は右手を上げて僕に近づけてきた。

 もしかしてハイタッチでもしてほしいのだろうか。

 僕は右手を上げ、未来とハイタッチする。

「初めてでここまで戦えたら心配無さそうだね。これからは拠点の人たちから依頼を受けると思うけど、そのときは誰かと一緒にこなしてね。どんなベテランでも死ぬときは死んじゃうから…」

 僕はコクリと頷くと、未来が拠点に戻ろうと言い、歩き出す。

 と思ったら、そういえばと言ってこちらに振り向く。

「翼に聞いておきたいことがあったんだけど…」

「聞きたいこと?」

「うん。翼ってさ、ここが異世界だって言っても驚かなかったよね。それに、この世界に来てすぐに魔獣と戦ってたみたいだし…」

 まあ確かに普通の人は異世界転移したことにもっと驚くだろうし、魔獣に襲われたら逃げ出すだろう。

「でもあれは最初は現実味が感じられなかったし、魔獣のことだって未来に助けてもらわなかったら死んでたよ。」

「でも森で会ってから一度も驚いた様子を見せないし、魔獣だって不意打ちがなければひとりで倒せたんじゃ…」

 ずいぶん回りくどいなぁ。

 言いたいことがあるならはっきり言ってほしい。

「で?結局君は何が言いたいの?」

 未来は意を決した表情になった。

「あの、違うならそれでいいんですけど…」

 表情を見る限り、軽い内容ではないだろう。

 僕は未来の言葉に耳を傾け、

 

 

「翼って、もしかしてここに来る前から異世界に来たことある?」

 

 

 質問の内容が予想外すぎて、一瞬固まってしまった。

「あ、ごめん。変なこと聞いて…もしかしたらって思ったんだけど、そんなことあるわけないよね。」

 僕は、自分の質問を自己完結している未来に一言。

「…あるよ。」

 未来がえっと声を出し、こちらを見る。

「今何て…」

 

 

「だからあるって言ったんだよ。異世界に来たことが。」

 

 

 僕の返答を聞いた未来が、信じられないといった表情で固まった。

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