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28.誓約

少し短いです。



柔和に細められる深い緑色の瞳の中に面白がるような光を認めて、アルフォンスは彼女は何を考えているのだろう、と思う。それより自分の事を考えて欲しい。別の事を考える余地が無いくらい、二人で会っている時は自分のことばかり意識させたい―――そう願わずにはいられなかった。

自分が思うと同じくらいの強さで、リーフェに夢中になって欲しい。


アルフォンスはリーフェの唇をそっと啄んだ。目を開けると、いまだ慣れない様子で顔を赤面させた婚約者の顔があった。


「リーフェ、真っ赤だ」


嬉しそうにアルフォンスは揶揄った。彼の年上の恋人は、初心うぶな様子で視線を彷徨わせている。告白して本当に良かった。こうして触れる事を許される立場に成れて本当にワクワクしている。もっと驚かせて、自分を意識して欲しい。


(可愛いなぁ)


温室の告白以降、彼は積極的に彼女に触れたり優しい言葉を囁くようになった。そのたび、朱くなる挙動不審な彼女が、どんどん可愛く見えて仕方なくなってくる。


リーフェの手を引いて、更に神殿の奥へ足を踏み入れる。

スリットから洩れる太陽の光は、輝く一本の柱のようだ。その手前に一段高くなった台が造り付けられていて、アルフォンスはそこに立ち―――リーフェの手を引いて、彼女を並び立たせた。


物珍しげにその儀式用の台を観察しているリーフェに向かい合って、両手を取った。


「婚約式しようか。二人だけで」

「アレフ様……」

「ホフマンで淋しくなったら、今日の誓約を思い出すよ。それで絶対ズワルトゥに帰って来て、皆の前で本当の婚姻式をするって気持ちを呼び覚まして―――頑張るから」


思い詰めたような真剣なキラキラした灰色の瞳から、リーフェは目を逸らせない。現在、二人の婚約は書類の上だけのもの。サインはしたものの、それぞれ別の場所で調印も国王と宰相が別々に行った。通常であれば、神官や王族、主だった貴族に祝福されこの神殿で婚約式を挙げ、盛大な披露宴を王宮と広場で行うべき処だった。


婚約式に一般的な令嬢のように夢を抱いていなかったリーフェだが、甘い声音で、熱い視線でアルフォンスにそう提案されると、心臓が跳ね上がってドキドキと鼓動が早くなるのを止められなかった。


「まず、俺が言うから―――返事してくれる?それから、同じことを俺に聞いて」

「え……」


戸惑うリーフェにアルフォンスはクスリと笑って、歌うようにうっとりと囁いた。


「汝、リーフェ=アールデルスは、アルフォンス=ファン=デ=ヴェールト=ズワルトゥの魂と共に一生涯あろうとする事を誓うか?」

「あ……ち、誓います」


アルフォンスは、華が綻ぶように笑った。

それは、とても幸せな微笑みだった。


「じゃ、言って」


そっと小さな声で促す。周囲に誰もいないのに、まるで大勢の賓客に囲まれた実際の婚約式の最中にこっそり囁く様子に……リーフェの緊張は高まった。


「え……と、『汝、アルフォンス=ファン=デ=ヴェールト=ズワルトゥ……は、リーフェ=アールデルスの魂と共に……一生涯あろうとする事を誓うか?』」

「誓います」


アルフォンスはきっぱりと言い切った。

そして満面の笑顔でリーフェをぎゅっと抱きしめた。



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