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26.婚約者の護衛騎士

「あのさ」

「何?」

「殿下が、もし心変わりしたら、どうすんの」

「心変わり?」

「そう、例えば、遠征先でホフマンの巫女姫と恋に落ちちゃったり、とか。向こうで出会った令嬢を連れて帰って来たり、ホフマンから帰りたくないって言いだしたり」

「うーん」

「まだ、殿下は十四だぜ。半年で別人に成長しちゃうかもよ」

「うーん……その時にならないと判らないけど……国の為になる結婚であれば、身を引いてもいいかな。それに殿下が幸せなら言う事ないし」


ニークは目を眇めて、従妹を見下ろした。


「ほら、やっぱり姉視点じゃないか。俺にしとけばいいのに。漏れなく、めっちゃ強いじーさんも付いて来るぞ」

「お祖父様は付録じゃないでしょ。それに、姉視点だって別に良いじゃない。貴族の結婚なんて、会った事も無い相手の場合もあるんだから」


リーフェは、お茶を一口飲んで口を尖らした。


「半年俺と一緒に過ごしたら、リーフェも俺と離れたくなくなるかもよ。そしたら婚約解消して、うちに来いよ」


リーフェは目を見開いてニークを見た後―――呆れたように溜息を吐いた。


「あのねえ、私婚約したばかりなんだけど。どうしちゃったの?ニークらしくない」


ニークは、ニヤリと嗤った。


「俺は元々こういう人間さ。今までリーフェに遠慮して本音を言わなかったんだ。『最後の最後まで、諦めない』っていうのが……うちの流派の極意だからな」

「カルス流の神髄って『水流握剛ながれるみずはごうをもつかむ』じゃ、無かったっけ?」

「よくわかってるな。やっぱり、うちの嫁になるべきだな」

「……ニーク、クラース様みたい」


困ったように眉を下げたリーフェに、今度はニークが溜息を吐いた。


「いや、あの方と一緒にしないで。そこまで節操無しじゃない。リーフェしか口説いてないし」

「くど……」


リーフェは、真っ赤になって口を閉ざした。

髪をなぶる風の温度が下がったようだ。アールデルス邸の庭に設置されたテーブルが少し冷たい。リーフェはハっとして立ち上がった。



「……それどころじゃ無かったわ。学院の農場の世話に行かなきゃ。あ、ニークはどうせ私の護衛で一緒に行くのだから、水撒きくらい手伝えるわよね。じゃ半年間よろしくね!」


急に自分を取り戻したリーフェから、先ほどまでの萎らしさ消え去っていた。


「それどころじゃないって、ひどいな……普通、護衛は水撒きなんてしないんだけど」


ぶつぶつ言いながら、ニークはリーフェの後を追った。

そして結局、水撒きだけでなく草取りも手伝う羽目になったのだ。


「やっぱりこの仕打ち、酷いわ……」


ニークは農場で草を摘みながら、そう呟いたのだった。



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