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32.王弟の出立


その日の午後、壮行会は滞りなく進行した。


バルコニーに国王陛下夫妻と並び立つアルフォンスを詰め寄せた国民達が歓声を上げ褒め称え、無事の帰還を祈る声があちこちから響いた。手を上げて応えるキラキラ光る銀髪の精悍な若者は見上げる民の一人一人の心にしっかりと焼き付いた事だろう。


日が落ちてから開催される貴族や一部の豪商等を招いた壮行会が始まる前に、アルフォンスは将軍職に任ぜられた。ホフマン遠征では旗印として軍勢を率いる事となる。


翌日、日が高くなる前に遠征軍は王宮を出立した。

先発隊の中ほどに軍勢に囲まれたアルフォンスが、白い軍馬に跨り堂々と進むのが見えた。

王都からタイバー港までの行軍の両側を、凛々しい美丈夫の新将軍を目に焼き付けようと、国民が防波堤のように幾重にも囲い込む。どうやら大々的なパフォーマンスは今のところ大成功のようだ。


リーフェは王宮の物見の塔に踏み入り、その長く連なる大河のような行列をずっと見送っていた。


交換したペンダントの真珠を、そっと掌に包み込んで。







その六月後、書簡が届き遠征は更に六月延長される事となった。

一年後―――ホフマン首長国軍及びズワルトゥ王国連合軍は蛮族を退ける事に成功したが、王都に帰って来たのはアレフの影武者をしていた護衛の青年だった。


雪山で滑落し行方不明になったまま―――アルフォンスは未だ見つかっていないと言う。


アールデルス侯爵からそう伝えられた時、リーフェの周囲がグルリと回転した。


ペンダントの真珠を握りしめたまま真っ青な顔で床に倒れ込みそうになったリーフェを、護衛として付き従っていたニークが抱き留めた。




国王は英雄となった王弟が行方不明となった事実を隠蔽する事とした。


遠征で活躍したが傷を負い王宮深く療養していると発表し、公的な行事に参加させない体裁を整える。このままもう一年間、アルフォンスの身柄か―――遺体が見つからなければ、そのまま傷が元で亡くなったとし、遺体を晒さずに国葬を行うことになるだろう。


ズワルトゥ王国では秘密裏に捜索隊が組まれる事となり、翌日彼らはひっそりとタイバー港を出立したのだった。



『ズワルトゥ王国編』はこれにて一旦終了します。


後半の『ホフマン首長国編』は元原稿がありませんので、申し訳ありませんが追加投稿のペースがこれまでより遅くなる予定です。ゆっくり更新となりますが、続きもお付き合いいただけると嬉しいのです。


ここまでお読みいただき、有難うございました。


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