反省は突然に
「プリシラちゃん、あの背中の刺繍なんかいい趣味してるわね〜」
「ほほほ、ありがとうございます。私も気に入っておりますの。因みに一番のオシャレポイントはピンクのレースですわ。
う〜ん、でもやはりウサギの着ぐるみも捨てがたかったですわ。タレ耳の黒兎ですの、ダーリンにピッタリでしたのに」
自分の夫に女装(着ぐるみ可)させる事を趣味の一言で片付けていいのですか?………ふむ、可愛らしいからいいのかなぁ。うん、いいかも。可愛いは正義ですし。
因みにダーリンさんはドレスの裾に足を取られ、顔面から盛大にずっこけて負けました。試合後プリシラさんに治癒魔法をかけられながら褒められていましたが、世の中にはいろんな夫婦が居るんですねぇ。奥が深い。
この他にカボチャパンツの王子様や花魁風のお姉様、困り顔の白兎、頬袋をパンパンにしたリス、腹巻きを巻いた猫やミニスカのコスプレ等、多種多様な格好で走り、ファッションショーの如く私の前になるとクルリと回転する者、決めポーズ、敬礼等、皆さん何かしらをした後猛ダッシュでゴールに向かう姿はほっこりと笑を誘い心穏やか一番安心して見られます。
ああ、このまま最後まで仮装リレーで構いませんのに。
次は、……ガイラルさんですか。
をを、所々に金の装飾や房が付いた黒が強いミッドナイトブルー色の鎧を見に纏っています。中国の三国志に出てきそうな鎧ですが、またそれがストイックなガイラルさんの為に設えたかの様に良く似合うこと。
しかもそのイケメンがこちらを見つめた後、微笑む姿に自然に頬が染まるのは仕方がありませんよね。なのに何故皆さん殺気立つのですか?イケメンは目の保養なんですよ。ほら、向こうでもお年寄りから若いメス達もキャーキャー黄色い声をあげていますし。
イケメンは何を着てもイケメン。芸能人が108円のTシャツを着ていてもブランド物に見える自然現象と同じなのですよ。
「とても良く似合っている。かっこいいな」
だから何気なく呟いた言葉。だって乙女ですもん。でも私はこの時、自分の発言力の大きさに気付きませんでした。
「……一体何なのだ?」
「えー、本人に自覚無し?リンちゃんがガイラルを褒めたからでしょ」
何処と無く面白くなさそうなセシリードさんの口調ですが、褒めましたよ、かっこよかったんですもん。でもまさかオスもメスも皆さん全員鎧姿で出場するなんて思わないじゃたいですかー!第一何です皆さん、そのかっこいいだろう惚れるなよ、的な決めポーズは?一体いつの間に鎧なんて用意したんですかー?
「何だぁ、こんな所に鎧を放置するなよな。誰のだ?」
「最近の奴らは片付ける事を知らん。……おいちょっと待て。この鎧誰か入ってるぞ」
「おい、誰だおま………最長老様ーーっっ!?」
「こ、呼吸してないぞ!年寄りがこんな重い鎧を着るからだ。おい誰か、治癒魔法を使える奴を至急こっちに寄越せ!!」
遠くの方で何か大事になっているらしい声が聞こえて来るのは気の所為です。聞こえません聞こえません聞こえませーん。
内心汗がダラダラ出ている私にセシリードさんがポンッと肩に手を置き、小さな子供に言い聞かせるようにゆっくり言いました。
「あたしなら兎も角、これに懲りたら簡単に人を褒めちゃダメよ。」
「…そうする」
はい、まさかこんな事態になるなんて想像もしていませんでした。今後は大事になるのでセシリードさん以外は褒めてはいけないのですね。了解しま………ん?あれ、何かがおかしいような?
「…疲れた」
やっと、やっとお昼休憩。つまり折り返し地点ですよ、頑張りました私。
花茶を啜ると温かくほんのりした甘さが五臓六腑に染み渡り心の疲れが癒されるようです。
「主様、お顔が疲れてるです。お茶に蜂蜜を入れたら甘くて元気でますよ。僕のあげますから全部入れてください」
どんっと目の前に置かれたのは、小さな薔薇の模様が可愛らしい白い陶器で出来た花蜜の壺。因みにドッチボールサイズ。うん、リオ君。君の優しい気持ちだけ貰っておきますよ。
前の競技でガリガリ何かが削られてしまいましたので休憩は素直に嬉しいです。
…応援合戦、あれ程恐ろしい応援がこの世の中にあるなんて。
応援合戦は歌ったり踊ったり、と場所場所で様々でしょうが、基本はチームを応援する競技なのです。
そう、応援なのです。
赤組ではルトさんを中心としていました。
「ねぇ、分かってる?分かってるのかなぁ君たち。僕ら負けているんだよ。これは由々しき問題だよね。我が主様に無様に負けた姿を晒すつもり?そうかー、だからこんなになってるんだねー。でもそれって生きる価値無いよね、無いに決まってるんだよ。そんな無様な姿を我が主様の前に晒すぐらいなら僕が直々に引導を渡してあげるから言ってね。え、そんなつもりはない?そうだよね、そんな生き恥なんて最低だよね〜(途中省略)〜どんな手段を使っても勝てばいいんだよ〜(途中省略)それの具体策はやっぱり薬だよね。ついでに罠を仕掛ければ完璧!後は〜」
アメシスト色の神秘的な鱗が大袈裟な動きとともに煌いて目を奪われる程に美しいのですが、物騒。ほぼノンブレスで口から出る内容が物凄く物騒。
そしてこれは応援合戦ではなく作戦会議の間違いではないでしょうか。
一方白組では。
「今は我ら白組が一歩リードしているがまだ余談は許さない状況だ!何故なら、白組の中に敵がいるからだ!そう、我らは魔王と死神にも立ち向かわなければならない。おそらく辛い戦いになるだろう」
ですか!、と続いたのは先程玉入れに出場していたオニキスドラゴンのマイラさん。
「皆様もご存知の通り私は一度、魔王様に屈しましたわ。
しかし仲間達の労わりと励ましによりまた立ち向かう勇気を出せたのです!
皆さん、私達は何度でも立ち上がれるのです。赤組と魔王、そして死神を共に倒しましょう!!」
皆さん涙を流し、拍手喝采物凄い歓声ですが……その、応援としては何かが果てしなく違います。
因みに絶対に出場すると思われた魔王さんと死神さん、そして超姉御さんは、試合そっちのけでプリシラさんと共に私のお昼休憩の場所作りをしておりました。……宝石もプラチナの王座も金のナイフもフォークも必要ありませんからね。




