第15話「諦め」
和真は僕が振るった木刀を、後ろに跳んでかわし、すぐさま僕と距離を詰めて木刀の柄で腹に殴りかかってきた。
僕はそれを手で受け流し、和真のバランスが崩れたところを狙って、木刀を背中に叩き込む。
「ぐあ!?」
和真は倒れるがすぐに立ち上がり、僕に向かってくる。
彼の剣劇はでたらめに見えて、ちゃんと基礎は身に付いているようだった。
そう、基礎だけは…
「なっ!?」
僕は和真の一振りを、体勢を低くすることでかわし、そのまま木刀を振るい、彼の木刀を吹き飛ばす。
「くそ!」
和真はそれを取りに行こうとするが、僕はその道を塞ぐように立ち塞がった。
「勝負ありじゃないかな?」
僕がそう言うと、和真は悔しそうに歯軋りをする。
そんなとき、横で見ていた真人がこう言った。
「和真、諦めろ。お前じゃこいつには勝てない」
「……諦めろだと?」
和真は真人を思いきり睨んだ。
「俺は諦めねえぞ!いつもすぐに諦めるてめえと違ってな!」
和真は僕の方を向くと、いきなり殴りかかってきた。
だがその動きは単調で、横に移動するだけでかわすことができた。
「ぐあ!?」
僕は和真の右腕に木刀を振るい、彼は悲痛の叫びをあげる。
「もうやめた方がいいよ。これ以上の戦いは何の意味もない」
「意味がないだと?」
和真は懐に手を突っ込みながら言った。
「お前にはなくても俺にはあるんだ!こうなったらとことんやってやる!」
和真は懐からヘクセストーンを取り出し、叫んだ。
「『ジャベリン』!」
和真は槍のようなものをこちらに飛ばしてきた。
僕はそれをかわすが、木刀に当たったことでそれは砕け散ってしまう。
そして、僕たちの戦いを横から見ていた春樹と真人が、和真を止めに入った。
「おい!和真止めろ!お前やりすぎだぞ!」
「和真!こんなことをしても、何の意味も…!」
「うるせえ!『ジャベリン』!」
「うわ!?」
「くそ!」
和真は槍を二人に飛ばし、牽制する。
僕はその隙に落ちていた木刀を拾い、懐のヘクセストーンを取り出し、念じながら和真に駆け寄る。
「くらえ!『ジャベリン』!」
「ワンパターンな戦い方じゃ僕には勝てないよ!」
僕は飛んでくる槍をかわし、和真との距離を詰めていく。
そして、木刀が届く距離にまで来た。
「『パラライズ』!」
僕の叫びとともに、木刀に微力な電撃が帯び、それを和真の胴体に叩き込む。
「ぐああ!」
木刀が当たった瞬間、和真の全身に電流が流れ、その場に倒れる。
その様子を見て、春樹と真人はこちらに駆け寄ってくる。
「翼!和真は大丈夫か!?」
「大丈夫、痺れさせただけだから」
「だが魔法剣を使う必要はなかったんじゃないか?普通に魔法を使えば…」
「魔法剣の方が効き目があるんだよ。和真、相当頭に血が昇ってたし、これくらいしないと駄目だと思ったんだ」
「そうなのか」
僕と春樹が話していると、真人は和真をおんぶし、こちらに声をかける。
「和真が迷惑をかけた。この件は謝ろう、すまなかった」
頭を下げる真人に、僕はこう言った。
「本当に悪いと思ってるなら、彼との過去を何とかした方がいいよ」
「なっ!?」
真人は図星をつかれた顔をする。
そしてすぐに険悪な顔になり、僕を警戒するかのように言った。
「あんた、なんでそのこと知ってる?これは誰にも話したことないはずだぞ?」
僕は軽い口調で答える。
「さっきの会話の流れで何かあったのは誰でもわかるよ。そしてキーワードは、『諦める』」
「貴様!」
「別に君たちの関係に口出しする気はないけど、何とかしないと手遅れになるよ」
「手遅れ?一体どういうことだ」
僕は真人に背を向けて、言った。
「知らない方がいいよ。それを知ったら、絶望するしかないから…」
「お、おい翼!」
僕はその場を去り、春樹もその後を追ってきた。
「翼!お前まだ何か知ってるんだな!答えろ!何を知ってる!?」
僕は春樹に肩を掴まれ、足を止める。
「お前は何を知ってるんだ?何故それを俺たちに隠してた?答えてくれ翼。それが、俺たちの希望になるかも…」
「僕が知ってるのは…」
僕は振り返り、春樹の顔を見て言った。
「僕が知ってるのは、人の成れの果てだよ…」
「……えっ?」
春樹は僕の言葉を聞いて顔を青くする。
「こんなこと知っても何も解決しないし、むしろ事態を悪化させるだけなんだ。だから、僕が隠しごとしてることはみんなに内緒にしてほしい」
「……わかった」
春樹が僕から手を離すと、そのまま立ち去っていく。
「あ!翼さん!」
僕は明日の討伐の荷造りをしていると、秋がこちらに駆け寄ってきた。
「どうした?何か用か?」
「いえ、準備は順調かなって思いまして。もし必要なものがあれば取ってきますよ?」
「ありがとう。でも大丈夫だよ。必要なものはちゃんと持ってきたから」
「そうですか」
秋は尊敬の眼差しを僕に向けて言った。
「それにしてもすごいですよ!こっちに来て間もないのに、前線に出してもらえるなんて!翼さんって信頼されてるんですね!」
「別にそんなことないと思うけど…今回のことだって無理行ってたんだが出させてもらったし」
「それでも出してもらえるのは、信頼されてるんですよ!自信もっていいと思います!」
この子、随分僕になついてくれてるけど、ちょっと過大評価じゃないかな?
「まあ信頼されてるなら、ちゃんと成果を出さないとだね」
「頑張ってください!私たちもサポートしますから!」
「うん、ありがとう」
なんだか、彼女の健気さを見てると和むなぁ…
「それじゃあお互い頑張りましょう!絶対に勝つんです!」
秋はそう言って、手を振りながら去っていく。
僕も彼女に手を振り、ある程度離れていくと手を下ろす。
そうだ、明日は絶対に勝たなくちゃいけない。
ここのみんなを守るためにも。
そのために、僕にできることは全てやる。
僕は点検を再開しようとすると、拠点の入り口から叫び声が聞こえた。
「ま、魔獣だ!魔獣が攻めてきたぞ!」
その叫びを聞いて、拠点内全員が驚き、動揺し始めた。