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17.ウンチュウの噂



「知事のインリーはシーアンの縁戚に当たるそうです」


貴人用に設えられた客室の応接室で、ルトヘルは口を開いた。ここはアルフォンスの為に用意された個室だ。応接室にはルトヘルの他、濃い焦げ茶の堅そうな髪を短く刈り込んだルトヘルより年上に見える中背の男が座っている。


その男はオーケ=ルーマンと言い、顔の凹凸がやや少なく目の細い男だった。アルフォンスが尋ねた所、母親がホフマン出身だと言うので納得した。彼はこの土地の市井に混じると違和感なく溶け込む事が出来る。それもあっての遠征軍への登用だった。今回の遠征軍にはホフマンの言語に通じている者や、見た目で違和感の無い者を何割か登用している。ズワルトゥ王国の言語は同盟国の間で公用語のように扱われ、ホフマン王国でも華族階級の者はほとんどストレス無く話す事が出来る。役人となる者もほぼ意思疎通には問題ないが、市井……殊に辺境のウンチュウの平民となると通じない相手の方が多い。何かとホフマンで通常使われるイエンイエと言う言語を使える者が重宝するのだ。


オーケはその点、見た目の違和感も無くイエンイエの扱いも流暢なので、諜報活動に打ってつけだった。ルトヘルがチラリと目くばせをするとオーケは頷いた。


「少し前までの知事はこの土地の出身者だったそうです。けれども失策を行い、それを理由に左遷されたそうです」

「失策とは?」


アルフォンスは先を促した。オーケは抑揚の無い声で淡々と説明した。


「ウンチュウのはずれ、山の奥深くに小さな村があったそうです。その村人達全員が忽然と姿を消したとの事です。蛮族に攫われたらしいと一般的には言われているそうですが、正確な理由は分からないそうです。と言うのは村が荒らされた形跡が無く、村人だけが夢のように掻き消えてしまったと言われているからで、山に住む物の怪の仕業と言う根拠の無い噂も出回っているようです。この地域出身の前知事がその任に就いている時、どうやら担当者が巡回を怠ってその事に気付かなかったようで……その責任を中央に問われ知事が左遷され、今回新たに首都から派遣されたのがインリーと言う訳です」

「村一つが消えたと言うのは不穏な話だが……知事を左遷すると言う処分は妥当なのか?どうもホフマンのやり方は分からないな。つまり結論から言うと、それまではこの地域は地元で取り仕切っていたのに、最近中央の監視下に置かれているとなるのか」

「はい、一時的なものかもしれませんが。長らく地元出身者ばかりが知事を任命されていたので、市井の者はそう捉えているようです」

「ふーん……」


アルフォンスは腕組みをして暫し考え込んだ後、ルトヘルとオーケに視線をやり口を開いた。


「左遷された元の知事は、ウンチュウにとどまっているのか」

「一度隣接する地域の主任に任命されたそうですが、慣れない土地でそれもかなりの降格、暫くして役を辞したそうで……今はウンチュウに戻って静かに暮らしているようです」

「ふむ……話を聞ければな」

「興味がありますか?」

「うん、その村の話を聞きたい。首都で宰相はその事には一切触れなかった。不祥事の話をして弱みを見せたく無かったのかもしれないが……縁戚のインリーをわざわざこんな辺境に配置するのが気になるな。何かあると考えるのが妥当だろ。どうやら足止めの理由もその辺りにあるかもしれないな」


アルフォンスの呟きにルトヘルは頷いて、オーケに目くばせした。すると心得た、と言うようにオーケは頷いた。


「では前知事の居場所を確認して、渡りをつけてみましょう」

「頼む」


しかし前知事との接触は叶わなかった。


この後前知事は姿をくらまし、直後にインリーから蛮族の討伐を開始する為の通達が首都から届いたと連絡が入った為、その後を追う時間の余裕がなくなったのだ。




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