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11.勝手な言い分



「さっきから黙って聞いていれば、勝手な事ばかり抜かしやがって」


ニークが怒りに歯を剥き出すと、ウートウシュは薄い微笑みを湛えたまま目を細めた。


「カルス少尉は少々血の気が多いようですね。血圧を下げる薬湯をお分け致しますか」

「……っ」

「ニーク、ちょっと落ち着いて。気持ちを乱してはウートウシュ様には好都合よ、おそらく感情の振り幅が大きければ大きいほど、心情が伝わり易いのではないかしら」


水面に雫を落とす程度の静かな響きに、ニークはハッと平静を取り戻した。零れ落ちそうに大きな黒い瞳を、クリクリと興味深げに見開いたウートウシュを見て、リーフェの指摘が的を射ている事を理解する。


「ウートウシュ様、薬湯は不要です。こちらにも丸薬の用意はありますので……それより、おっしゃった『依頼』とはどのようなものなのですか。そしてアルフォンス様が生きていると言うのは―――真実なのでしょうか。こちらは貴女の感情を読む事が出来ないので、貴女の言葉が信用に値するのかどうか判断できません」


リーフェはキッパリと告げて、ウートウシュに向き直った。けれども驚きと期待にどうしても視線が揺れてしまう。『アルフォンスは生きている』そう信じてはいるものの、ホフマンの能力者と違いリーフェに易占や未来視の能力は無いのだ。


「ではお引き合わせ致しましょう。ただし、依頼が遂行される前に彼を連れ帰るなどと言う行いは謹んで下さい―――オリアン調査団長とクヴァイ大使の様に余計な事は考えない方が無難です」


リーフェとニークはウートウシュの台詞を耳にして、思わず顔を見合わせた。


「その……つまり、調査団の目的は最初からアルフォンス様の奪還が目的だと……?」

「ええ、ご存知なかったようですね。クヴァイ大使は大変素直な性分ですから……まあ、私共の言葉で言うと大変『読みやすい』方ですので。率直で直情型……感情のバリアが薄いのは勿論、思考が整然としているので高位の能力者にとっては初心者用テキストを読むような感覚なのです。最近は気を付けていらっしゃるようなので、私のように相性の良い者以外は読みにくくなりましたが」

「相性……」


探求気質のリーフェはつい読心に相性の善し悪しがあるのだ、と言う目新しい事実が気になってしまう所だったが、それどころではないと首を振って雑念を振り払った。何は無くともアルフォンスの無事を確認せねば、と。


「ではルトヘル様……クヴァイ大使は、アルフォンス様がご無事だと知っていたのですね。オリアン団長や団員も……?」

「少なくとも、オリアン団長はご存知のようですね。こちらに到着してから大使が情報を与えている筈です。ただ……老獪な方なので心に幾重にもバリアがあって、ご本人の意思は大変読みづらく、正確な所は分かりかねますが。思考が迷路のように入り組んでおりますし、ね。素直で整頓されたクヴァイ大使の頭の中を読む限りは―――調査団の主な目的は、アルフォンス様が依頼を遂行しようとしまいと、調査団員に紛れこませて連れ帰る事……らしいですね」


涼しい顔でそう告げるウートウシュに、ニークもリーフェも胡乱な視線を投げ掛けた。そのような自分達に不利になるであろう企みについて―――まるで意に介していないような素振りで話しているからだ。


「あの……では、何故ルト……クヴァイ大使もオリアン団長も私達にその事を打ち明けてくれないのですか?」


到着する以前、ルトヘルはリーフェ達の帯同を知らされていなかった。だからその時点では周知されなくても仕方が無いとは思うが―――首都に滞在中、告げる機会は何度となくあった筈だ。


「もしかして貴女方に見張られているから……でしょうか?」


ルトヘルの思考が読みやすいのだと……彼自身が気付いているならあり得る話だと思った。すると微笑みを湛えたまま、ウートウシュは首を振った。


「それもまあ、一割はあるかもしれません。貴女方を監視しているのは神殿側だけではありませんから」


ニークはヒヤリと背筋を震わせた。神殿側の能力者……巫女姫の勢力以外にも、自分達を見張られていたと言う想像は、相当危ういものに感じられた。しかも感情の起伏を知られてしまうなど、気味が悪いとしか言いようがない。しかし次のウートウシュの言葉はそれ以上にニークを驚かせた。




「大使は貴女に知られては都合が悪い事実を隠しているからですよ……リーフェ様」




そう呟くと、ニヤリと黒髪の巫女は口角を持ち上げたのだった。



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