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31.温室の約束



ゲラゲラと、二人はお腹を抱えて暫し笑い転げる。

このところ悩んで思い詰めたり、真面目に愛を囁いたり―――と、良くも悪くもシリアスの雰囲気が続いていた。二人の間には今までにない妙な緊張感が、ずっと横たわっていたのだ。

その反動なのか空気でパンパンになったシャボンが弾けるように、一気に真面目な空気が爆発してしまった。二人は暫く笑い合った後―――痛くなるくらい強張った腹筋を押さえて、なんとかお互い自分を取り戻す事に成功した。


「あー、可笑しい……久し振りに大笑いしたな~!」


アルフォンスは、目尻に浮かんだ涙を拭って言った。


「そうだリーフェ、後ろ向いて。今付けてあげるよ」

「ありがとうございます……はぁ、あぁ苦しい……」


リーフェも、胸を押さえて苦しそうに頷いた。


彼は彼女の白く細い首に、繊細な鎖を巻き付けて器用に留め金を留めてくれた。リーフェも彼の見た目よりもがっしりと鍛えられた首に緑色の宝石のネックレスを回した。アルフォンスは小柄なリーフェが作業し易いように、膝を屈めてジッと大人しく待ってくれている。


「はい、終わりましたよ」


細かな掛金に苦労しながらネックレスを着け終わりホっと息を吐き出すと、アルフォンスは膝を伸ばしてリーフェに向き直る。

それから当然のように、自然にリーフェの腕を引いて胸に抱き込んだ。柔らかい体を堪能し、栗色のふわふわとした手触りの、気持ちの良い髪に唇を付ける。十分その感触を自分の体に刻み込んでから―――おとがいを優しく持ち上げて唇にキスを落とした。


またそれが深くなりそうな予感に……リーフェの体が少し震えてしまう。


予想通りと言うかやっぱりというか―――だんだんと容赦が無くなるのそ行為に、彼女は少し戸惑いながらもされるがままになってしまう。これまで二人の間に厳然と存在していた薄い理性の膜は、神殿でアルフォンスが破り捨ててしまっていた。

リーフェの腰に回っている大きな手が、何やら不穏な動きをし始めたので彼女はギクリと体を強張らせた。


その手はリーフェの腰の辺りを探っていたかと思うと、だんだんと背中を登って行き、何度か撫でるように這う。

リーフェは反射的に腕を突っ張ろうとしたが―――口付けに夢中になっているアルフォンスはそれに気付かない。それどころか無意識に逃すまいとするかのように、頤に掛かっていた腕ががっちりと彼女の腰を補足し、彼女の自由をアッと言う間に拘束してしまう。


「む……ぅ……!」


抗議の声ごとリーフェの吐息が彼の口に吸いこまれた。


リーフェは慌ててドンと、彼の胸を叩いた。

アルフォンスはそれにも頓着せず、徐々に彼女に覆いかぶさるように体を前のめりに倒して行き……そのままリーフェを抱えるようにして温室の休憩用テーブルに押し倒した。

そしてやっと唇を解放すると両手を彼女の顔の横に固定して、その上気し朱くなった顔をじっくりと眺めた。息を弾ませるリーフェの少し乱れた茶色の髪が艶っぽく映り、彼は暫し黙ってそれに見惚れてしまう。

近い距離と初めての状況にドギマギしてリーフェは大きく胸を弾ませた。


「アレフさま……お戯れを……」

「戯れじゃない、本気なんだけど」

「……あの、そろそろ戻らないと準備が……」

「最後の逢瀬なのに―――どうしてリーフェは俺を追い返そうとするの?」


拗ねたように首を傾けるアルフォンス。


最近ほとんど彼が見せなくなった、そのかつての少年がよく見せていた甘えた仕草に―――リーフェの心臓は撃ち抜かれた。


「アレフ様……ずるいです」


むぅっと口を尖らせると、王弟は爽やかに笑った。


「狡くて、結構」


ニヤリと笑って。彼の顔が再び徐々に近づいて来る。

温室に差し込む光が彼の銀髪をキラキラと輝かせた。如何にも嬉しそうに笑う作り物のように整った面差しに―――リーフェは思わず魅入られた。


唇と唇が再び邂逅を果たそうとしたその時。




ドンドンドン!




温室を苛々と叩く者がいた。

リーフェはハッと我に返り、それからニパッと笑顔になって目の前の男性に促した。


「……アルフォンス様、お時間です」


そうして如何にもウンザリと言った表情を作った彼の子供っぽい表情に、フフっと笑った。


「仕方ないな……」


アレフはしぶしぶリーフェの顔の両側についていた手を離し、腕と腰を優しく支えて彼女の体をゆっくりと起こしてくれる。それから立たせたリーフェを見下ろして栗色の髪の乱れを整え、埃を払って服の皺を伸ばしてくれた。


リーフェは、妙な気分に陥ってしまう。


自分が昔、庭を駆け回って蜘蛛の巣や葉っぱまみれになった彼にやってあげた行為を―――今まさに逆に彼にされているのだから。

お世話される側になるのは、なんともこそばゆく妙な気分だった。呆気に取られるあまりされるがままになってしまった自分にも戸惑ってしまう。


「よし」


と満足そうに呟くと、アルフォンスは彼女の頬に手を当てた。そしてチュッチュッと額、瞼、頬に啄むようなキスを落とし、最後に唇を優しくついばんだ。


これで完了!とばかりに満足気な表情でリーフェの両肩にポン、と手を置き、それから神妙な表情で、彼女をヒタと見つめた。


「リーフェ」

「は、はい」


いかにも愛しいといった優しいキスを落とされ、優しく仕草で気遣われ―――色恋事にまるで免疫の無いリーフェの胸はドキドキと高鳴った。




「続きは帰ってからな」

「……はい?」

「約束だぞ!」




そう言うとクルリと踵を返し、アルフォンスはあっという間に温室の扉を開けて走り去って行った。


後には呆けたように立ち竦む、リーフェが残された。


展開が早すぎてついて行けない。


「『続き』は帰ってからって……」


想像して、ぼんっと頭が沸騰した。

真っ赤になって茫然と佇んでいると、温室に入って来たニークが近寄ってきて、目の前で手を振った。


「おーい。魂どこ行った?」


頬肉をつままれ、漸くリーフェは我に返る。




「まっかっか」




呆れたように両頬肉を赤茶色の髪の従兄に伸ばされたが、リーフェはいつものように反撃の声を上げる事も出来ずに―――されるがままになってボンヤリと頷く事しか出来なかったのだった。



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