宿屋にて3
自分で説明してる間になんだか魔人が本当にいるような気がしてきたウォルターは自分も協力するといって聞かない黒髪の女性を危ないからとか冒険者で無いとかといってあしらって、宿屋から出た。そして裏口に入っていった。
宿屋の主人にして領との連絡係をしてくれている宿の主人に会うためにだ。
宿屋の主人はウォルターをみるなりこうたずねてきた。
「それでウォルターの坊ちゃん、魔人はほんとにいるんですか?」
ウォルターは投げやりにこう答えた。
「いてもおかしくはないけれどいなくてもおかしいということはないだろう。」
しかしこう続けた。
「だが事件は起こっている、コレを解決すれば、誇張でもなんでもいいから評価してもらうとするさ。」
今、王国では内戦が起こっている。ウォルターの妹フロリアの勇者の力をめぐってだ。
勇者は王国にどういう理屈か一人しか生まれない。新しく生まれる方法は責務を果たして勇者の力を失うか、死ぬかだけだ。
このことにより勇者の力をフロリアに放棄つまり死ねという要求を貴族が穀倉地帯でありウォルターの実家の家に軍を送り込み突きつけてきたのであった。もちろんこんなことは受け入れることはできない。今のところ大規模な戦闘は起こってはいないもののどうもあちらの意図は穀倉地帯の分配、王国の生命線を我が物にしようとすることだと思われた。
ラモンド家は王国の国王から全幅の信頼を獲ており、ラモンド家も国王と王国に対し忠誠を誓っていてその結束は固かった。
国のほとんどと言って構わないほどの穀倉地帯から送られてくる食料を王が一度税として受け取り、それを各国境を面していて軍を持っている貴族家に分配しているのだ。
どうしてこのような形になったかといえばもともとはいくつかの国に分かれていたものを長年の食料の受け渡しからの流れでひとつの国としてまとまったからである。
どうしてまとまる前の他の国々が食料の生産に乏しかったかといえば、周りを異種族や異民族に囲まれており、たびたび異種族には国土が蹂躙されていたものが多かったからである。ただ異種族、リザードマンなどは人の土地、平野などを支配などはせず、もっぱら沼地に引きこもるためここ数年では人の国が技術力を高めきちんと防衛できるようになり王国はほとんどの国境において戦争などが起こらなくなるまでになったのであった。
ひとつの王国として固まった国が東のほうにある異種族との小康状態になったあとは北の帝国こちらは守りを完璧にしてはいた、となると南のほうでちょっかいをかけてくるほかの人間の国々などに対して軍を送り砦を築いて守りを固められるようになるまでそう時間がかからなかったのだ。
そして長らく戦乱に明け暮れた王国はつかの間の平和を享受したわけだが問題があった。
戦争がなくなったらそれを生業にして生きていたものたちは食っていけないのである。
長らく耕作を行っていなかった土地はあまり彼らに作物をもたらさなかったのだ。
地方で戦っていた貴族は戦争をしていた時のほうが贅沢ができていたし、目の前の脅威がなくなって内側で大量の利益を獲ている身内に嫉妬が向かったのであった。
ほとんどの資金を王国から受け取っているためいまさら抜けられるわけもない彼らが取る手段は戦争などで正式に土地やお金を恩賞として手にいいれてることや、自身の領を開発して税金を取られてもなお、手元にあまるだけの収入を得るくらいしか手段がなかった。
せっかく条約を結んでまで収めた戦争をまたしたところで評価などされるわけもないし、また半分以上の領は復興などで補助を受け取る始末なので後者は不可能だった。
戦争で勝ち進めて土地だけは広くなってしまい、戦争が終わりこれまで必要だった武官や軍人でなく、文官やないせいに従事するものが必要になったのもまずかった。
王国も強力な中央集権を作り上げてるといってもよかったので人材の派遣などもしていたが、必要な数が圧倒的に足りなく、前からそこにいたものには冷遇されているようにも見えたのだ。
トラブルは続いたものの、それだけなら内乱になることもなかったのであったが、そこでおこったのが勇者の騒動である。
勇者として責務を果たすべきものが果たせない。これをかばい王国を未曾有の危機に陥れようとするラモンド家は許されざるものだ。貴族としての領民や国民を守るという責務をわが子かわいさで果たせない、勇者の首を出せないというのなら我々がラモンド家ごとうちとってくれよう。
こんなしだいで内乱に向けて動き始めていたのであった。
約一年位前の話である。
これを防ぐためにはラモンド家から貴族としての責務を果たせるものが出るしかない。そうしなければフロリアが死ぬかたくさんの王国民が死ぬかの2択になるかと思われた。
あまりにも誇張されて宣伝された魔王の脅威は貴族は説得できたとしても煽動された民衆を何の説明もなく引き換えさせるだけのまとまりと規模ではなくなったのである。