魔道具屋にて
寮を後にした二人は、この都市にいる一番の魔道具師の店に向かうことにした。
忘却魔法対策をどうすればいいのかを聞くとき、魔法の才能を持っていれば魔法使いに聞いたほうがよかったが、二人ともせいぜい初級魔術師程度の実力しかなかったのだった。
そして件の店に着いた二人は驚いた。
とてもぼろかったのである。近所の子供が間違ってボール、皮みたいなやつで丸くしたものをぶつけたりや酔っ払いがげろを吐くために手をかけただけでも倒れそうだった。倒壊寸前である。
アルドは凄くこそこそ声で話しかけてきた。
「あのさ、道間違えたんじゃないか?」
ウォルターは腕を組み首をかしげながら答えた。
「間違ってはないはずだ。ここで間違いない、でも凄くぼろいなあ」
「まあいいさ、とりあえずなかにはいってみよう」
二人はまるで深夜に家屋に侵入する泥棒のような慎重さで店の扉を開け、中に入っていった。
中に入ってからも二人は驚くことになった。
「なかは、綺麗なんだな」
アルドが呆然としていて、ようやく搾り出した一言にウォルターも黙ってうなずくことしかできなかった。
すると何処からか声がしてきたではないか。
「見た目にだまされるようなやつは、うちの店にはいらないねえ...」
声のしてきた店の奥のカウンターのほうを新ためてよく見るとそこには老婆がいた。
ウォルターはとりあえずたずねてみることにした。
「あなたがこの店の主人で、この都市一番の魔道具師のエリースさんでよろしいでしょうか?」
老婆はうなずきながら答えた。
「ああ、もちろんだとも、私がエリースだとも」
ウォルターはでも有名な店だからあんま意味なかったぞっと店のカモフラージュの意味のなさについて思ったことは言わないでおいた。
そして昨日、今日のことについて説明を隠さずしてどのような対処をすればいいかをたずねた。
魔人についての考察も話した上でこちらは隠すように伝えておいた。
エリースは少し考えた後、こう答えた。
「確かに、人の記憶をそこまで消してしまうなら魔人の可能性が一番高いね。」
「ただ禁術といわれるものには記憶を代償にして恐ろしい効果を持った魔術を使える類のものがあるらしいよ。」
「けれどそれならきっと北の森は今頃更地になってるだろうね。十中八九魔人で間違いはなさそうだ。」そして最後にこう付け加えた。
「けど憶測でしかないよ、一番いいのはその女性をここに連れてきてもらって私に見せることだね。そしたら何で記憶を失ったのかは大体判るよ。」
ウォルターは歯噛みした。こんなことなら同行を断るべきではなかったと。
「明日にでもつれてくることにします。」
老婆は何度もうなずいた。
「うん、うん。それがいいねえ。もしも間違いがあったら大変なことになってしまうからねえ。」
ウォルターはとりあえず明日この時間にまた来ますといって店を後にしたのであった。
そして帰り道、宿屋によって、黒髪の女性に話をしようとしたが、今は出かけていて留守にしているといわれたので、宿の主人に代わってもらい、明日同行して欲しいから予定を空けて欲しい旨を伝えて帰ることにした。
武器や防具の類は家から持ち合わせた類のものが合ったため特に必要としなかった。
そうして他に必要なものがないかと町をぶらぶらとして探索していたが、これといって思い当たるものはなかった。
寮に戻ってみると、アルドは外で訓練をしていた。相棒の馬、なんという名前かは忘れたが、その馬に乗ってウォルターがまねできないほどこう難易度な障害などを楽々とかわしたりして、練習場の注目の的になっていた。
「あんなの見せられたらお姫様もほれるってものだな。」
そうウォルターはつぶやいてそこを立ち去った。この世界の馬は魔力の影響やら何やらで地球における2倍くらいのスペックを誇っていた。そんなことは知らないアルドなどは、じゃじゃ馬ともいえるような馬を乗りこなした挙句にさらに魔法で馬や自身を強化して常人では目で追うのも大変な動きをすることができるのである。
もちろん、とても早いので自己強化したところでうまく扱えない人は多く、一般的に足を早くして、疲労しづらくするなどといった強化をするのが普通ではあったのでこの世界でも地球と耐久力や足の速さ以外はさしてかわらないといってもいいだろう。一部の例外を除いて。
「あれは明らかに2m超えてたな。」
アルドがさっき馬とともに跳ねた高さの話である。