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昼休憩は突然に

遅くなり申し訳ございません。

いつも見て頂いている皆様に感謝です。

m(_ _)m


暖かな日差し、青く澄み渡る空を小鳥たちが楽しげに囀りながら飛び交い、優しく穏やかな風に乗って爽やかな花の香りがしてきます。花の香りを届けてくれた風は私達が座る新緑の草を揺らしながら遠くへと行きました。

白を基調とした緻密な織敷物に座りながら飲む花茶のサラリとした仄かな甘みと花蜜と砕いた豆を練りこんだお茶請けは味もさることながらカリカリとした食感が絶品でいくらでも食べれます。

ああ、至福。



遠くの方では、


「ミサさんやぁ〜…ごはんはまだかのぉ……」


「おじいちゃん、ごはん食べたでしょ?」


お孫さん?と最長老様のほのぼのとした定番の声が聞こえてきます。

私もそちらに行きたい、そしてお茶の間の定番台詞をリアルで聞きたいです。

しかし現実逃避する私を戻そうとする悪魔の声が最長老様の所へ行くのを引き止めるのです。



「さぁ、我が君。こちらをお召し上がり下さい。わたくしが我が君の為にご用意したステーキですわ。

そのままがぶり、と豪快にどうぞ。さぁ、さぁ」



目の前には赤紫色のプシュープシュー、とガスが抜ける様な異音を発する視覚の暴力の様なグロテスクな肉の塊を一押しするプリシラさん。

あまりの見た目に周囲は通夜のように静まり返り、あの守護竜達ですら無言にさせる正に視覚の暴力。

食べる以前にこれを調理したプリシラさんにドン引きです。わ、私お菓子でお腹がいっぱいなのでご飯は要らないですよ〜。



「…ギ、ギャオ〜ス…」


私のお膝にいるハチが涙目でブンブン首を振り危険危険超危険、と訴えてきますが安心してください。私にも人権というものがあります。



「さぁさぁ、これは我が君の為に私自ら地上へ狩りに出た時に見つけた獲物ですわ。なかなか手こずりましたがその分きっと美味しい肉に違いありません。

…ただ残念なのは凄く大きかったのにブレスで焼いたらこのサイズになりましたの。北方にもあんな不思議な生き物がいますのねぇ、私初めて見ましたわ」


「…北に大きくてお前が手こずる魔獣……プリシラ、これは何処で狩ったんだ」


頬に手を当てほぅ、とため息をついたプリシラさんに北を守護するガイラルさんが何か心当たりがあるのか目線を向けましたが何故でしょう?若干引きつって見えるのは。

そんなガイラルさんにも気付く事なくプリシラさんは得意気に深緑色が印象的な崖下にある洞窟にいましたのよと高笑い付きで答えを聞いた瞬間、顔を青ざめさせ呻くようにオンボロボロか、と呟きました。……ボロボロ?


「………ちょっと待ってちょうだい。この肉あの化け物の肉?……嫌だ、こっちに持って来ないでーっ!リンちゃんも食べちゃダメーっ!」


「化け物?」


「我が主様、オンボロボロは極北の孤島に生息する魔獣です。年に数回食事の為に外に出る以外は洞窟の奥深くに居ますので害はないと放置していました。ただ特徴の一つに一度怒り狂うと周囲を破壊するまで止まらず更地に変える程の力は驚嘆に値します」


バーサーカーですか、怖いですね。


「ちょっと、ガイラル。あんた一番の特徴を何で話さないのよ!そういった真実を告げない事は良くないわ。

リンちゃん、よく聞いて。オンボロボロってのは、さっきのたまこがしの岩ぐらい大きさで見た目は…そうね赤紫のドロドロのスライムにすね毛みたいな毛が生えている触手が何百とくっ付いてウネウネ動いてるの。

あたしも昔ね見物がてらで行ったけど愛剣を触れさせるのもおぞましかったからそのまま帰ったぐらいよ」


……ウネウネウネウネ。

ドロドロは焼いて固まってるのか肉の形ですがウネウネのすね毛。

プシュープシューの異音は何かの副作用?焼いたことによる化学反応ですか?……グラリ……目眩が…倒れたいです。…ウネウネ、ウネウネ…すね毛がウネウネ…。

現実逃避で遠い目になった私の傍でアゼルさんが横で即座に炭にしてくれました。普段は頭の痛い貴方の傍若無人ぶりも今は最高にありがたいです。



そして喚くプリシラさんの存在をまるっと無視し私の前に並べてゆくお皿の数々。

曇り一つない磨き上げられたカトラリー、白磁の器には彩り豊かな料理の数々。こんなのテレビで見たことありますよ。

目にも楽しい鮮やかな彩りの野菜とお肉のテリーヌに出汁で炊いた野菜のお煮しめに、日本の味照焼きハンバーグ、真っ赤な色が食用を誘うエビチリ、パセリを散らしたジャ芋の冷たいスープ等々。

言わば満漢全席多国籍バージョン。



「…アゼル、あんたいつの間に用意したんだい…」


「出発直前まで僕ら一緒に仕事してたよね。時間なんてほとんど無かった筈だよね」


「時間など30分もあれば出来るでしょう」


「一品なら兎も角この品数は無理だ」



そう、刻んで煮込んで炒めて冷まして蒸かして味付けして、そんな手順を踏んで作る料理が全て揃ってるのです。…アゼルさん最強伝説にまた一つ書き込まれました。



勧められるままに、先ずは目の前のお魚をパクリ。



……美味しい。


丁寧に練った濃厚ホワイトソースと独自で調合したクレイジーソルトで下味された白身のムニエルの上に掛かったさっぱりとしたオレンジソースがまた絶妙です。

付け合わせの蒸し野菜は花の形に切られまるで白い水に浮かんだ花の様で、味良し見た目良しでこれ以上はない程の一品に仕上がっております。正直OL時代に一度だけ自分にご褒美と、友人二人で食べた某有名レストランの料理より美味しいです。……ふふふ、あの時はボーナスの四分の一が飛んでいったんですけどね…。


………。

何でしょう、このムカムカ湧き上がってくる理不尽な怒りは。

一応前世という下地がある私は料理はそれなりに他の方々よりも出来て当たり前、しかも料理本やネットなどレシピも簡単に手に入る環境に居たのですが、アゼルさんが料理に興味を示したのはつい最近のこと。しかも今回は仕事に追われ自由な時間など無かった筈。現に他の守護竜達は何も用意していませんし。つまり初心者が短時間で三つ星レストラン並の料理を作ったわけですか……ふん、ハイスペックなんて嫌いです。



「如何でしょうか我が主様。お時間があれば特別に育てた素材を使ったのですが……貴方達、何をしてるんです」


「ムグムグ…ぷはぁ、美味いけど何かちまちましてるねぇ。男の手料理ならもっとこうどーんとしたのを作りな」


「…うあー、ハムハム……ングッ、これを一人で作ったの?凄いを通り越してかなり引くんだけど。やっぱりアゼルって結婚出来ないタイプだ、無意識に女性に喧嘩を売ってる天敵ってやつだね、あははは」


「しかしこの人参で出来た鳥は凄いな。羽の一枚一枚や尾羽まであるぞ。相変わらず無駄に器用だな……ガリガリ…」


「何を勝手に食べているのです。それは我が主様の食事です、貴方方はその辺の虫でも食べていなさい!って聞いていますか!?」


「いいじゃねぇか、メシは皆で食うもんだ。……マジでうめぇな、アゼル嫁に来るか?がっはっはっ」


「シャリシャリ……ふ、ふん、まあまあですわね。

でも!アゼル様のより私のステーキの方が何千倍も美味しかったはずですわ!ああ恐ろしいですわ、私の才能に嫉妬し炭にしてしまうなんて」



プリシラさんは何処からその自信は出てくるのでしょうか?

アゼルさんの講義も虚しく、イナゴの大群並みのスピードで食い荒らされていく料理の数々と阻止しようとするアゼルさん。


生暖かい目で自然の脅威を眺めていたところイナゴ軍団、もといセシリードさんがボイルしたでっかい海老を片手にこちらに近寄ってきました。



「プリシラちゃんって凄いポジティブね〜。それよりアゼルの料理が食い荒らされてるけど、リンちゃんどうするの?」


「私の食事はある、あちらにな」


「あらら?」


私が指差す方向には他の参加者全員私に食べさせたいと、思い思い自慢の一品を持って蟻の行列よろしくずらりと並んで待っているのです。正直驚きました。人数にもですがその手に持っている料理に。


加工していない自然そのままの果物や無難なお菓子が一番嬉しいのですが、皆様此処ぞとばかりに力を入れたらしく器の中には何やら怪しげなまだら模様の野菜炒めや目にも鮮やか黄緑色の魚の活き造りをピチピチ……いえドカンドカン跳ねるのを必死に器の中に押し込んでます……向こうには羽根がコウモリそっくりな姿焼き?も見えますが貴方達、嫌がらせではありませんよね?

もともと私達ドラゴンは大気中から魔力を取り入れ体内で変換するので食事の必要はないのですが味覚はあるので飲食は嗜好品程度だったのです。しかし私が食べることが好きなのが知れ渡り今、竜種の間で一大料理ブームが起きてるとか。

でも料理本などある訳が無く皆様試行錯誤で今に至る、と。

……誰かに習うという発想は無かったのでしょうか。全てゲテモノにしか見えません。見た目って大事ですよねぇ、食欲が半減しますから。日本人は料理は勿論のこと椀一つにしても汁椀、煮物椀、蒸し椀等があり、木椀や漆塗り等、見た目や器も大事なのですよ。ですから巨大目玉が浮かんだスープを正体不明の頭蓋骨に入れるのは止めて下さい。

………うう、胃が痛いです。今すぐ火事とか起こりませんかね。いやいや、彼らを否定するのは良くありません。世界で不思議を発見するテレビでは現地の人にはコウモリの姿焼きは御馳走だったではありませんか。昆虫は貴重なタンパク源ですし。うん、ミステリー狩人のお姉さんもありがたく(?)食べていたはずです。皆様が私の為に作ってくれたもの。私も女です、心を込めた料理をありがたく頂きます。(プリシラさんの料理を除く)



「リンちゃん愛されてるわねー」



愛されてる自覚はありますがそれが嬉しいかと問われれば別、と言わさせて頂きます。

今の気分は差し詰め料理コンクールの審査員といったところでしょうか?ただ一つ言えることは世界的な一流シェフによる美食コンクールではなくど素人の一般人(?)による闇鍋的コンクールですが。



「……私の為に、と作ってくれた食事だ。全て食べるのは無理だが一口だけでも、な」


もったいないオバケが来るのです。


「あたし、リンちゃんのそういうところ好きよ」


「………」



頭一つは高い身長を屈め顔を覗きこんだセシリードさんの端正なお顔が。

ち、近い近い近いですっ!?あわわ、ドキドキ心臓が。


「ふふ、少しは意識してくれた?」



優しく笑うセシリードさんですが目が笑っていますよ。ええ、ええしましたよ、しましたとも。悪いですか確信犯セシリードさん


悔しいので意識したことは秘密です。






忙しさのストレスの所為で、ゲームソフトを二本買ったのが遅れた原因の一つだったり思わないでもないような……。

(−_−;)

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