プロローグ
片手に大荷物を抱えて、片手で本を読みながら一心不乱に帰宅する。これが、前髪で目が隠れ、更にはマスクで顔を覆いフードつきのパーカーを着ているとあればもう不審者の出来上がりである。
そう、今現在の私のことである。
いや、待ってくれ。私は決して怪しいものではない。ただただコミュニケーション能力に異常が見られる引きこもりな高校一年生である。あ、ただのじゃないや。
まぁ、細かい所は気にしないで頂きたい。私は、今買ったばかりの今月の新作本を読むのに必死なのだ。
いつもならパソコンで購入してしまうはずの本は、しかし今回、私は自ら足を運んで購入した。理由は簡単で、私の愛してやまない親友のパソコン様がいかれてしまったから。年中無休で使っていたら一年二年と持たずにぶっ壊れるであろう。ごめんなさい私が全て悪かった。
新しいものをここぞとばかりに購入したは好いものの、今は丁度新しい機種が出たばかりで在庫がなく、我が家に着くのは明日と言われてしまったのだ。
その間は、スマフォが親友だぞ。
「はー……。どうしよう……最悪だ」
何がどうしょうかというと、果たして私は明日までスマフォだけで生活できるのかという大問題に対してどうしようなのだ。
いくらスマフォが、今やパソコンと同じような高性能になっているからとはいえども、違う所は沢山ある。そもそも、私は画像やら画像やら画像やらを全て膨大な量のUSBに保存しているのでそれが見られない。更には、画面が小さいから目が疲れるし肩が凝る。
「はぁ……」
「ねーね、おかーさん!あの人面白いよー?」
「こら、見ちゃだめよー」
おぉ、あれか。よく言う、「あんな変な人見たら頭可笑しくなるわよ」っていうあれか。こちとら慣れない環境の中信号待ちをしているんだぞおいこら。
「ねーねー、おかーさん!」
「あ、もしもし。はいはい。はい、もう少しで到着します」
「ねーねー」
煩いなぁ、という視線でチラリと親子の方を見る。誰かと話す母親は、全身で構ってと表現する男の子を片手であしらっている。不満そうに片頬を膨らませた男の子は、持っていた赤い車のおもちゃをいじっていた。
嘆息しつつ視線を信号機に戻す。赤く染まった信号機は、残り時間を示す赤い点を半分も残していた。
まだかなぁ。
「……あ、車ぁ」
「ちょ、ゆうくん!?」
突然、視界に転がってきたのは、見覚えのある赤い車のおもちゃ。
それを拾いに道に出る男の子に、片手運転の車がつっこんでくる。
いつの間にか、体が勝手に動いていた。
普段動かしていない体を条件反射の速さで動かし、男の子のその小さな体を突き飛ばす。ぱっと方向転換して車の方を向けば、運転手が慌てたようにブレーキを踏んでいた。もう遅いよ。これからは携帯片手に運転はやめてね。
ブラックアウトしていく視界には、真っ赤な鮮血と、泣きそうな顔でこちらを覗き込む男の子の顔が写っていた。